50話  要塞戦終了・・・






 要塞の外ではユーウェインが、怪我人への救護と要塞内への搬送の指示を出してから、紫音達の元に近づいてきた。


「二人共、今回の戦い本当にご苦労だった、心より感謝する」


 紫音はアーマーボア戦からグダグダで、クリスに助けて貰ってばかりだったので、ユーウェインのその言葉に対して、意気消沈しながらこのように返す。


「いえ、私なんて……。クリスさんがいなかったら、どうなっていたことか……」


 その彼女の自己評価の言葉に対して、クリスは紫音を褒めてくれる。


「シオン、アナタはよくやったわ。初めての長時間の要塞防衛戦で、これだけ活躍できたなら上出来よ」


「オークの指揮官、副官も倒せませんでしたね……。私にもっと力があれば……」


 その考えが驕りだと解っていたが、紫音は残念そうに呟く。


「ここ最近は倒せてないから気にするな」

「えっ?」


 紫音の疑問の声に対して、スギハラは苦笑を浮かべながら答えた。


「そうなんですか?」

「最近は戦力が足りてないのよ、指揮官を倒すだけのね……」


 クリスがため息を吐きながら言うと、タイロンが補足説明をする。


「最近は、ほとんどの大手クランは参加していない、参加しているのは有志の冒険者だけだ。だから、100人ぐらいしか冒険者が集まらないのさ」


「……なるほど」


 そんな会話をしていると、リディアが近づいて会話に参加してきた。


「要塞防衛戦は、大手冒険者クランにとって報酬が見合ってないからね」


 リディアの発言通り、要塞防衛戦の報酬は薬品数個と冒険者ポイントだけであり、そのポイントも一体をみんなでボコるので、一人あたりは少なくなってしまう。

 何より報酬金が無いので、参加する者は少ない。


「でも、ここって人類最後の防衛拠点って聞いていたんですが?」


 紫音が驚いて尋ねると、エスリンが呆れならこのように答える。


「200人でもなんとか撃退できたでしょ? だから、自分達が行かなくても、結局なんとかなるって楽観的に考えているの」


「あぁ……」


 確かに200人で撃退できるなら、俺が私が参加しなくても大丈夫だろうと楽観視してしまうだろう。


「それに何より参加しない最大の理由が、倒しても意味がないからだよ……」


 エドガーは少し悲しそうな顔をしながら、そう言うとユーウェインが続けてその理由を説明する。


「一年半ぐらい前までは、ここで魔物を食い止める。そして、できれば数を削るという目的で結構クランも参加していたんだ。それこそ400人ぐらい集まった時もあった。そして、その戦力で各敵軍団の総司令官である四天王、それと副官を数体斃すことが出来た……」


 ユーウェインがそこまで説明をすると、今度はスギハラが続けた。

「だが、奴らは時間が立てば斃した四天王の代わりを”奴は所詮四天王でも最弱、補充はいくらでもきく”と言って補充してきやがった」


 スギハラに続いてクリスが話す。


「だから、人々は”魔王ですら200年で補充されたのだから、四天王ぐらい3ヶ月ぐらいで補充されるよね”って考えるようになってしまったの……」


「人類は数百年魔物と戦い続けてきて、どうせ倒しても仕方ないって、心のどこかで思っていた。それが一気に吹き出してしまったのかも知れないわね……」


 クリスに変わって、今度はリディアが説明をしてくれる。

 彼らの説明を聞いた紫音はあることを思い出す。


(それは、フェミニース様が創った、人類同士を争わせない【魔王システム】。人類同士が仲良くなって争いが無くならなければ、永遠に魔物と戦い続けなければならない……)


 この世界の絶望的な仕組みを、紫音は言わないほうがいいと思った……


「それからというもの、防衛戦参加がどんどん減っていってこの有様ってわけさ」


 タイロンがそう言った後にエスリンが続ける。


「それで今は追い返すのが、精一杯になっているわけなの」

「本当は、敵の戦力は削れる時に削りたいんですがね」


 エドガーはため息を吐いて、現状の厳しさを語った。


「だが、少なくてもここに集まっている者達は、打倒魔王をあきらめてはいない」


 ユーウェインが、今日戦った者達の思いを代弁する。

 それを聞いた紫音は、空気を読んでいない気もしたがこう訪ねた。


「あのー、説明してもらって何なんですが……。どうしてみなさんで、ローテーションによる説明を?」


「え?」


 六人で声を揃えて驚いて、笑い出した。


「確かに、そうだな。きっとみんな何故か、君に説明したくなったのさ。それは君が人に、信頼させる何かを持っているからだろう。だが、何よりも一生懸命で誠実だからかな。だから、その気持ちを無くさないでいて欲しい」


 ユーウェインが紫音の肩に手を置いて、真剣に語りかけてきた。


「はい!」


 ユーウェインの言葉には、彼の人柄の良さが出ているように感じて、紫音は力強く返事をする。


「まあ、シオン君にも魔王を倒す意志を、持ち続けて欲しいっていう俺達の期待だな」


 スギハラが、紫音に対する期待を口にした。


(魅力++スキルのお陰かな……、次は私自身の力で認められるようにしないと!)


