第5話 式子さんの怖い話~しんちゃん中編~
その悲劇はしんちゃんが小学三年生の頃に起きました。
しんちゃんがお母さんと弟の三人でお買い物に行った時です。
「お母さん、ここで買い物があるから二人でいい子に待っていてね。いい子にしていたらお菓子を買ってあげるからね。」
そう言ってお母さんはお洋服を見に行きました。
しんちゃんは弟をあやしながらしばらく待っていると、近くの親子が目に入りました。
「ねーお母さん!これ欲しい!」
「ダーメ。今日はこれから産まれてくる赤ちゃんの為のお買い物なのよ。」
「でも欲しい!」
「もう、この子ったら。我慢しなさい。」
「我慢するくらいなら妹なんていらないよ!」
「こら!」
“妹なんていらない”その言葉がしんちゃんの心の黒い
そしてこうささやいてくるのです。
「弟なんて産まれなければよかったよな?」
「お母さんの愛情を取り戻さなくちゃな!」
「弟がいなくなれば・・・。」
その言葉がしんちゃんを惑わし、動かしてしまったのです。
しんちゃんが意識を取り戻した時には・・・ベビーカーは階段の下で逆さまになっていました。
弟は・・・亡くなってしまったのです。
両親は大泣きし、半年間、家の中は暗い雰囲気でした。
けれどしんちゃんの心の黒い靄は消え、晴れ晴れとした気持ちだったのです。
これでお母さんは、お父さんは僕を見てくれる。
その思いで胸がいっぱいだったのです。
両親の心の傷が癒え、しんちゃんが再び愛情を独り占めしたころ、しんちゃんに奇妙なことが起こるようになりました。
それはしんちゃんが横断歩道にいると、必ずこう聞こえてきたのです。
「しんちゃんまえ。」
しんちゃんは不思議に思っていましたが、あまり気にしませんでした。
そんなしんちゃんが小学五年生になった時です。
すっかり弟のことなんて忘れたしんちゃんは友達のお家で遊ぶことに夢中でした。
その日も電話がかかってきたので、元気よく出ました。
すると、その日だけ電話からこう聞こえたのです。
「・・・しんちゃん・・・まえ・・・しんちゃん・・・まえ・・・しんちゃんまえ・・・しんちゃんまえ・・・。」
「何だよこれ?イタズラかな?・・・変なの。ま、いっか。」
電話を切ったしんちゃんは友達に電話をせずに走って向かいました。
友達の家に行く途中、しんちゃんは横断歩道で立ち止まりました。
その時でした。
信号が青になり一歩前に出た瞬間。
「しんちゃんまえ!!」
今まで一番大きな声が聞こえたのです。
「え?」
その声は、死んだ弟の声のような気がしたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます