第30話 式子さんの怖い話~五寸釘前編~

「柑奈のことは置いといて。」

「ふんっ!」

「私が思う本物の呪いなんだが、これがかなり多い。」

式子さんは指を動かして大量にあることを僕に示す。

「そんなに多いんですか?」

「ああ。その中でも特に私が呪いの可能性が高いと思っているのが『五寸釘』だね。」

「ごすんくぎ?それって藁人形とかに刺すあの五寸釘のことですか?」

「そう。厳密に言えば長さ約15㎝の釘のことだね。」

両手で長さをわかりやすく表してくれる。

「ありきたりなものが出てきたわね。」

「そんなものだよ柑奈。ではなぜ、私が信憑性が高いと思うか、怖い話を交えて伝えよう。」

嬉しそうに式子さんは口を開いた。


当時、中学生だったAさんはイジメられっ子でした。

毎日のように上履きを隠されたり、ノートや教科書をゴミ箱に捨てられたり、掃除当番を押し付けられたりと、散々でした。

その原因を作っていたのがBさんでした。

BさんはAさんのクラスの女王的存在で、クラスのみんなはBさんには絶対に逆らいません。

どうしてBさんがAさんを標的に選んだのか、それは入学式後の最初のテストでの出来事です。

Bさんは小学校の頃から塾に通い、他のみんなより頭が飛びぬけて良かった。

他の子よりも優れていることがBさんにとって愉悦を感じ、同時に誇りでもあったのです。

ところが、入学式後の最初のテストではBさんは学年2位。

1位はAさんだったのです。

それがBさんは気に入らなかった。

だからBさんはAさんの嘘の噂を流し、孤立させ、みんなにイジメることが正しいように動かしていたのです。

「つらい・・・苦しいよ・・・。」

Aさんは家に帰っては毎日のように部屋で泣いていました。

それでもAさんが学校に通い続けたのは支え続けてくれる両親と、大好きなC君の存在でした。

C君は目立たない男の子でした。

成績も運動能力も並程度で、いつも図書室で本の整理をしているような子です。

Aさんが好きになったきっかけも図書室で声を掛けてくれたことでした。

独りぼっちのAさんに声を掛けてくれたのはC君だけで、何度も話していくうちに、興味本位で声を掛けたんじゃないと思い、どんどんAさんはC君のことが好きになっていきました。

「今日はどんな本を読んでいるの?」

優しいC君の声や笑顔だけがAさんの学校での救いでした。

「きょ、今日は、その、占いの本を読んでるの。」

「へ~。占いかぁ。僕はそういうの信じたことないなぁ。」

「え、えへへ。結構当たるんだよ?」

「そうなの?じゃあ僕のことも占ってよ。」

この時間だけが本当に幸せでした。

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