49.5話  食べ物の恨み?






 クリスが三台目の投石機をファイアーストームで破壊すると、リディアのガーンサルンヴァより放たれたフェイタルアローが最後の一台を破壊する。


「シオン撤退するわよ!」


 全ての投石機の破壊を確認したクリスは、紫音に近づくと彼女に大声で叫ぶ。


「了解です!」


 紫音はその大声で我に返ると返事をしてから、味方のいる方向に向かって一目散に走り出す。


 クリスは、フラッシュの魔法でオークの視界を奪い自分達の走ってきた跡に、トラップ魔法を設置して追撃を妨害しながら撤退を続ける。だが、追いかけてきたオーク達は、トラップ魔法で追撃を鈍らせるが、猪突猛進とばかりに執拗に追いかけてきた。


 デュロックは投石機を全て破壊され、味方の損失もかなり増えてきたのを確認すると、ユーウェイン達との間の地面に強力な一撃を入れ、牽制と共に砂煙による煙幕を張ると、後方に大きくジャンプして撤退の合図の角笛を吹く。


「ニンゲンドモヨ、コンカイハ、ココマデニシテイテヤル。ダガ、キサマラノジュミョウガ、スコシノビタダケダ!」


「キョウノトコロハ、コレニテゴメン!」


 スギハラと戦っていたカゴシマも、角笛を聞くと煙玉を地面に投げて撤退を始める。


「おい! ゲホゲホ、侍は煙玉なんて使わねえぞ! ゲホゲホ」


 スギハラは煙で咽返りながら反論するが、煙が晴れた時にはカゴシマは既にその場にはいなかった。


 そして、その撤退命令によって、紫音達を追撃してきたオーク達も引き返していく。


「オークは撤退するようね。とにかく味方と合流しましょう」


 それを見たクリスが紫音にそう言うが、警戒しながら味方との合流を急ぐ。

 紫音達が味方と合流する頃には、オーク達は戦場から撤退を完了しており、ユーウェインはオーク達の完全退却を確認すると、剣を持った右腕を高らかに上げ叫ぶ。


「諸君、今回も我々人間の勝ちだ! 共に勝利を分かち合おう!!」


 ユーウェインの勝利宣言に、戦いに参加していた者たちが一斉に勝鬨をあげる。

 紫音は、戦闘で疲れて勝鬨をあげる余裕がないため、それを黙って見ていた。


 要塞内でもすでにオークは殲滅され、城壁に残っていた者たちがオーク撤退を伝える。

 外の勝鬨に合わせて内部で戦っていた者たちも勝鬨をあげはじめた。


「どうやら終わったようだな……」


 レイチェルのその言葉を聞いたエレナとミリアは、緊張の糸が切れてその場に座り込んでしまう。


 すると、休憩しているエレナに兵士が近寄ってきてこう言ってきた。


「疲れているところ済まないが、ヒーラーは怪我人の回復を頼みたい」

「はい、わかりました」


 エレナは立ち上がると怪我人救護のために、その兵士についていく。


「ヒーラーは大変ね」


 エレナの代わりにソフィーが、ブレードを納刀しながら近寄ってきた。


「団長達…… モグモグ、大丈夫かな…… モグモグ」


 そして、アフラがバナナを食べながら近づいてくる。


「大丈夫みたいッスよ……モグモグ、城壁の上からから確認しておいたッス…… モグモグ。まあ、シオンさんはかなり疲れている…… モグモグ、みたいッス…… モグモグ」


 さらにリズもバナナを食べながら歩いてきた。


「食べながら喋るなんて、二人共お行儀悪いわよ!」


 マナーにうるさいソフィーが、そんな二人を注意すると、二人は高速でバナナを食べ始めた。


「アンタ達、なんかキャラが似ているわね……」


 ソフィーのその言葉にリズは、城壁の上でオークの撤退を他の弓兵と<イーグル・アイ>で監視しているノエミを指差してこう答える。


「そうッスか? 私はむしろあそこにいる、弓使いのお姉さんのほうが似ていると思うッス」


「ノエミのこと?」


 ソフィーがそう尋ねると、リズは自分とノエミの似ている点を説明した。


「そうッス。同じ弓使いで、ジト目で、髪の色も似ているッス。クールで冷静キャラなところとか、私とダダかぶりッス!」


 ノエミは白髪のショートで、リズと同じジト目、身長も少し低く、無口で何を考えているかわからないといった印象を受ける娘だ。


「いや、アンタ達がキャラ被っているのは、弓使いとジト目だけでしょうが!」


 ソフィーの分析による指摘は的確であった。

 こうして、オーク軍迎撃の要塞防衛戦は終わりを迎える。


 その頃ミレーヌ邸―


「うわああああん! もういや~! こんな所今すぐ辞めて田舎に帰る~! 田舎に帰って、実家の牧場を手伝う~! こんな我儘な上司とお姫様の相手じゃなくて、牛や羊を相手にするの~」


 セルフィが、ミレーヌとアリシアの我儘とその圧力に耐えきれなくなって、ついに泣き出してしまう。その姿に居た堪れなくなった二人は、必死に彼女を宥める。


「おい、セルフィ。まあ、落ち着け。嫌なことがあったら、直ぐに”辞める~”というのは、お前の悪いクセだぞ? それにエリート役人になって、王都で働くのがお前の夢なんだろう? だったら、こんな事で弱音を吐いてどうするんだ」


「そうですよ、エルフィさん。アナタなら、きっとエリート役人になれます。私も応援していますから!」


 二人の励ましの言葉を聞いて、セルフィは涙を止めて顔を上げる。


「グスッグスッ…… 本当ですか?」

「ああ、本当だ。だから、辞めるとか言うな。な?」

「そうです。だから、頑張ってくださいエルフィさん」


 セルフィは涙を拭くと、気を取り直したように笑顔で答えた。


「はい、私がんばります!」


 その様子を見たミレーヌは、満足げに微笑む。


「よし、今夜飲みに行こう!」

「いえ、それは結構です。あと、それ”アルハラ(アルコール・ハラスメント)”ですよ?」

「あっ はい……」


 セルフィはミレーヌの誘いを丁重に断ると、書類の整理を始めた。

 その様子にミレーヌは寂しそうな顔をするが、セルフィはそれには気がつかない振りをして仕事を続ける。

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