62話 季節外れのメリー・・・







 前回までのあらすじ


 ぬいぐるみだと思っていた玉子梟が、動き出して自分を“ミトゥルヴァ”って名乗ったッス。


 ######


「ところで、リズちゃん…。その梟?に頭の上に乗られて、重くないの…?」


「この子見た目より全然軽いッス。おそらく【女神武器】と同じ金属で、出来ているんだと思うッス」


 エレナの質問にリズはこう答えた。


「つまりこの梟(?)も【女神武器】かも知れないということか」


 娘の言葉を聞いたリズの父は、そのような考察を述べる。


「ホ――」


“ミトゥルヴァ”は翼を広げて、ひと鳴きするとリズの頭から浮かび上がった。


「しかし、あの胴体に比べて明らかに短い翼で、どうやって飛んでいるんだ……」


“ミトゥルヴァ”の航空力学を無視した飛び方を見て、リズの父が疑問を口にする。

 浮き上がった“ミトゥルヴァ”は、宝物庫の隅に置いてある保管棚の上に無造作に置いてある、埃の被った台座の上に降り立つと動かなくなった。


 リズ達はその台座に近づくと、“ミトゥルヴァ”のお腹の辺りにバッテリー切れの表示が点滅していている。


「このマーク…、どこかで見たことあるよ~。どこだったかな~」


 アフラが見覚えのあるマークを見て、思い出そうとするが思い出せない。


「女神の栞の蓄電された魔石電気が、切れた時に出るマークですね」


 彼女の言葉で、ピンときたエレナがマークの正体を口にする。


「この台座は魔石電気コンセントが付いているが、繋げても何も起きないから壊れていると思って隅に置いていたんだ」


 リズの父はコンセントの存在から、何かの魔石家電製品とは思っていたが、充電器とは考えが及ばなかったようだ。


「この台座女神の栞の充電器に似ていますね」


 エレナが台座を見た印象を述べるが、彼女の言う通り台座は栞の充電器を大きくしたような形をしていた。


「アレを大きくしたような感じだねー」


 アフラもその印象に賛成する。


「そうか、わかったッス! このミトゥルヴァ?は、きっと魔力で動いているッス。ミリアちゃんが昨日からずっと抱きしめていたから、その間にミリアちゃんの魔力を少しずつ吸収していたッス。それで動けるまで魔力を蓄積して、さっき動き出したに違いないッス」


「なるほど… それで魔力が切れたから、本来の魔力充電器であるこの台座に戻ったというわけか……」


 リズの父が娘の推理に納得しながら、壊れたものだと思って、粗大ごみとして捨て無くてよかったと思った。


「ミリアちゃん、この玉子梟に魔力を込めてみてくださいッス!」

「うん……」


 ミリアはリズに言われた通り、恐る恐る玉子梟に魔力を込める。

 そして、充電マークがゼロから一つだけ増えるまで魔力を込めると、“ミトゥルヴァ”は再び動き始める。


「どうやら、正解のようッス」


“ミトゥルヴァ”が、再びリズの頭に乗ると彼女に何かを話し始める。


「ホ――、ホ――」

「えっ? リーゼロッテ様からの伝言を聞かせてくれるッスか?」


「ホ――」


“ミトゥルヴァ”が鳴くと、お腹の辺りから再生された“リーゼロッテの声”が聞こえてくる。


「これが再生されているということは、私の肖像画に騙されずにぬいぐるみに偽装して倉庫に置いていた“ミトゥルヴァ”を復活させたということね」


「どうして、わざわざそんな事を……」


 リズが思わず声に出すと、それを見越したかのように声が続く。


「今、どうしてわざわざそんな事と思ったでしょうね……。勿論、嫌がらせよ。簡単に受け継がせるのが嫌だったからよ」


(えーーーー)


 リズは心の中で我が先祖ながら、何を言っているだこの人と思った。


(何かリズちゃんのご先祖様っぽいな)


 エレナも心の中でそう思う。


「そもそも、先祖の【女神武器】を受け継いで、お手軽に強くなろうと言う魂胆が気に入らないのよね。せっかく“ミトゥルヴァ”を復活させたところ残念だけど、今のアイギスシャルウルは完全ではないの。魔王との最後の戦いで、いくつか兵装を失っているの。使い方は自分で試行錯誤することね」


「使い方は、教えてくれないのか?」


 リズの父親が、先祖の厳しい態度に思わず言葉を漏らす。


「あと、この記録は“ミトゥルヴァ”の容量を圧迫するから、この後すぐ消去されるわ。それでは、精々頑張りなさい」


「ホ――」


“ミトゥルヴァ”が鳴くと、音声の再生が終わりデータの消去がなされる。


「さて、もうここにいてもしょうがないな。一旦部屋に戻るとするか」


 リズの父が宝物庫から退室する旨を伝えると、リズは“ミトゥルヴァ”の充電用台座を中鞄に収納して、宝物庫を後にした。


「リズ、いつアルトンに帰るのだ?」


 宝物庫からの帰り道、リズの父が娘に尋ねる。


「明日の朝には帰ろうかと思うッス。“ミトゥルヴァ”の充電も、念の為済ませておきたいッス」


「そうか……。しかし、この絵の“ミトゥルヴァ”が、偽装であったとは…」


 廊下に飾っている肖像画の前で、リズの父はそう呟いた。


「もしかしたら、この絵のリーゼロッテ様も美化した偽装かも知れないッス……。きっとチンチクリンだったに違いないッス」


 リズは不親切な先祖に思わず毒を吐いた。

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