63話 玉子梟は黄昏に宙に浮く




 前回のあらすじ


 素敵なお姉様のフェミ・ローズと可愛いお姉さんのミトゥナカイが、良い子の二人に笑顔とプレゼントを届けに来たよ。


 #####


「今日はいい子のミリアに、私からプレゼントを持ってきました」


 フェミ・ローズが横に置いていた白い袋から、丸みを帯びた可愛らしい金属製のデフォルメされた黒猫(?)を取り出す。


「また、丸みを帯びているッス」

「お姉様は、丸くて可愛いのが趣味だからね。ミトゥルヴァが丸いのもお姉様の趣味よ」


 リズの反応にミトゥナカイが答える。


「可愛い……」


 同じく可愛いのが大好きなミリアには、どストライクであった。


「この子はケットと言ってミトゥルヴァと同じで魔力で動くので、この充電器で魔力充電してあげてね。そうすれば、戦いの場でアナタの役に立ってくれるはずよ」


「はい。ありがとうございます……、ハンニャ―仮面のお姉さん」

「気付いていたの?」


「はい……」

「そう……」


 フェミニースはミリアの頭を優しく撫でる。


(お姉様、顔は変装していませんから、ばっちり顔バレしています。でも、そういうたまに天然なところもギャップがあって素敵です。)


 心の中でそう思う後輩女神、今はトナカイコス女神であった。


「あと、グリムヴォルにも少し能力を追加しておくわね」


 フェミニースはミリアのグリムヴォルに手をかざすと何やら力を注ぎ込む。


「フェミ・ローズのお姉さん、私にもプレゼントをくださいッス」

「リズ、アナタはいい子でしたか?」


「はう!?」

「冗談です。ミトゥー……、ミトゥナカイ」

「はい、お姉様!」


 フェミニースの指示を受けたミトゥースが出来る後輩を見せるためリズに話しかけた。


「アナタには私が色々してあげるわ。まずはミトゥルヴァを少し改修するわ」


 ミトゥースが手をかざすとミトゥルヴァが輝き、光が収まると後輩女神が終了報告をする。


「はい、改修終了」

「お姉さん、どこも変わってないッスよ?」


「見た目はね」

「ホ――」


 ミトゥルヴァが宙に浮いて、ミトゥースの肩に降り立つ。


「元気だった、ミトゥルヴァ?」

「ホ――」


「そう。新システムは理解した?」

「ホ――」


「そう、よろしい」


 リズはその様子を見て、ミトゥルヴァに抗議する。


「こらー、ミトゥルヴァ! どうして私は頭の上に止まるのに、お姉さんは肩なんスか?!」


「しょうがないわよ、この子玉子型で大きいでしょ? アナタはまだ小さいから、頭の上しか降り立つ場所がないのよ」


「む~」


 リズはその説明を受けて納得行かない顔をしていたが、聞きたいことは他にもあったのでそちらを優先させることにした。


「お姉さんは、ミトゥルヴァのこと知っているッスか?」


「ええ、だって私がこの子とアイギスシャルウルを造ったの。お姉様は機械に弱いから。ちなみにこの子の”ミトゥルヴァ“は、私の名前をもじって名付けたのよ」


「じゃあ、お姉さんはアイギスシャルウルの使い方を、知っているってことッスね?」

「お姉様、教えてもいいのですね?」


「ええ、リーゼロッテの自分で考えさせるという方針は賛成ですが、今回はその様な時間的余裕がないのも事実です」


 ミトゥースはフェミニースの了承を得ると説明を始める。


「アイギスシャルウルは、アナタが推理した使い方で大体あっているわ。アイギスシャルウルとは、ミトゥルヴァを核としてアナタの魔力を使って指示を出すことで、ゴッデスクロスボウファミリア(GCファミリア)八丁、ゴッデスシールドファミリア(GSファミリア)四つを使う兵装システムなの。まあ、今のアナタの魔力ではGCファミリア六丁同時使用が無難だと思うわ」


 リズがあまり理解していないような顔でいるので、ミトゥースは分かりやすい例をあげた。


「この兵装は一種のゴーレムのようなものね。黒い女魔戦士が命令して使っていた金属製の鳥型ゴーレムがあったでしょう? アレの私が創った上位版ってところね」


(シオンさんを襲っていたやつッスか)


 仲間を傷つけられた相手を思い出して、リズは少し険しい顔になる。


「ミトゥルヴァに蓄積された魔力で、ミトゥルヴァと各ファミリアが浮遊するのとクロスボウの魔法の矢を賄うから、しっかり充電しておきなさい。まあ、それでも使用回数次第では、直ぐに無くなっちゃうけどね。そうしたら指示以外にもアナタの魔力を吸い始めるから、気をつけなさい。それでは、実際にやってみるわね」


