第287話 麒麟園さんの怖い話~おじいちゃん。中編その2~

それからその夏は朝目を覚まし、朝食を済ますとすぐさまおじいちゃんの所に行ってお話しして、昼食を食べ、再びおじいちゃんの所に行き、お風呂に入って、夕食を食べて寝るというサイクルで私は過ごしました。

「また来るわね。」

「ええ。いつでも来てちょうだい。Mちゃん、今年は本当にごめんなさいね。」

「ううん!いいの!お姉ちゃんにバイバイって言って。」

「うふふ。は~い。」

従姉に会えなかったのは寂しかったが、その代わりにおじいちゃんからたくさんの話を聞いた私は充実した夏を過ごしました。

その次の年から中学に上がった従姉は部活で忙しく、夜しか会えなかったため、昼間はおじいちゃんの所で過ごすようになっていました。

「おじいちゃんはずっとここにいるの?」

「ずっとはいねぇな。じいちゃんにもやることがあるからな。」

「やることって?」

「ハハハ。秘密だ。話しちゃなんねぇのよ。」

「え~。私にだけこっそり教えてよ。」

「ごめんなMちゃん。こればっかりは教えられねぇ。その代わり、今日もいっぱい話してやっかんな。」

「うん!」

そうやって過ごしていたある日、夜従姉と話していた時です。

「ごめんねMちゃん。部活ばっかりになって全然遊んであげなくて。」

「ううん大丈夫!おじいちゃんと話してるから。」

「おじいちゃん?近所の人かな?この辺はお年寄りばっかりだもんね。ねぇ、Mちゃんの言うおじいちゃんって私も知ってる人?」

「知ってるよ?なんで?」

「ううん。それならいいの。なら・・・安心かな?」

この時の私はあまり気にしませんでしたが、今考えれば従姉の言葉はおかしいのです。

何故なら自分の家にいるおじいちゃんと話しているのに、何を心配するのか、どうして近所などと言うのか。

その言葉を理解できたのはしばらく経った後でした。


中学生になった私は部活や恋に、友達との遊びでいっぱいいっぱいで、伯母の家に行かなくなっていました。

よく母に、「Aちゃんが会いたがっていたわよ~。」と言われました。

それでも私は中学生活を優先して、結局会いに行くことは無かったのです。

「部活には入らないの?あんなに吹奏楽頑張っていたのに。」

「うん。ごめんねお母さん。私、自分専用の楽器を買ってまで吹奏楽を続ける勇気は無いんだ。」

中学の頃はレンタルできた楽器。

けれど、高校になると自分の楽器を持つことが当たり前で、お小遣いを楽器に全て使う気にはなれず、私は高校では吹奏楽には入りませんでした。

そして、皮肉にも今年の夏は暇が出来たのです。

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