第241話 高宮君の怖い話~探していた人は・・・。中編その1~

「何度も言うけどね。あんたは早くいいひとを見つけなさい。昔っから女っ毛が無いことが母さんの心配事なのよ。わかる?」

シングルマザーだった母はとても苦労をしたんだと思う。

僕が高校生になると、一週間に一回は彼女が出来たかの確認をしてくるのだ。

正直、思春期だった僕にとって嫌な気持ちもあった。

彼女が出来たとしてもそれを母親に紹介するなんて・・・したくなかった。

そのせいとは言わないが、結局この年まで彼女は出来たことがない。

けれど、母さんの気持ちもわかる。

自分が失敗したことを僕には体験してほしくないのだ。

「今度紹介したかったはね、呉服屋さんのむすめさんなんだけど、これがまたよくできたむすめさんでね・・・。」

「母さん。今日は休みだけど、色々と家事が溜まってるからそろそろ切るね。」

「そういうのも奥さんがいれば解消するのよ。あんたは立派な社会人、嫁の一人や二人ぐらい養えるでしょ。」

「いや嫁さんが二人いたら駄目でしょ。」

「あははは!物の例えよ!物の例え!」

「わかってるよ。」

「・・・A、仕事は辛くない?」

「うん、大丈夫。」

「体壊さないでね。仕事が嫌なら辞めてこっちに帰ってきてもいいから。母さん、あんたぐらいならまだまだ食わしていけるから。」

「・・・ありがとう。大好きだよ母さん。」

「母さんもよ。」

こんな風なやり取りを僕は毎日している。

マザコンって言って馬鹿にする人もいるかもしれない。

けれど、僕にとっては唯一の肉親。

母さんが心配性なのも、僕が母さんを気にかけているのも当たり前だと僕は思う。

「・・・なんか変な感じだなぁ。」

けど、この日は・・・いやこの日を境に母さんよりも忘れた夢の方が気になったのだ。


「おつかれ~。」

「お疲れ様です。」

「どうよAちゃん?今晩一杯行く?」

「えっと・・・。」

「大丈夫大丈夫!今晩は俺ちゃんの奢りよ。」

「すみません。何だかたかるような感じになってしまって・・・。」

「気にすんなっての。俺ちゃん、Aちゃんのことは高く評価してんのよぉ。その年で親にお金送ってんしょ?いい子過ぎるでしょ~Aちゃん。」

「はぁ。」

「だからAちゃんが頑張ってる分、俺ちゃんがAちゃんを可愛がってあげんのよ。・・・俺ちゃんも人の子の親になったからな。」

会社のB先輩はこんな感じで、癖のある人だけどとてもいい人だ。

この会社に入れたのもB先輩のおかげである。

知ったのは入社してからだけど。

「Aちゃん、仕事は楽しいか?」

「そうですね・・・楽しいといえば楽しいです。」

「そっかそっか。なら良かったわ。」

何故だかはわからないけど、あの夢のことを僕はB先輩に相談しなければならないと思いました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る