第8話 式子さんと朝の怖い話~その人はいったい・・・後編~

だが、楽しい時間というものはあっという間で、A君の故障はどんどん良くなっていきました。

「明後日から部活に参加できるんですよ。」

そんなことに気づかなかったA君は暢気に女性に部活ができることを話し始める。

「そっか~よかったね、A君。」

すると、女性は少しだけ寂しそうに笑うのです。

「あの・・・どうかしましたか?」

「え?どうして?」

「僕の勘違いだったらすみません。その、何だか元気が無いように見えて・・・。」

「あ・・・。」

顔に出ていたことを女性は後悔し、精一杯の笑顔を作る。

「いや、さ。何だか楽しい時間が終わるんだなって思ったらさ、寂しくなっちゃった。」

「あ・・・。」

その瞬間にA君も理解する。

この時間はA君が部活に参加できないから出来た時間であって、故障が治り部活が出来るようになるということは、この時間が無くなってしまうということである。

そのことに気づかずに暢気に話していた自分に怒りさえ覚えたA君は何とかして女性との史観を作ろうと必死になりました。

「あの!あ、朝以外にも会えませんか!?ぼ、僕!貴方さえよければいくらだって時間を!」

「ふふっ。」

女性は嬉しそうな、悲しそうな顔で笑う。

「ありがとう。でもごめんね。私は朝しか時間が無いんだ。」

「何時でもいいんです!お昼でも、深夜でも!それこそ土日でも!」

「ごめんね、A君。」

A君の思いは女性に届きませんでした。

故障が治り、元のように朝練に通うA君でしたが、女性のことが気になり、練習に身が入りません。

「おい!A!何だそのフニャフニャした気持ちは!もっと腹に力を入れてな・・・。」

「監督!すいません!」

「あ!おい!A!!」

A君は理由も言わずに、全力で駆け出し、教室の扉を豪快に開きました。

そこにいる笑った彼女の顔が見たくて。

けれど、扉を開けた教室には誰もいませんでした。

「あれ・・・?」

「いきなり走って行ったと思ったら、おいA!訳を言え!」

あとから追いついた監督は少しだけ怒ってはいましたが、心配するような目でA君を見ていました。

「監督、ここに・・・。」

A君は女性のことを話しました。

「はぁ?教育実習生?うちの学校は今年は教育実習生なんてとってないぞ?」

「え?」

監督の嘘を言っていない目に、A君はそれ以上何も言えませんでした。


「その後A君は女性に会うことはなかったのです。」

ポンっと手を叩いて式子さんは終わりを告げる。

「その女性が幽霊だったってことですか?亡くなった教育実習生とか?」

「さぁ?」

「え?さ、さぁ?」

「私はその答えが知りたくて毎日この実験を行っているんだ。もし彼女が幽霊だったのなら、私は幽霊と会話をすることが出来るかもしれないと思ってね。」

「えっと、あの、その・・・会えましたか?」

返す言葉に困り、変なことを聞いてしまう。

「いや、未だに会えていないなぁ。」

そう言った式子さんの横顔はどこか、少しだけ、寂しそうな気がした。

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