第4話 式子さんの怖い話~しんちゃん前編~

軽快なリズムで黒板に文字が書かれていく。

けれど今の僕にはその音すら聞こえないぐらいに時計に全神経を張り巡らせている。

今か今かと心待ちにしながら。

キーン、コーン、カーン、コーン。

「ん?チャイムが鳴ったな。では今日はここまでだ。」

先生がチョークを置いた瞬間に女子生徒が号令をかける。

「キリーツッ!礼ッ!ありがとうございました!」

号令を終えた瞬間に僕はカバンを持って走って行く。

今日はどんな話を聞けるんだろうと、それとも僕が話していいんだろうかとワクワクしながら廊下を走って行く。


「花咲さん!」

ノックもせずに扉を開けると、既に式子さんは窓枠に座りながら外を見ている。

「おや?早いじゃないか。」

僕を見つけると、窓枠から降りて椅子に座りなおす。

「だが、さんは良くないな。」

「え?」

「君はオカルト研究会の会員になったんだ。苗字ではなく名前で呼ぶべきだよ。君。」

見透かすような声で名前を呼ばれ、背中が痒いような感覚になる。

「わ、わかりました!えっと・・・さん。」

「よろしい。では、今日もお話をしようか。」

そう言って式子さんは僕が席に座ってから話を始めた。


しんちゃんは産まれてすぐに父親を交通事故で無くし、母親が一人で一生懸命愛情を注いで育てていました。

母親の愛情を独り占めしていたしんちゃんはどんどん成長し、六歳になりました。

来年から小学生です。

母親はそれを機に少し前からお付き合いしている男性と結婚することにしました。

義理の父親もしんちゃんのことが大好きで、結婚する前から一緒に遊んでいました。

しんちゃんは小学生になって、両親の愛情をたっぷりと注がれたのです。

そんなしんちゃんに弟ができました。

最初は驚いていましたが、母親からの言葉。

「しんちゃんもお兄ちゃんになるんだね。」

というのを聞いて、嬉しくなりました。

しかしこの後、しんちゃんに試練が待ち受けていました。

小学二年生になったしんちゃんに弟が産まれました。

産まれたばかりの弟はしんちゃんにとって可愛くて仕方がありません。

でもそれは両親も同じようで、しんちゃんに注がれていた愛情は、いつしか弟の方が多く注がれていたのです。

「お母さん、今日のご飯は・・・。」

「うえぇぇぇぇん!」

「大変!どうしたんでちゅか?」

しんちゃんを優先していた母親は今では小さい弟を優先してしまいます。

お母さん、どうしてなの?

どうして僕のお話しを聞いてくれないの?

いつからか、しんちゃんの心に黒いもやが見え始めました。

それが、悲劇を生んでしまったのです。

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