第218話 神楽坂さんの怖い話~おいでよ。中編その3~

けれど、母は何度も中庭には行ったそうです。

行く度にその女性は『おいでよ。』と書かれたスケッチブックらしきものを持ち続けていたそうです。

「あのさ、他に話せないの?」

『おいでよ。』

「もっとさ、あなたのことを教えてよ。名前とか。」

『おいでよ。』

「やっぱりダメか。ハッキリ言うね。私そこには行かないよ。」

『おいでよ。』

「だって、お母さんに怒られるし。それになんだか・・・。」

『おいでよ。』

「嫌な感じがするんだもん。」

チラッと女性を見ると、女性は寂しそうな顔をしていたそうです。


「え?行くの?」

「うん。」

「本気で?」

「おかしいかな?」

「おかしいに決まってるじゃん!名前も知らないし、会話もまともにしてないし。」

「いや会話は・・・。」

「『おいでよ。』って書かれてるだけでしょ?それは会話って言わないの!会話っていうのは今みたいにキャッチボールを・・・。」

「とにかく!私は行ってみる。」

「ちょ!?ちょっと!?私も行くよ!」

母はその女性の寂しそうな顔が忘れられず、会いに行くことにしたそうです。

「本当に行くの?」

「うん。」

中庭に行き、母は女性が立っている場所を指さしました。

「ほら、あそこに。」

「・・・え?」

けれど、友達には見えなかったそうです。

「い、いないけど?」

「いるでしょ!あそこに!」

「いないよ?え、Aちゃんには何が見えてるの?」

友達が嘘をついているように見えず、結局は母は行かなかったそうです。


「ねぇ、お母さん。」

「何よ。」

「この前さ、お父さんが私は見えるって言ってたじゃん。あれって・・・。」

「その話しをしないと、ダメ?」

母がお母さんを見ると、言いたく無さそうに顔を背けていたそうです。

「うん。教えて。このままじゃダメだと思うから。」

「・・・あんたはね、お婆ちゃんから受け継いじゃったみたいなのよ。」

「どういうこと?」

「お母さんのお母さんはね、幽霊が見えるって言ってたの。」

「幽霊を?」

「そう。私もお母さんのデタラメだって思ってたんだけど、どうやら本当らしいのよ。そのお母さんが、Aが産まれた時にね。『この子は見えるたちだわ。』って言ったの。嘘だと言って欲しかったわ。」

「じゃあ私は・・・。」

「幽霊が見えるのよ。だからあそこにも近づいて欲しくなかった。」

「え?どういうこと?」

「あそこは元病院だから。それにあんまりいい噂も聞かなかったのよ。」

その瞬間に母は理解したそうです。

あの女性が幽霊であること、そして女性が自分を仲間に引きづり込もうとしていることを。  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る