49話  食べ物の恨み?







「二話分隠密行動したお陰で、投石機の近くまでオークに気付かれずに来られましたね!」


 ※決して筆者がすっかり忘れていた訳ではありません……


 紫音とクリスは、敵に気付かれないように迂回して投石機の近くの茂みまで来ていた。


「それとこの消臭薬と味方が前進して、注意を惹きつけていてくれたお陰よ」


 クリスが冷静に補足する。

 消臭薬は飲むと暫くの間、無臭にしてくれオークの鼻にも感知されない薬であった。

 紫音はオーラブレードで刀を強化するため、茂みの中で刀にオーラを移動させる。


 クリスは【女神武器】を取り出すと、「女神の祝福を我に与え給え」と祈りワンドに魔力を込めた。


 クリスの【女神武器】フロッテアロンは、レイピアとワンドで一対となっており両方にそれぞれ特殊能力を有している。今回使うワンドの能力は、込めた魔力の分だけ魔法を連続で使える能力である。


「えっ!? その能力があるなら、私この奇襲に必要ですか?」


 紫音は興味本位でどんな能力なのか説明を聞いて、その回答に思わずそう言葉が出てしま

 う。それはそうだ。敵に見つからないように、極度の緊張感に襲われながら隠密行動でここまで来たからである。もう精神は削られまくりである。


「私の魔力では、上級魔法三回分しか魔法は撃てないわ。連続で撃てるだけで射程距離まで援護してもらわないといけないの。アナタが頼りよ、シオン」


 クリスは真っ直ぐな目で、紫音を見つながらそう答えた。


「はい、頑張ります! 私にバッチリお任せを!」


 綺麗なお姉さんに見つめられながら頼られた紫音は、気持ちが高揚しておかしな返事をしてしまう。


 クリスは紫音が憧れる出来る大人の女性なので、そんな人に頼られるのが凄く嬉しかったからであった。クリスは投石機への攻撃の前に、紫音に攻撃の説明と指示を出す。


「投石機は残り四台、私が三つ、あと一つはリディアさんが壊してくれるはずだから、シオンは私の援護に専念して。私が魔法を三回撃ったら、成否はともかく囲まれる前に一度引くから」


 紫音は、いつもより多く刀にオーラを移すとクリスと示し合わせて、茂みから気配を消しながら一番近くにある投石機を守るオークに近づき、体を大きく捻りその回転を利用した強力な横薙ぎを放つ!


「廻転斬!」


 不意を突かれたオークは背中に横一文字の、大ダメージを受けよろめいた所を、さらに刀を大きく振り上げた紫音の、強力な振り下ろし斬撃を頭から受けて魔石になった。


「後ろから不意打ちって、卑怯かもしれないけど、これ悲しいけど戦争―」


 そうキメ顔で言いかけた所で、別のオークに襲われる。


「はうっ!」


 紫音は驚きのあまり変な声を出してしまったが、その攻撃を回避する。

 クリスは紫音を援護するためにレイピアで、素早くオークに連続で突きを放つが盾で防がれてしまう。


 だが、連続突きはオークに盾を構えたまま動きを固めさせるためで、素早くサイドステップして横からオークの防具の隙間を狙って、剥き出しになっている腕にレイピアを突き刺しそのまま上に斬り上げる。


 クリスはオークに盾を構えられないぐらいのダメージを与えると、反撃されないように素早く距離を空けた。


 フロッテアロンのレイピアは細身の剣で、その刀身はしならせることが出来ず振り込みが出来ないが、その分強靭な為に突きと斬撃で魔物に高いダメージを与えることができる。


 クリスは盾を構えられなくなったオークの攻撃を軽やかなステップで躱しながら、顔や防具の無い所に的確に鋭い突きや斬撃を入れダメージを蓄積させていく。


 その間に紫音は、高レベルオークに強力なダメージを与えるため、隙きが大きくなってしまう大技を使っていた。


 紫音は、刀でオークの攻撃を自分の右側へ受け流すと、そのまま流れるように体を回転させながら刀を斜め後ろまで振り上げ、力いっぱい逆袈裟の軌道で振り下ろす。


「廻撃斬!」


 体の回転と力いっぱいの振り下ろしで大ダメージを与え魔石に変化させる。

 そこに別のオークの攻撃を受けるが、大技は前に力強く踏み込み重心が前に残るため

 回避ステップが僅かに遅れかすり傷を負ってしまう。


(一人でオークと戦った時と同じで、体のあちこちに傷が増えてきて、正直あちこち痛い…。おかしいよ! どうして私は豚さんに、毎回こんな酷い目にあわされているの……? 前の世界で豚カツを、生姜焼きを、豚まんを、角煮を、酢豚を、豚汁を食べてきたからなの!? 豚の神様が私に罰を与えているの!?)


 紫音は長時間の戦闘から来る精神疲労と体の痛みで、冷静な思考ができなくなっていた。


「でも、美味しかったんだからしょうがないじゃない! ありがとう、豚さん! とても美味しかったです! ご馳走様でした!!」


 紫音がそう叫びながらオークを攻撃しているのを見てクリスは


(無理させすぎたかしら……)


 心配になりながら、ダメージを蓄積させたオークをようやく魔石に変える。


「そろそろ、投石機を破壊していきましょうか!」


 紫音がオーバーヒートする前に、方をつけるべきだと判断したクリスは、一番近くの投石機に狙いを定めた。


「ファイアーストーム!」


 ワンドを向けそう唱えると、投石機の下に魔法陣が現れそこから炎の嵐が巻き起こり、火災旋風のように炎が舞い上がり投石機と周りにいたオークを巻き込み、投石機を破壊する。


 続けて二台目に同じ様に、上級魔法ファイアーストームを唱えると周りにいたオークを巻き込みながら二台目も破壊した。


「わーい! 今度は焼豚(チャーシュー)だ~!」


 そのファイアーストームに巻き込まれて、落ちてきたオークに紫音がそう言いながら止めを刺して魔石に変えていく。


 思考がおかしくなっていても、体に覚え込ませた剣術が正確にオークを斬り伏せていく。


(ごめんなさい、シオン。新米冒険者に、頼りすぎてしまったわね……)


 クリスは頼れる戦力とは言え、新米冒険者の紫音に長時間高レベルの魔物と戦わせた上に、更にこんな負担を掛ける作戦に参加させてしまって、本当に申し訳ないと心の中で謝罪した。



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