62.5話  季節外れのメリー・・・







 その夜――


 リズは、自室で“ミトゥルヴァ”を充電器に置いて魔力充電させながら、クロスボウを6丁並べて使用方法を考える。


「“ミトゥルヴァ”を偽装して倉庫に隔離していたということは、この玉子梟がアイギスシャルウルの要ってことッス。そして、複数同時に矢を放ったという伝承から、この六丁のクロスボウもその一部なはずッス」


 何故なら、この玉子型が複数の矢を放てるとは思えないからである。


 リズは当初この玉子梟が、六丁のクロスボウを運んでくれるのかと思ったが、フックもないこの丸みを帯びた体では、懸下することは無理そうだ。嘴も丸く爪も付いていないこれまた丸みを帯びた脚では、クロスボウを挟むことも出来そうにない。




「ミトゥルヴァちゃんって、あちこち丸くて尖ってないから、あたっても怪我しないね」


 ミリアがリズの玉子という言葉を聞いて、そう感想を述べた。


「私はもっと爪とか嘴とか尖っているデザインのほうが好きッス」


 リズは自分の好みを口にする。

 すると、ミリアがクロスボウの形状を見て疑問を投げかけてきた。


「このクロスボウ、ミトゥルヴァちゃんみたいな羽が付いてちょっと可愛いよね。でも、どうして付いているのかな?」


「確かによく見ると形が似ているッスね。…………!?」


 リズはそこまで言うと黙って考え込む。

 長く考えた後、彼女は一つのとんでもない答えにたどり着く。


「もしかして、このクロスボウも宙に浮くのかも知れないッス」


「え!? この形で飛べるの?」


 ミリアの疑問に、リズはすぐさま答える。


「普通なら無理ッス。でも、そもそも“ミトゥルヴァ”だって、飛べる形はしていないッス。おそらくこの玉子梟は、魔法の力で宙に浮いているッス」


「魔法で空は飛べないよ?」

「えっ、でも土属性魔法とかは岩が飛んでいるじゃないッスか?」


「あ、確かに……」


 ミリアは何か違うような気もしたが、勉強不足で明確な否定理由も考えつかなかったので、取り敢えず納得することにした。


「たぶん、“ミトゥルヴァ”に何らかの指示か操作をすれば、全てのクロスボウを宙に浮かせて、さらに魔法の矢を充填させ複数同時発射できる仕組みになっているッス。だから、リーゼロッテ様は“ミトゥルヴァ”を引き連れて、戦場を駆け巡ることが出来たッス!」


「なるほど……」


 ミリアはあまり理解できなかったが、親友の推理に水を差すのも行けないと思って相槌を打っておくことにする。


「まあ、問題は“ミトゥルヴァ”をどうしたら、そう動かせるのかってことッスけど……」


 実のところリズは、正直自分の推理が正しいかどうか解らないでいた。

 なぜなら、そんな宙を浮く武器は、今の所この世界に存在していないからだ。


 リズはここで約束を破る形になってしまったことを、ミリアに謝ることを決心する。


「ミリアちゃん、ぬいぐるみをあげると言ったのに、こんな事になって申し訳ないッス。代わりに私のこのお気に入りのドラゴンのフィギュアを……」


 リズは名残惜しそうな顔で、フィギュアをミリアに差し出す。


 彼女が謝るのを決心できなかったのは、親友がとても気に入っていたぬいぐるみの代わりになるものが、このお気に入りフィギュアしかないと思い心の中で葛藤していたからであった。


 ミリアは差し出されたドラゴンのフィギュアに、困った顔をしながら丁重にその親友の申し出を断る。


「リズちゃん、いいよ。それに、ミトゥルヴァちゃんはリズちゃんのこと大好きみたいだから、リズちゃんと居るほうがいいと思う……。あと、そのお人形は怖いから遠慮するね」


 リズの葛藤は杞憂だった。何故ならミリアはこんなリアルフィギュアは、趣味ではないからであった。


「こんなに格好いいのに……。でも、ありがとうッス」


 すると、どこからともなく声が聞こえてくる。


「よく言いましたミリア、あなたは本当にいい子です」


 声の方を見ると、そこにはいつの間にか部屋に侵入していた、全身に赤い服のサンタクロースのような格好をした女性と、トナカイのような格好をして頭に角のカチューシャを付けた女性が立っていた。


「サンタ・ローズ様だ!」


 二人を見たミリアは、そう言って眼を輝かせた。


 サンタ・ローズとはこの世界の女性版サンタクロースで、良い子にプレゼントをくれるとされる存在である、勿論季節外れである。


「ミリアちゃん騙されては駄目ッス! サンタ・ローズの来る季節はもう終わったッス!

 あとサンタ・ローズは幻想ッス! 正体は親御さんッス! ミリアちゃんの場合はミレーヌ様ッス! アレはそう思わせているただの侵入者ッス!」


「やっぱり、ミレーヌさんだったの……」


 ミリアは毎年その季節になると、ミレーヌが欲しい物をそれとなく聞いてきていたので、

 薄々そうではないかと思っていたが、彼女はメルヘン少女なので信じていたかった。


「お姉様、あの子すごく警戒しています。こちらの世界でも、サンタ姿でいきなり侵入してもやはり怪しまれるみたいです!」


 ミトゥナカイが、できる部下のホウレンソウの一つ報告を上司に行う。


 リズがミリアの幻想を破壊して、周りに助けを呼ぼうとした瞬間、フェミ・ローズが一気に間合いを詰め、リズに金色に輝いた眼で諭す。


「リズ。私はフェミ・ローズなので、季節外れでも怪しくないのです。わかりましたね?」

「わーい、フェミ・ローズのお姉さん大好きッス!」


 フェミ・ローズに洗脳(?)されたリズが、彼女に懐き始め大騒ぎにならずに済む。


(お姉様、説得の仕方が雑です。でも、そんな剛気なところも素敵です。あと、サンタコスも似合っています、私の心のHDに録画しておきますぅ~)


 心の中で、そう思うミトゥナカイであった。

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