第82話 柑奈さんの怖い話~彼女。中編~
「あらこんにちわ。」
「は!?あ!?こ、こんにちわ!?」
彼女に魅入られていた僕を現実に引き戻してくれたのはすれ違いざまに挨拶をしてくれたおばちゃんだった。
慌てて挨拶をして、先に行こうとしたら彼女と目が合った。
恥ずかしくてよく見ていなかったが、目が合ったことに彼女も驚いていた様子だった。
僕は顔を逸らして先に行こうとしたんだが、「あの・・・。」と消え入りそうな声で話しかけられた。
「ひゃい!?」
情けない声が出た。
正直、逃げ出したかった。
「見えますか?」
「み、見えるって、あ、ああ!景色ね!うん!綺麗だよね!紅葉!」
「え?・・・そうですね。とても綺麗。」
笑った顔は子供っぽくてとても可愛くて・・・うん、一目惚れだった。
「きょ、今日は天気もいいですしね!」
「うふふ。そうですね。あの日とは大違い・・・。」
この時の俺は彼女の言葉を考える余裕がなかった。
「えっと、あ、貴方も紅葉を見にですか?」
「いいえ。その、なんとなくここに。」
「あ、ああ!そうですよね!僕も何となく紅葉が見たいなぁって思ってここに来たんですよ!」
「あの、この後は何処かに?」
「え!?あ、ああ!景色のいい場所でお昼ご飯を食べようかなって。」
「ご一緒しても?」
心臓が飛び出るかと思った。
今までこんな美人にナンパされるなんて経験、無かったから。
「ぜ、ぜひゅ!?」
なので噛んだ。
それも盛大に。
「うふふ。」
けれど、彼女の笑顔が可愛くてどうでもよくなった。
「そうなんですか。」
「ええ。だから今回は無理矢理休みを取った形なんです。」
「うふふ。けれど、それで私は貴方に出会えました。」
これ以上僕の心を奪わないで欲しい。
僕はどんどん彼女の魅力にはまっていきました。
「ここなんてどうでしょうか?紅葉が真っ赤な絨毯のように綺麗ですよ。」
「そうですね。じゃあここで・・・。」
(しまった!?彼女はお昼ご飯を持っているのか!?)
「どうかしましたか?」
「あ、いや、あの、その・・・えっと、貴方はお昼ご飯はどうするんですか?もし持っていないなら、その・・・おにぎりでよければあげますけど・・・。」
「では、いただけますか?」
「は、はい!」
正直にいえば、下心がありました。
僕はおにぎりを渡す際、彼女の手に触れたんだ。
とても柔らかくて、冷たかった。
「きょ、今日は楽しかったです!」
「私もです。それでよければなんですけど・・・もし、貴方さえよければ、その・・・。」
彼女の赤い頬が物語っている。
「もう少しだけ、私といてくれませんか?」
「はい!」
僕に迷うことなんて無かった。
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