14.5話 ランクS現る






「でも、受けられないみたいだから大丈夫そうか」


 しかし、すぐさま冷静になり安心する。


「でも、受けないとエレナさんの家が困っているんです!」

「シオンさん……」


 紫音がシャーリーに食い下がると、エレナは彼女が自分の家の為に必死になってくれていることが嬉しかった。


「もういいです! 別に依頼を受けなくても、勝手に倒してしまうのは別に構わないですよね?」


 紫音が痺れを切らしてシャーリーにそう言い放つ。


「それは、お姉さんが許さないわ! 駆け出し冒険者のシオンちゃんが無謀な真似をしようとしているのを知った以上、私は全力でアナタを止めます」


 すると、シャーリーは紫音に初めて強い語調で諌めた。


「ただ… シオンちゃんの総合スキルがA以上なら、一人でも倒せるかも知れないから、私も一肌脱げるのだけど……」


 シャーリーがそう呟く。


「それなら!」


 その言葉を聞いた紫音は、鞄からスキルプレートを取り出しシャーリーに見せた。


「他の人には内緒でおねがいします」

「え、うん」


 シャーリーは、そう返事して紫音のスキルプレートを見ると、すぐに驚きの表情に変わる。

 それはそうだ。こんな頼りない娘がスキルAAランクだったのだから。


「すごい…… シオンちゃん、あなた……! 少し待っていてね、今から裏技を使うから!」


 そう言うとシャーリーは、事務所の奥に急いで入って行き、しばらくすると中から一枚の真新しい依頼書を持ってきた。


「この依頼所の内容なら、アナタ達でも受けられるわ」


 その依頼書の内容は―


 <パルム村の近くにある山から薬草を取ってくること>


 <報酬10000フェニー 冒険者ランクH以上 依頼者 シャーリー・エドマンド>


 と書かれていた。


「これ、どういうことですか?」


 紫音がシャーリーに質問する。


「だから、”薬草を取りに行ったら、オークが居たので遭遇戦になって、何か倒してしまいました~ てへぺろ♪”という事にするの。薬草取りの依頼は、冒険者ランクHからでも受けられるからね」


 つまりは”偶然オークと遭遇戦となり、戦ったら倒してしまった”ということにするのだ。

 シャーリーは説明を続ける。


「ただし、冒険者ランクHの依頼は報酬が雀の涙だから、オークの魔石を売っても多分赤字になるわ。それでも受ける?」


「「はい!」」


 二人は声を揃えて、返事をした。

 返事を聞いたシャーリーは、【受領】と掘られた判子を依頼書に押すと、その依頼書を紫音に渡す。


「受領依頼書を持っていると、その依頼内容に合わせて支給品がもらえるから」


 そう言うと支給品と書かれた回復薬を1本渡してくれた。


「この依頼内容だと回復薬1本だけど、無いよりはいいからね…。二人共、決して無理はしないこと。生きてこその物種だからね」


「大丈夫です。私、もう死ぬのは嫌なんで!」


 紫音は笑顔でそう答える。


(えぇぇぇぇぇ?! 何!? いつの間にそうなったの!? このままじゃあ……)


「㋛:よいではないか~、よいではないか~」

「㋓:あ~れ~」


「こうなってしまう! いや絶対になる! だって、俺そういう薄い本見たことあるから!! お世話になったから!!」


 それに、もし本当に討伐する気だとしても、二ヶ月前より強くなったみたいだが、レベル30オーク15体を倒せるようには思えない。


(この年齢の若いやつは、勇気と無謀を履き違える者が多い。みすみす死なせるわけには行かない!


 そう思ったスギハラは二人の後ろから叫んだ!


「ちょっと待った! その依頼、行かせるわけにはいかねぇ!」

「スギハラさん!?」


 急なスギハラの声にエレナはびっくりした。


「あなたは、あの時助けてくれた人?!」


 紫音達が、急なスギハラの登場に驚いていると彼はシャーリーに抗議する。


「シャーリーさん、君どうかしているぞ!? こんな無謀な依頼を認めるなんて!」


 だが、そう言われたシャーリーは、ジト目でこう言い返す。


「スギハラさん… 盗み聞きしていたんですか? あまりいい行為とは言えませんよ?」

「あっ… はい… すみません…… 」


 そう言われたスギハラは、バツが悪そうに謝ると依頼書の受理をやめるように、シャーリーに抗議を始めた。


「スギハラさん、この娘の総合ラン――」


 シャーリーは反論しようとそこまで言いかけたが、紫音が首を振って”言わないで”と、ジェスチャーしたので仕方なく途中で話を止める。


「どうしてもと言うなら、その依頼は俺が受ける。これから受ける依頼を終えてからになるが……」


 スギハラがそう申し出た。


「その依頼、どれだけかかるんですか?」


 紫音は当然いつになるのか質問する。


「三週間ぐらいかな……」


「三週間は少し長いと思います。今も、エレナさんの家の人や村の人は困っているんです。それに、その間に私が挑戦しても問題ないはずです!」


 彼の返事を聞いた紫音がそう反論したのは、エレナの家にはもう時間的余裕が無いからだ。


「どうしても、やるっていうのか?」

「はい!」


 紫音の決意は固い。

 そんな紫音を見たスギハラは、ふぅとため息をつくと仕方がないといった表情で、紫音の方に向き直りこう言った。


「だったら、これから俺と模擬戦をしようぜ? 俺から一本取れたら、お前さんの力を認めてここは引くとする。だが、もし俺のほうがお前さんを降参させたら、大人しく力不足を認めてこの依頼諦めな!」


 スギハラのこの提案に、エレナは紫音に断るように訴える。


「シオンさん、受ける必要はないです。こんな一方的なことに私達が従う必要は……、それにこの人は― 」


 紫音はエレナの言葉を遮ると、彼の正体を知っていることを話す。


「知っています。冒険者ランクSS、総合スキルランクSの人ですよね?」


 スギハラは、自分のことを知られていた事を知ると、ニヤリと笑みを浮かべると、スギハラは紫音にこう聞いてくる。


「まさか、逃げたりしないよな?」

「わかりました、この模擬戦受けます!」


 スギハラの挑発に、紫音は一歩も引かずに承諾した。


「そうこなくちゃな。シャーリーさん、すまないが木刀を2つ貸してくれ。冒険者同士の決闘用に、確かあっただろう?」


 スギハラは紫音の模擬戦承諾の返事を聞くと、シャーリーに頼んで用意された木刀を受け取り、対戦相手の男の娘に手渡す。


 対峙する二人を、シャーリーとエレナが心配そうに見つめていた。

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