第69話 麒麟園さんの怖い話~猿夢中編その2~

「大丈夫よ私、これは夢、夢なんだから。」

『え~次は~次はえぐり出し~えぐり出し~。お見逃しなく~うきき。』

Aさんが自分に言い聞かせていると、またアナウンスが流れました。

「今度は何!?」

後ろを向くと、先程と似たような小人が二人現れ、よく磨かれたスプーンで後ろの席の女性の目を何の躊躇ためらいもなくえぐり出し始めました。

「ひっ!?」

無表情だった女性の顔は、みるみるうちに痛みで嫌がる顔になり、Aさんの鼓膜が破れると思えるほどの大きな声で悲鳴をあげました。

眼球は飛び出し、血の匂いが漂い始めました。

(これは本当に夢!?嘘でしょ!?)

恐怖から体が震え、小人から逃げるように小さく丸まりました。

(もう起きよう!起きなくちゃダメだ!)

そう思い、目を閉じて開きましたが何も変わりません。

「何で!?何で起きれないの!?」

何度も試しましたが、夢から覚めれません。

そうこうしているうちに、無情にもアナウンスが流れました。

『え~次は~次は挽肉ひきにく~挽肉で~す。お待ちかねのお客様~大変お待たせしました~。うきき。』

Aさんの顔から血の気が引きました。

この後の展開が容易に想像でき、最悪な結果しかないからです。

(夢よ覚めろ!夢よ覚めろ!夢よ覚めろ!)

いつも以上に強く念じましたが、夢は覚めません。

「ウイィィィン。」

Aさんの耳に近くから急に機会の音が入ってきました。

喉を鳴らし、下を見ると、先程と同じ小人がAさんの膝に乗り、機械のような物をゆっくりと近づけてきました。

(嫌だ!?このままじゃ殺される!?お願いだから覚めて!覚めてよ!!)

恐怖から目を固くつぶり、祈るように念じました。

だんだんと大きく鳴る音、それと同時にAさんの顔にあたる風を感じる。

(もうダメなんだ。私ここで死んじゃうんだ。)

Aさんが諦めかけた時、音が消え、辺りが静かになりました。

「・・・ん?」

恐る恐る目を開けると、そこは自分の部屋でした。

「に、逃げれたの?」

確認するように体を触ると、全身汗でびしょびしょになっていて、目からは涙が流れていました。

「い、生きてる・・・。」

ホッとした私は完全に目を覚ますように顔を洗いました。

(怖かったけど、所詮は夢、だよね。良かった~。)

その後Aさんは何事も無かったように学校に行き、友達にこの夢の話をしました。

皆は面白おかしく怖がり、Aさんも次第に笑っていました。

「そうだよね~結局は夢だもん。」

それからあの夢を見ることはありませんでした。

学業にアルバイトと忙しかったAさんはすっかり夢のことを忘れ、平和な日常を過ごしていました。



・・・けれど、それは急に始まったのです。

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