13話 初めての魔物退治
紫音の冒険者人生三日目、今日こそは魔物を倒そう。
そう決めた紫音は、鞄の中身を確認する。
(よし、アイテムは全てあるね。では、冒険者組合へ…。もう一回確かめよう)
紫音は初めて魔物との戦闘に踏ん切りがつかずに、アイテム確認を理由にして出発するのを躊躇ってしまう。アイテムが全て揃っているのを三回ほど確認すると、紫音は覚悟を決めて冒険者組合へ向かうことにした。
冒険者組合の入り口まで来ると、エレナが立っているのが見える。
「シオンさんよろしければ、私とパーティーを組んでいただけませんか?」
エレナは紫音に気付くと近寄ってきて、パーティーを組んで欲しいとお願いしてきた。
「はい、一緒に魔物と戦いましょう!」
紫音はいきなりの誘いに驚いたが、正直彼女自身も一人だと不安だったので、了承することにする。というか、仲間がいるのはとても心強く、それが意気投合したエレナならば拒む理由はない。
二人は冒険者組合に入ると、受付のシャーリーの元に行く。
「冒険者としての仕事をしたいのですけど……」
紫音がそう言うと、シャーリーがこう尋ねくる。
「シオンちゃんは魔物と戦ったことは?」
「まだ、ないです」
紫音が正直にそう答えると、彼女はこのようなアドバイスをくれた。
「じゃあ、最初は依頼を受けずに魔物を倒すだけのほうがいいかもね。余計なプレッシャーも掛からずに済むし、冒険者プレートを持って倒せばポイントも入るからね。冒険者ランクの低い人は、街の近くの魔物を倒して手に入れた魔石を教会で、お金に換金するだけの人もいるわ」
確かに初心者にはそのほうがいいかもしれない。
そう思った紫音はエレナの意見も聞いてみると、彼女も初めてなのでそれでいいと答えたので、二人は依頼を受けずに魔物退治だけをすることにする。
二人は街の外に出てきた。
「ついに、実戦ですね。緊張します」
エレナがそう言うと紫音は、自分を鼓舞するように返事をする。
「気を引き締めていきましょう!」
周りを見渡すと魔物の姿は見当たらない。
「やはり、近くの魔物はすっかり狩られてしまっていますね」
シャーリーの言っていたとおり、周囲の魔物を倒している者たちがいるようで、その姿は見当たらなかった。魔物が居ないということは安全なことなので、良いことではあるのだが紫音達には困った状況である。
「もう少し、先に行ってみましょう」
二人は魔物を求めて、しばらく街道沿いを歩く。
天気はとてもよく、これがピクニックならどれほどいいかと思った。
紫音はもういっそうピクニックにしたいと思ったが、お金のことや他のことを考えるとそういうわけにもいかない。
「そろそろ、街道を離れましょうか?」
紫音は街道から離れて、魔物を探す事をエレナに提案する。
「はい!」
その提案にエレナは、緊張の混じった声でそう返事した。
街道を外れ、しばらく野原を歩くと遠くにゴブリンを発見する。
説明通り冒険者プレートの神秘な力のお陰で、ゴブリンの頭の上にレベルが視える。
「ゴブリン発見、数は1、レベルは2」
「シオンさん、身体強化の魔法を掛けます」
紫音が冷静にエレナにゴブリン発見の報告をすると、エレナが手に持ったロッドに魔力を溜め神聖魔法を発動させる。
「プロテクション!」
エレナがそう詠唱するとロッドが光り、紫音の全身が白く輝く。
「これは?」
紫音の質問に、エレナがこの神聖魔法の効果を説明する。
「これはプロテクションという神聖魔法です。しばらく身体能力や防御力が少しだけ強化されます」
「ありがとう、エレナさん」
刀を抜いてゴブリンに向かおうとするが、紫音はこの世界にはじめて来た時のことを思い出す。
「ちょっと、準備運動しますね」
「そうですね、準備運動は大事だと思います!」
紫音は軽く体を動かし、その側でエレナはストレッチをしている。
準備運動を提案したのは、プロテクションの身体強化が女神の加護のように感覚と身体の齟齬を生むのではないかと懸念したからだ。
ある程度体の感覚を確かめると、プロテクションの身体強化はそこまで強力ではないようで、強化分の感覚にすぐに慣れる。
紫音はもう一度プロテクションを掛けてもらうと、静かにゴブリンに近づく。
「たしか、教習では遠距離武器で先制攻撃して、安全なところまで引っ張るほうがいいって言っていたはず」
遠距離武器を持っていないので、紫音は足元に落ちている石を拾うとゴブリンに投げつけた。
石をぶつけられたゴブリンは、紫音を見つけ近寄ってくる。
彼女はゆっくり後退すると、ゴブリンが攻撃を仕掛けてきた。
紫音にはゴブリンの一連の動きが遅く見え、余裕をもってゴブリンの攻撃を避けると、がら空きになっている背中を袈裟斬する。
斬った感触は居合で使う藁巻を斬ったときのような感触だった。
「グギャア!」
ゴブリンは一瞬そう悲鳴を上げると、黒い煙となって消え魔石だけが残る。
とてもあっけなかった。
紫音があっけにとられていると、エレナが近づいてきて抱きついてくる。
どうやら、初めての戦闘の勝利とお互いの無事で感極まったようだ。
彼女は故郷の村を出て冒険者にも慣れずに、教会で一年間燻っていたのだからそれも仕方がない。
アリシアが見たら、荒れ狂うだろうが……
「やりましたね、シオンさん! ゴブリンを倒しました!」
「やったーーーー!」
エレナに抱きつかれて、ようやくゴブリンを倒した実感を得た紫音は、初めて魔物を倒した喜びを感じる。
「はっ!? 今急に体に悪寒が!? シオン様になにか良からぬことが起きていなければいいけど……」
授業中に百合レーダーが発動したのか、急に自分の体に悪寒が走った自称・紫音の運命の相棒(意味深)のアリシアは、言い知れぬ不安に襲われていた。
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