第208話 式子さんの怖い話~佇む女の理由は。後編~

Bの部屋に泊まって数日。

ようやく雨が降った。

「ま、マジでやるのか?」

「ああ。」

「お、俺は知らねぇかんな!」

「・・・ああ。」

俺は階段を降り、女のいる電灯の下に近づいた。

相変わらず何処かを見ているその女に、俺は話しかけた。

「どうも。友人が二階に越してきたんで、遊びに来てるんですけど。お姉さんは何してるんですか?」

「・・・。」

反応はない。けれど、俺はやめなかった。

「えっと、この前は友達がうるさくしてすいませんでした。酔っぱらって騒いじゃって。迷惑じゃなかったですか?」

「・・・。」

何にも言わないどころかこっちに視線を向けもしない。

ずっと上のほうを見ているばかりで話にならない。

「えっと、何を見てるんですか?」

「・・・。」

「雨の日だけいるって聞いたんですけど、何か理由があるんですか?」

「・・・。」

「その、部屋は何処なんですか?中に入らないんですか?」

「・・・。」

「あの、その・・・ここに何かあるんですか?」

「・・・。」

「あ、わかった!誰か探してたりしてぇっ!?」

女は突然動き出し、俺の頬を両手で包み込んで視線を合わせてきた。

真っ黒な眼球が俺を鏡のように映す。

体温を感じない手が俺に恐怖を促す。

「・・・。」

「あ、あの・・・。」

『お前じゃない。』

機械のような、人の声帯じゃない音が耳に入ったと思うと、女は俺を放し、何事も無かったように先程と同じように佇む。

それからしばらく話しかけ続けたが、女は反応しなかった。

「ど、どうだったんだよ?」

「いや、何もなかった。」

「ふ、ふぅ。怖いことすんなよ!!」

俺はBに嘘をついた。

引っ越すBに関係ないというのもあるが、なぜか本当のことを言えなかった。

あの女が誰かを探してるかもしれない。と、いうことを。

Bは半年も持たずにそのアパートを出てしまった。

結局のところあの女の正体も、誰を探しているのかも、何で雨の日にしかいないのかもわからない。

けれどこれだけは言える。

あの女はまだ、あの薄暗い電灯の下に佇んでいる。

雨の日に。


「おしまい。」

おうふ。

これだよこれ!この体全体がゾクゾクする感じ!

「やっぱり式子さんの怖い話は最高です!」

「ふふ。そうかい?」

「これは自分も認めざる得ないでありマスな~。久々に嫌な汗を掻いたでありマス。」

「柑奈はどうだったかな?」

「・・・かった。」

「ん~聞こえないなぁ?」

「怖かったわよ!!あ~もう!凄すぎよ式子!」

「ふふ。喜んで頂けて私も嬉しいよ。」

「まったくそのネタは何処から手に入れるのよ。」

「自分も知りたいでありマスな。」

「僕も知りたいです式子さん!」

「ふふ。ひ・み・つだよ。」

あ~僕も話してぇ!!

明日は絶対僕が話させてもらおう!そうしよう!

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