第286話 麒麟園さんの怖い話~おじいちゃん。中編その1~

従姉いとこを求めて、少し経つと、私は伯母の家の中で迷子になってしまいました。

伯母の家は古く、そしてとても広く、幼い私にとっては家の中が迷路のようでした。

「ここどこ?」

声に出しても誰かが応えてくれるわけでもなく、次第に不安が募り、気がついたら涙がぽつぽつと零れていました。

「お姉ちゃん・・・ぐすっ。」

泣いて動けなくなってしまった私。

すると、そんな私を救うかのように音楽が聞こえてきたのです。

その音楽は寂しくて泣いている私に元気をくれるような曲だったと思います。

私はその音楽を目指して再び歩き出しました。

『きっとお姉ちゃんが助けてくれたんだ』と、そんな風に思って。


音楽が聞こえる部屋に行くと、そこにはおじいちゃんが椅子に座ってラジオから流れる音楽をゆったりと聞いていました。

「おじいちゃん?」

「ん?おや?Mちゃんかい?こんなところでどうしたんだい?」

「私・・・迷子に・・・ぐすっ。」

「そうかそうか。この家は古くて広いからなぁ。Mちゃんじゃあ迷子になっちゃうもんな。ごめんな。じいちゃんが助けに行かなくて。」

「ううん。大丈夫。この音楽が私を助けてくれたよ。」

「そうかい?ハハハ。なら嬉しいね。この曲はじいちゃんのお気に入りなんだ。」

「おきにいり?」

「つまり、大好きな曲ってことさ。」

「私も好きーー!」

「ハハハ。そうかそうか。なら、ここにいるといい。この夏はじいちゃんとお話ししような。」

「うん!」

ニコニコと優しい笑顔を私に見せてくれるおじいちゃん。

私はすぐにおじいちゃんに懐き、おじいちゃんの話をたくさん聞きました。

おじいちゃんは話す前に戸棚から煎餅せんべいや和菓子を用意してくれて、お茶を飲みながら話を聞くのが、私のこの夏の過ごし方でした。

「なに?じいちゃんが子供のころ何やったか?そうだなぁ。Mちゃんはタガメを知ってるか?」

「ううん。知らない。タガメって何?」

「タガメっつうのは水生昆虫、つまり水の中に住んでいる虫さんだ。」

「虫さんが水の中に!?」

「ああ。タガメ以外にもたくさんいるぞ。ゲンゴロウやヤゴもそうだ。」

「ヤゴは知ってる!トンボさんの赤ちゃん!」

「ハハハ。そうだ。大正解だMちゃん。じいちゃんがガキの頃はタガメを追い求めて毎日のように田んぼや用水路に足を運んだんだ。今じゃなかなか見れないが、タガメは大きくてカッコイイんだぞ。」

「へ~。私も見てみたーい!」

「ハハハ。なら、田んぼに行ってみるといい。もしかしたら見つかるかもしれねぇな。」

「おじいちゃんは一緒に来てくれないの?」

一瞬、暗い、おじいちゃんだと思えない表情をすると、すぐさま笑顔になっておじいちゃんは自分の足を軽く叩いてこう言ったのです。

「じいちゃんは足を悪くしてな。田んぼまで歩けねぇんだ。」

そう言ったおじいちゃんは何だか、寂しそうでした。

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