 ミトゥースはリズの部屋のドアからベランダに出ると、ミトゥルヴァに指示を出す。


「ミトゥルヴァ、GCファミリア展開!」

「ホ――」


 ミトゥースが指示を出すとミトゥルヴァは、GCファミリアに魔力を送り浮遊させ、彼女の周りに展開させる。


「ミトゥルヴァ、GCファミリア攻撃開始!」

「ホ――」


 ミトゥルヴァはミトゥースの指示を聞くと、空に向かって六丁全ての魔法の矢を一斉発射させた。


「リズ、次はアナタがやってみて」

「はいッス!」


 リズは一度だけ深呼吸をして、集中力を高めてから指示を出す。


「ミトゥルヴァ、GCファミリア展開ッス!」

「ホ――」


 リズが指示を出した後に、すぐに魔力が消費された感じがすると、その次の瞬間ミトゥルヴァがGCファミリアをリズの周りに展開させる。


「おー」


 リズは自分の回りを浮いているクロスボウを見て感嘆の言葉を漏らす。


「あの岩を攻撃したいッス、攻撃目標はどう支持したらいいッスか?」


 リズが庭にある適度な大きさの岩を指差してミトゥースに尋ねた。


「指差して支持するか、着弾予測眼を使って指示するかよ。ただし、後者は思念を魔力で送るからその分消費するわ。でも、ミトゥルヴァとリンクしている間は、この子が風向きと相手との距離を測るからその分の脳への負担は減るはずよ。今回は目標が岩だから、まずは指示して索敵させて」


「ミトゥルヴァ、あの岩と横の岩までの距離を計測ッス」

「ホ――」


 鳴き声とともに、電波を出しレーダーの原理で二つの岩までの距離と方位を測る。


 リズは着弾予測眼を発動させ、二つの岩に着弾マーカーを付けようとするといつもより早く、しかも2つマーカーが出現した。


「あなたの着弾予測眼は脳への負荷から、今まで対象は一体しかできなかった。でも、ミトゥルヴァによる計算補助によって、今なら複数体が可能になっているはずよ」


(では、隣の木とその隣の木、その横の岩、さらに横の岩……)


 リズはクロスボウに六つの目標物にマーカーを付けると、それに応じてミトゥルヴァは、GCファミリアの照準を調整する。


「ミトゥルヴァ、GCファミリア攻撃ッス!」

「ホ――」


 リズの指示が魔力で送られると、GCファミリアが一斉に目標に向けて魔法の矢を発射し、爆音と共に岩や木を破壊させてゆく。


「やったッス!」


 リズがその成果に喜んでいると屋敷から、その爆音を聞いたリズの父親が庭に飛び出してきた。


「こらぁ、リズ!! どうせオマエの仕業だろう!!」


 そして、庭の惨状を目にしてリズの部屋のベランダに向けて、的確に犯人を当て怒りの声を向けてくる。


(こんなにすぐに犯行がばれるなんて、今まできっとこんな事をしてきたに違いない)


 リズ以外の三人はそう思った。

 彼女はベランダから身を乗り出すと父親に弁明する。


「アイギスシャルウルの試射をしただけッス! だから、大目に見て欲しいッス!」

「これが、アイギスシャルウルの威力か……」


 リズの父親はその言葉を聞いて改めて威力を見てそう呟き、武門の人間として胸が踊っていた。


 リズが父親に弁明して、ミトゥース達のところへ戻ってくると不意にその場で立ちくらみに襲われ、それを見たミトゥースに体を支えられる。


「いきなり複数ロックなんてするから、脳と魔力が消耗したのね。今日はもう休みなさい」


 ミトゥースはリズを抱えると、そのままベッドに運ぶ。


「それでは、私達はこれで帰るわね、ミリア。がんばりなさい」

「はい、ありがとうございました」


 フェミニースはミリアの頭を撫でながら別れの挨拶をした。


(幼い少女の頭を撫でるお姉様、なんて自愛に満ちているのかしら……。ああ、私の頭もナデナデされたい。あの子が羨ましい……。だっ、だめよ、ミトゥース……。いくらなんでも、あんな幼い子に嫉妬するなんて……)


 ミトゥースが、一人頭の中で葛藤していると、ミリアが近寄ってくる。


「ミトゥナカイのお姉さん……、リズちゃんの事…… ありがとうございました……」


 ミトゥースは初めて会う人だったので、人見知りモードが発動してしまい小さな声になってしまったが、ミリアは彼女に頑張ってお礼の言葉を口にする。


「何この可愛い生き物! お姉様! この子お持ち帰りしてもいいですか?!」

「はわぁぁぁぁぁ……」


 ミリアを抱きかかえたミトゥースが、フェミニースに聞いてみるが勿論すぐに却下された。




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