第35話 高宮君の怖い話~雨女後編~

「あの~。」

傘で顔は見えないが、女性が初めて小さな動きを見せる。

「いや、その・・・すみません。俺、あそこの家に住んでるんですけど。」

A君が指をさせば、少しだけの動きでその指先を見てくれている気がする。

「何て言うか、その、貴方が見えてしまって、それでその、見ていたんですけど、ずっとここにいて何をしているんかな~って気になっちゃって・・・。」

「・・・。」

「あ、いやその!?別に変な意味じゃないっすよ!?ずっとここに立ってるから誰か待ってんのかな~って思っただけで、その・・・。」

「・・・。」

「すみませんでした。」

何も反応してくれない女性に対し、A君は何だか悪いことをした気になってしまい、謝って帰ることにしました。

すると・・・。

「ワタシガミエルノ?」

機械じみた、優しいような冷たい声が返ってきました。

「え!?は!?はい!?」

大きな動きに、この時のA君は言った言葉の意味を理解できていませんでした。

「ワタシ、ココデマッテイルノ。」

「何を待っているんですか?彼氏とか?」

「チガウノ。ワタシガマッテイルノハ・・・。」

「え?」

最後の方が聞き取れず、聞き返そうかとも思ったが、A君はしませんでした。

「あの、僕にできることがあれば・・・。」

「ホントウニ?」

「え、ええ。」

「・・・アリガトウ。コレデヤット・・・。」

次の瞬間、女性に抱き着かれキスをされました。

理解できずにいると、A君は眠るように気を失いました。

A君が目を覚ますと、そこは病室でした。

「Aッ!!」

涙を零した母親に抱きしめられ、父親には泣きながら怒鳴られました。

「お前はあんなところで何してるんだA!」

「え?・・・あれ?なんだっけ?」

「お前な!!」

A君はどうして電柱の近くにいたのか、思い出せませんでした。


「それから時折、鏡の前で顔を洗っていると、背後で笑っている女性が見えたような気がするそうです。」

終わりの意味も込めて頭を下げる。

「ふむ、実に不可思議な話だね。」

「何て言うか、落ちが分からないけど不気味って言うか・・・。ま、まぁまぁ怖かったんじゃない?優にしては。」

「お褒めに預かり光栄です。」

「けれど、どうして接吻したんだろうね。それに記憶が無いような感じだけど、この話自体は存在する。不可思議な話だ。」

「僕も初めて聞いた時は、何で記憶が無いのにこの話があるの?って思いました。」

「単純に作り話だからでしょ?」

夢の一欠けらも無い柑奈さんの発言に、ちょっとだけ悲しみを覚えてしまう。

「はぁ・・・。柑奈は夢の無い女だね。」

式子さんの態度が気に障ったのか、柑奈さんは言ってはいけない一言を放つ。

「何よ!あんたよりかは夢が詰まっているわよ!ここに!」

結構大きい胸を強調して見せる。

「む、胸の話なんてしてないだろ!?」

「悲しいわよね~夢が詰め込めなくて。」

ぐうの音も出ず、柑奈さんを子供っぽく睨みつける式子さんが可愛かったことを僕は日記に記す。

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