第9話 高宮君の怖い話~メリーさん?前編~

野球部の掛け声が聞こえる夕方ごろ、僕はあることを切り出そうと思う。

「式子さん!」

「ん?何だい?」

読んでいた本を置いて、式子さんが僕を見てくる。

「読書中すみません。今日は僕の話を聞いて欲しくて。」

「ほう。君の話か、どんなことを私に聞かせてくれるんだい?」

興味を持った式子さんは綺麗な笑顔を向けてくる。

「これは僕の友人の従妹いとこが体験した話なんですけど・・・。」

初めて人に話す緊張とドキドキを胸に僕は話し始めた。


小学校の頃にAさんのお兄さんは家を出て行った。

連れ子で、年の離れたお兄さんはAさんのことをとても可愛がってくれましたが、大学は自分の夢を叶えたいと思い、家を出ることを決意したのです。

納得のできなかったAさんは我がままを言い、お兄さんを困らせました。

実の親である父もAさんに家にいるように説得したが、どうしても叶えたい夢の為、お兄さんは首を縦に振ることはありませんでした。

家を出て行く日、泣きじゃくっていたAさんにお兄さんはある物をあげました。

「これを僕だと思って大切にしてね。」

受け取った物はクマのぬいぐるみでした。

それからAさんはお兄さんから貰ったクマのぬいぐるみをとても大切にしました。

毎日のようにお話をし、毎日のように抱えて眠る日々でした。

そんな時にAさんに悲しい出来事が起きました。

それはAさんの家に空き巣が入ってしまったのです。

家の中は荒らされ、お金やお金になりそうなものを全て持っていかれてしまったのです。

嫌なものを感じたAさんは悲しむ両親の横を慌てて駆けて抜けていき、自分の部屋の扉を開けました。

そしてAさんの目に飛び込んできたのは、そこにあるはずのクマのぬいぐるみが無かったのです。

Aさんは大きな声で泣きました。

折角、お兄さんがくれた大切なクマのぬいぐるみまで盗まれてしまったのです。

悲しくて、辛くて、どうしようもない感情がAさんの心をむしばみました。

全てのことが嫌になったAさんは引き籠るようになり、食事もまともに取らなくなってしまいました。

事情を聴いたAさんのお兄さんは慌てて帰宅し、Aさんを励ましました。

しかし、大好きなお兄さんの言葉も、Aさんにとっては痛いだけでした。

大切にするって約束したのに。

約束を守れなかったことがAさんをずっと攻め続けました。

このままでは絶対にいけない。

どうにかして立ち直って欲しいと考えたお兄さんは同じようなクマのぬいぐるみを探し出し、買ってきてくれたのです。

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