14話 ランクS現る



 翌日――

 紫音達が、いつものように魔物退治を終えて、教会で魔石を換金した帰り、エレナは顔見知りのシスターから手紙を受け取った。


 宿に帰って来ると、紫音は宿屋の主人にこんな事を尋ねられる。


「そういえば、シオン君。君装備のメンテナスはしているのかい? 命を守るものだからな。点検はこまめにしないと駄目だぞ? 前回定期点検にはいつ出した?」


 そういえば、こっちの世界に来てから全くしていなかった。


「3ヶ月はしてないです」

「駄目だよ、装備の点検は3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月でしないと」


 紫音が答えると、主人が車の点検みたいなことを言ってくる。


「わかりました、今から行ってきます」

「専門の整備屋があるからそこに行きな」


 そう言われ、彼女はさっそく教えて貰った整備屋に行く。


「見た所は目立った傷はないみたいだが。まあ、見ただけでは解らない破損もあるかもしれん。詳しく調べるから2~3日預からせてもらうぞ」


 整備屋の店の店主は、紫音の装備を見てこう答えた。


「はい、お願いします」

「その間の装備はいるかい? レンタル料金はいただくが」


 レンタル料金は意外と高額で、新米冒険者の財布には厳しい。


「では、この刀だけ」

「鎧はいいのかい?」

「はい、メンテ中は街から出ないことにするので」


 紫音はこう答えると、刀だけレンタルして装備を預けて整備屋を後にした。

 整備屋から帰ってきて、遅れた晩ご飯を食堂で食べていると同じく遅れて食堂に来ていたエレナは元気がなかった。おそらくご飯前に読んだ手紙が原因なのであろう。


 翌朝、朝食を食べた紫音は、まだ元気のないエレナにこう詰め寄る。


「エレナさん、何か心配なことや困っていることがあるなら、私に相談してください。私達仲間じゃないですか!」


 ”隠し事はやめてください!”と、言えれば格好良かったのだが、私もまだ少し隠し事をエレナにしているので言えなかった。


 エレナは紫音の言葉を聞いて手紙の内容を話し始める。


「そうですね……、大事な仲間であるシオンさんに真っ先に相談するべきでしたね…」


 エレナは西の辺境にあるパロムの村出身で、その村の近くにとても質のいい薬草の生える山があり、彼女の家はそれを使って回復薬などの薬品を造っている。だが、半年前からその山の麓にレベル30のオークが15体居着いてしまったそうで、山に薬草を採りに行けなくなり、薬草製造が滞っているらしい。


 オーク、たしか見た目が猪みたいな牙が出ている豚みたいな顔の獣人タイプの魔物だと教習所で習ったやつだ。


 力が強くて、その豚みたいな鼻のお陰で匂いに敏感で、一体ずつおびき出すのが難しいって言っていた。それが15体とは、たしかに厄介だ。


「半年前から討伐依頼を冒険者協会に依頼したそうなのですが、地方では受けてくれる者が現れず、一ヶ月前からこの街に出したそうなのですがまだ…。そんな依頼が来たことに気づかずに居た自分が情けなくて…」


 そう言ったエレナの表情は、悔しさと悲しい感情が混じったものであった。

 その顔を見た紫音は、彼女にこう提案する。


「ならその依頼、私が受けます!」


 その紫音の提案を聞いたエレナは、嬉しかったがすぐに反対する。


「いくらシオンさんが強いとはいえ、十五体を相手にするのは危険です!」

「エレナさん私の総合スキルはAAですよ、お忘れですか? あと胸はAですけどね!」


 紫音は、また見栄を張った。

 エレナは紫音の今迄の戦いを思い出して、確かに紫音なら倒せるかもと思い、彼女の見栄をスルーしてその提案をありがたく受けることにする。


「そうですね…ありがとうございます、シオンさん!」

「そうは言っても、装備が返ってきてからになりますけど」


 二人は冒険者組合に依頼だけでも受けようと思ってやって来た。

 中に入る前に、二人は顔を見合うと意を決し中に入る。

 その二人を見て、驚愕を受けていた男がいた…… スギハラだ。


「ええ……」


 そして、彼は声にならない声を出していた。


 実はスギハラは声フェチでエレナの声がどストライクで、彼が今までに感銘を受けた声の持ち主は、エレナと総主教フィオナ・シューリス、そして親友にて盟友ユーウェイン・カムラートである。


