第207話 式子さんの怖い話~佇む女の理由は。中編その4~

「それだけか?」

「いいえっす。ここからは俺の独自の調査と自論を交えるんすけど。いいっすか?」

俺はBたちに確認を取ってから先を促した。

「実は調べてみたところ、あのアパートが立つ前は会社。んでその前はスーパーところころ立て直されてるんっす。んで行きつく最後はお墓っす。あそこ、大昔はお墓だったみたいっす。んで、噂によると鎮魂の儀もせずにお墓を移動させて建物を立てたらしいんっすよ。だからあの女は自分のお墓が移動したことに気づいていないんっす。どうっすかね?」

「それは本当か?」

「嘘つくことはしないっす。けど、信じるかどうかはお客さんに任せるっすよ。」

店員に嘘をつく理由はない。

なら本当に?

「けど、わからないこともあるっす。」

「え?」

「あの女は何を見ているのか。そして何で雨の日にしか姿を見せないのか。この二つがわかんないんっす。」

結局俺たちは酒を買う気もしないまま帰ることにした。


「ま、まだいるんかな?」

「いるんじゃないか?」

「・・・なぁ。」

「何A君?」

「俺、あの女に話しかけてみるわ。」

「はぁ!?」

「おいおいやめとけよA。」

「そうだよ!何かあったら!」

「悪いが、俺は幽霊を信じてないんだ。」

意を決して俺はBたちを置き去りにしてあの女の下に向かった。

ところが、帰って来てみると女はいなくなっていた。

「いない?」

「な、なんだよ。いないじゃん。」

「よかったぁ。」

Bたちは安堵していたが、俺はあることに気づいてしまった。

「雨が・・・止んでる。」


その日はBの家にみんなで泊まり、翌朝帰った。

あれから特に何も起こることもなく、無事に帰宅した。

だけど、しばらくしてBが引越しを考えていると、相談してきた。

「もう引っ越すのか?」

「あ、ああ。」

明らかに怯えている感じだった。

「あの女か?」

その言葉を聞いてBは泣きながらに俺に訴えてきた。

「あの女、まだいるんだ。ずっとずっと雨の日はいるんだ。ずっとずっといるんだよ!」

Bが言うには、雨の日には必ずと言っていいほどにあの女がいる。

通路の電灯の下に何もせずに佇んでいる。

雨が上がるといなくなるらしいが、それでも不気味で仕方がないというのだ。

あの女の異常な姿を思い出すと俺にも理解できる。

だからBの引越しを俺は肯定した。

「なぁ。」

「な、なんだよ?」

「やっぱりあの女に話をさせてくれないか。」

どこからそんな感情が湧くのか甚だ疑問だったが、それでも俺は話してみたかった。

あの女と。

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