13.5話 初めての魔物退治
紫音達は、その後次々と魔物を倒していく。
五体目あたりから、紫音は実戦にも慣れはじめ、緊張からくる体の硬さもなくなっていた。
六体目のゴブリンを見つけると紫音は、エレナの強化魔法を待たずにゴブリンに急速接近する。戦いに慣れて、心に余裕ができた紫音は強化魔法のかかっていない、今の自分の本当の実力を試したくなったからだ。
紫音はゴブリンの目の前まで高速で一気に距離を詰めると、手前で高速サイドステップする。ゴブリンからは紫音が視界から急に消えたように見えたであろう。
横に移動しさらに魔物の後ろに高速移動した紫音は、そのまま背中を刀で斬りつける。
ゴブリンは何が起こったかも分からず、魔石に姿を変える。
紫音はあまりにも上手く倒せてしまったことに、自分がかなり強くなったことを自覚し始めるたが、心になにかモヤッとするものを少し感じた。
「シオンさん!?」
エレナが、驚いた感じで近づいてくる。
(しまった! 今の戦闘で私の総合スキルCが、嘘だとバレてしまったかもしれない…)
だが、その紫音の心配は杞憂であった。
「びっくりしました、魔法を掛ける前に急に行ってしまったので……。でも、魔法なしでもあんなに簡単に倒してしまうなんて、総合スキルCの前衛職の方は強いのですね」
何故なら彼女のPT戦はこれが初めてで、強さの基準がわからなかったからである。
(そうか、エレナさんはPTが初めてだから、他の人の強さがわからないんだ……)
紫音は安堵すると、自分に言い聞かせるようにこう言った。
「いえいえ、自分なんてまだまだですよ。これからも精進しないとです!」
それは謙遜で行った訳ではなく、慢心はいけないと祖母が言っていたからだ。
「そうですね、私もシオンさんに負けないように精進します!」
魔物を合計十体倒した頃、エレナが時計を見て街への帰還を提案してくる。
夜になると暗くなって視界が悪くなり、人間側に不利であるからだ。
「シオンさん、そろそろ街に戻ったほうがいい時間です」
「そうですね。では、帰りましょう」
街への帰り道、エレナが紫音にこのようなことを話しはじめる。
「シオンさん。PTを組んでいただいてありがとうございます。私、初めてシオンさんと会ってお話した時から、ずっと、シオンさんとなら勇気をだして魔物と戦えるのではと思っていました。だから、今日OKを頂いた時とても嬉しかったです」
その彼女の話を聞いた紫音はこう答える。
「私も、不安だったので正直嬉しかったです」
その返事を聞いたエレナは、意を決し紫音にお願いをしてきた。
「シオンさん、良ければこれからも私とPTを組んでくれませんか?」
「突然ですけど… エレナさんは… その… 好きな男性のタイプはどんな感じですか?」
紫音はすぐにでも「もちろん」と答えようと思ったが、アリシアの顔を思い出しこのような質問をしてしまう。彼女のように過度なスキンシップをされても困るからだ。現にエレナは感極まったとはいえ、先程抱きついてきている。
「そうですね…… 誰にでも優しくて誠実な方でしょうか……? そんな方と将来結婚できたら素敵ですね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
その答えを聞いた紫音は、エレナはノーマルだと確信すると即答して、二人は握手した。
「シオン様、今日は連絡が遅いです……」
授業を終えた自称・紫音の運命から宿命の相棒(さらに意味深)になったアリシアが、今回は何も感じずにシオンからの連絡を待っていた。
自分から連絡するのは淑女として、はしたないという彼女なりの乙女心である。
街への帰り道に、エレナは紫音にもう一つ頼み事をしてきた。
「冒険者として働き始めたからには、これ以上教会でお世話になるわけにはいかないので、宿屋に泊まろうと思っています。そこで、シオンさんの泊まっている宿に空室が、あるなら紹介していただけませんか?」
「宿のご主人に聞いてみますね」
紫音が、宿の主人に話をすると
「シオン君の友達なら大歓迎だ、君にもサービスするぞ」
宿の主人が歓迎してくれた。
それから紫音は一ヶ月の間、早朝は朝練をして、それが終わると夕方近くまでエレナと魔物退治、夜は余力があればオーラ技の練習をする。
紫音は、実戦を重ねて順調に強くなってきていることに手応えを感じてはいるが、強くなったと感じれば感じるほど心の奥にあるモヤっとしたものは、大きくなっているような気がした。
そして、さすがのエレナも紫音の強さに疑問を持ちはじめてくる。
何故ならこの一ヶ月エレナは回復魔法を一度も使っていなかった。
とにかく紫音が早すぎて魔物の攻撃を受けない。
エレナも当初はスピード重視の近接アタッカーは、攻撃をあまり受けないと聞いていたので疑問に思わなかったが、このあたりの魔物のLVが低いとはいえ五体同時に相手にしても、全く攻撃を受けない紫音に疑問を抱いてしまう。
エレナは紫音が強いのはいいとして、自分が役に立っていないことが心苦しかった。
「エレナさんのお弁当、今日も美味しいですね」
役に立っている事といえばお昼のお弁当だけだった。
紫音も最近エレナが少し元気のない事に気付いており、自分がスキルの事で嘘をついていることに気がついて、信頼されていないと考え彼女が傷ついているのではないかと思うと心が痛みだす。
初めてできた仲間にこれ以上隠し事をするのはやめよう、話せる範囲だけでも話そうと思い立つ。
紫音はエレナに自分の本当の性名、天音の子孫であること、本当のスキルランクを伝えた。
「私の本当の総合スキルはAAです。今まで嘘をついていてごめんなさい」
そして、エレナに今まで騙していたことを謝罪した。
あと、アリシアのことは…… 今度でいいかな。
「そうだったんですか、正直に話してくれてありがとうございます。それだけで、うれしいです」
エレナは紫音が正直に話してくれたことに、役に立っていない自分を紫音は大事な仲間だと思ってくれていることが嬉しかった。
「でも、アマネ様のことはともかくどうして総合スキルのことまで隠していたんですか?」
「私の故郷のことわざにこういのがあります。”雉も鳴かずば撃たれまい”と!」
「キジ? ……うたれまい?」
エレナは初めて聞くことわざにピンときていない。
「つまりは、変に目立つなということです」
「なるほど。たしかにそうかも知れませんね」
その事を聞いたエレナはようやく理解して頷く。
「あらためて、これからもよろしくエレナさん」
「はい、こちらこそシオンさん」
二人は再び握手した。
「そうだ、エレナさん。私、総合スキルはAAですけど、胸のサイズはAですから!!」
紫音は最後に見栄を張ってしまう。
そうこれは嘘ではない、年頃の女の子の些細な見栄なのだと、断じて嘘ではないのだと
自分に言い聞かせる。
そして、エレナにもその考えは伝わったのか特にツッコミはなかった。
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