 特にフィオナ・シューリスに信奉しており、


「俺、フィオナ様の栞の番号を知っているぜ」


 と、以前ユーウェインと一緒に食事をしている時に自慢された時は、近くにあったナプキンを知らずに噛んでいたほどだ。


 そんな彼がある日、教会に魔石を換金しに行くと回復のボランティアをしているエレナと偶然会うことになる。


 そして、その声を聞いてぜひ自分の【クラン】に誘いたいと思った。


 だが、彼は今まで男友達と馬鹿をやっていたことの方が多かったため、女性と話すのが苦手で意を決して話しかけても、当たり障りのない日常会話を少しすることぐらいしかできなかった。


 そうして今日、【クラン】で受ける依頼を受けに来たところ、偶然二人が一緒にいるところを見てしまったのである。


 彼は紫音が女の子だと気付いていないため、エレナがあのレベルの高い男の娘と仲良くしているように見えた。


「もしかしたら、彼女はアイツ(紫音)のことを女の子だと勘違いして、一緒にいるのかも知れない!」


(※紫音を男の娘だと勘違いしているのはスギハラです)


 スギハラはもう少し様子を見るため、持てる隠密スキル(?)を駆使してできるだけ近づき二人の様子を窺う。


「残念だけど、その依頼は今のシオンちゃん達は受けられないかな…」


 依頼を受けに来た、紫音達にシャーリーがそう答えた。


「どうしてですか?!」


 紫音が、理由を尋ねると彼女は説明してくれる。


「二人の冒険者ランクが足りないの。この依頼は冒険者ランク最低でもD、推奨はCなの。LV30のオーク15体が相手だからそれぐらいになっちゃうの、残念だけど……」


 紫音は冒険者ランクH、エレナはE両方とも足りていなかった。


「そんな……、なんとかならないんですか!?」

「こればかりは規則だから……」


 シャーリーが困った感じで答えた。


「なるほど、二人は依頼を受けに来たのか。でも、ランクが足りないから、受けられないと……」


 スギハラは、できるだけ息を殺し存在感を消し、会話を聞いていた。


「それにしても、どうしてこの依頼誰も受けてくれないんですか?」


 紫音の質問にシャーリーは、困った表情でその理由を話し始める。


「依頼内容と依頼料が合ってないからかな。レベル30のオーク15体を倒すのに少なくても、スキルランクD以上の冒険者6人は最低必要になるわ。パロムの村は場所が遠いからそれだけ移動するための交通費が掛かるの、しかも人数分。さらに長い移動時間。これならもっと近場で割のいい依頼があるから……」


「パロムの村!? めっちゃ遠い場所じゃないか! ということは、必然的にお泊まりになる……! ということは……!!」


 会話を盗み聞きしていたスギハラは、二人が旅に出た時に起こるであろう事を想像し始める。


 ######


「㋓:女の子同士だって事で、相部屋になってしまいましたね……」

「㋛:そうだね、エレナ。そんなところに立ってないでこっちに座りなよ」


「㋓:はい、そうですね」

「㋛:エレナ!」


「㋓:きゃあ!? シオンさんって、男の人だったんですね!」

「㋛:今頃気付いたのかい、お嬢ちゃん?」


「㋓:そ、そんな私を騙していたんですね?!」

「㋛:わははは~、よいではないか~、よいではないか~」


「㋓:あ~れ~」

(※R-指定が上がるので、途中からまろやかな表現になっています)


 ######


(嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)


 スギハラが一人妄想して、勝手に脳を破壊され心の中で絶叫した。




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