 紫音はそう心に思いながら、自らの意志を表明する。


「はい、打倒魔王を目指して頑張ります!」


(魔王を倒せば、少なくとも数十年は今より魔物の驚異が減った、平和な時代が来るはずなんだから頑張らなければ!)


 そう考えながら、要塞への帰路についた。

 要塞では紫音の帰りをミリア達が待っていて、その中にいるレイチェルに気づくと、彼女に近寄って質問する。


「レイチェルさん、どうしてここに? アリシアの護衛をしなくてもいいんですか? それとも、アリシアがまた問題を起こして、軟禁でもされて護衛しなくてもよくなったのですか?」


「君はアリシア様を、何だと思っているんだ? アリシア様は君以外の事では、務めて王族として恥ずかしくない振る舞いをしておられる。だが、君と居る時が本来の姿なのかも知れないが……」


 紫音の偏見に満ちた予測にレイチェルは、少し考えながらそう言うと、紫音に自分が来た理由を話す。


「私はミレーヌ様に頼まれて、助太刀に来たんだ。その間はミレーヌ様が自身の執務室で、アリシア様を警護されている。まあ、主にミリアちゃんを守るように言われたがね」


 レイチェルは最後の部分だけ、近づいてきて紫音にだけ聞こえるよう言った。


(ミレーヌ様、もう一枚クッションを用意したんだ……)


 紫音がそう思っていると、レイチェルがそのまま小声で紫音に質問する。


「ところで、ミリアちゃんとリズちゃんは親友と聞いていたのだが、どうしてキャッキャウフフしないんだい? あの年齢の親友同士なら、キャッキャウフフして然るべきではないか?」


「私もそれを待っているんですが……。あの二人は性格的にやらないみたいですね……、少なくとも人前では……」


 淑女(ダメな年上)二人が、幼気な少女二人を見てため息を付いた。

 紫音は自分がキャッキャウフフするのはあまり好きではないが、他人がするのを見るのは、特に年下の女の子達がするのを、微笑ましく見守るのは嫌いではない。


「レイチェル、来ていたのか?」


 ユーウェイン達や数名の顔見知りが、昔ともに戦っていたレイチェルに話し掛けてきたので、紫音は邪魔にならないようにその場を離れることにした。


 紫音はソフィーに無事だったことを一方的に喜ばれ、抱きつこうとしている彼女をあしらっているクリスに近寄り、その状況をあえて見て見ぬ振りをしながら彼女に話しかける。


「クリスさん、今日はありがとうございました。」

「いいえ、こちらも助かったわ」


「ところで、折り入ってお話したいことがあるのですが、今度お時間いただけませんか?」

「なっ!? なんでお姉さまが、アンタなんかと話なんてしなくてはいけないのよ!」


 ソフィーが当然割って入ってくるが、クリスが邪魔とばかりにソフィーを向こうへ追いやった。


「酷いお姉さま……。でも、そんないけずなお姉さまもステキ!」


(ソフィーちゃんは、ハートが強いな。私もこれくらい心の強さが欲しいな…)


 紫音はソフィーのその強お花畑メンタルに感心する。


「そうね……、アナタとは一度キチンと話し会いをしておく必要があるかも知れないわね。時間を作るわ、連絡をするから栞の番号を交換しておきましょう」


 紫音はクリスと栞の番号交換をおこなう。


「お姉さまとプライベートで会うどころか、栞の番号の交換までして! この泥棒猫!」

 その交換の様子を見ていたソフィーが、紫音に言葉で噛み付いてくる。


「誰が泥棒猫だよ! ソフィーちゃんだって、私のミリアちゃんと仲良くして! ナツカレトラレしようとしたじゃない!」


 泥棒猫と言われ少し頭に血が昇った紫音が、ソフィーに顔を近づけてそう言い返した。


「ナツカレトラレって何よ! あの子が不安そうにしていたから、お話しとクッキーをあげていただけよ!」


 ソフィーはそう言い返すと…


「それと、きゅ、急に顔を近づけないでよ、ドキドキしちゃうじゃない……」


 その後、続けて紫音から顔を背けると照れながらそう言ってくる。


 それをレイチェルが知り合い達と話しながら、その優秀な視野の広さで見逃さずに見ていた。


(キマシタワーーーーー!)


 そして、心の中で歓喜の声を上げていた。

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