第217話 神楽坂さんの怖い話~おいでよ。中編その2~
それから母は何度も何度もその女性に会いに行き、何度も話しかけました。
けれども、その女性は微笑むだけで会話にはならなかったそうです。
次第に母は話を聞いてもらおうことにしたそうです。
「でさ、この前友達がね、男子に告白されたんだって。」
「・・・。」
「けど、怖がっちゃって逃げちゃったんだよ?男子が可哀そうだよね。」
「・・・。」
「あ、そうそう!この前言った・・・。」
「誰と話してるんだい?」
「あ、お父さん。」
「うん?誰もいないようだが?」
「何言ってるのお父さん。あそこにいるじゃない。」
「ん?・・・ああ、そうかい。」
母のお父さんは元々面倒事を嫌うタイプで、当時の母が言った場所には誰も見えなかったそうです。
けれど、母と喧嘩になりたくなかったそうで、それ以上は深く聞かなかったそうです。
「A、あんた最近中庭にばかり行ってるわよね?」
「うん。あ、この卵焼き美味しい。」
「ありがと。ってそうじゃなくってね。中庭が心地いいのはわかるんだけどね、最近友達と遊んでいないそうじゃない。今日もBちゃんが家に来たのよ。」
「遊んでるもん・・・。」
「誰と?」
「それは・・・わからないけど。」
「え?今わかりやすい嘘ついたの?」
「違うよ!本当に友達と遊んでるの!その、名前は知らないけど。」
「名前を知らないって・・・それって友達とは言わないでしょ。本当は嘘ついてるんじゃ・・・。」
「嘘じゃないもん!お父さんだって私がおしゃべりしてるの見たもん!」
「そうなのあなた?」
「うん、まぁその・・・なんだ。Aも見える
「え!?嘘でしょ!?」
「見える?え?何が?」
母のお母さんはお父さんの言葉に血相を変えていたそうです。
「いいことA!絶対に中庭に行ってはダメよ!わかった?」
「何で?私悪いことなんて・・・。」
「いいから!言うことを聞きなさい!」
お母さんに散々言われたのに、母は約束を破って中庭に行ってしまったそうです。
「本当に酷いよ!理由も話してくれなくて!」
「・・・。」
「あなたも!・・・え?」
愚痴をこぼしていたらその女性が何かを持っているのが見えたそうです。
その女性はスケッチブックのようなものを持ち、『おいでよ。』と書いてあったそうです。
「『おいでよ。』って・・・そこに?」
女性は反応するように頷いたそうです。
これまでどんなに話しかけても微笑むだけだったのに、その日は会話みたいなことが出来たそうです。
『おいでよ。』
紙に書かれているだけなのに、頭の中に声のようなものを感じたそうです。
「う~ん・・・。でも、お母さんが入っちゃダメって。」
『おいでよ。』
「いいの・・・かな?」
『おいでよ。』
母は悩んだそうですが、その日はいかなかったそうです。
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