10.5話 冒険者育成教習所





 


 冒険者育成教習に参加することになった紫音は、早朝からは朝練、夕方までは冒険者育成教習、その後宿に戻りまた自主訓練を続けた。


 そして、一ヶ月過ぎた頃、ついにオーラを使う技を教わることになる。


 オーラとは体の中にある力で、前衛職はそれを武器に宿すことで武器の破壊力を上げ、防御力の高い魔物や鎧で固めた魔物、スライムなどの物理属性の効きにくい魔物に有効な攻撃技だ。


 さらに武器に宿す量を増やすことで、オーラの刃を伸ばし大型の魔物にも有効な斬撃ができるようになり、さらに飛ばすことで遠距離の敵にも攻撃できるとても便利な技であるらしい。


 さらに応用技がいくつかあるらしく、ミドルトンが初日に見せた、足に纏わせて地面を蹴る力を上げ急加速する“オーラステップ”もそのひとつらしい。


「オーラ技、これはなんとしても体得しなくては!」


 そう意気込んだ紫音だが、なかなか体得できなかった。

 そもそも、今まで生きてきてオーラなんてものを意識したこともなければ、使ったこともなかった紫音には難しい技術であり、習得に苦戦するのは仕方がない。


 紫音は、教官にコツを聞いたりして練習を続けた。

 そして、半月後ついに―


「オーラブレード!」


 弱々しいオーラが木刀に宿った。


「初心者にしては中々才能がありますよ、君は。使えない人は、教習中に使えない人もいますからね」


「えへへへ~」


 ミドルトンが褒めてくれたので、紫音は嬉しくなって照れてしまう。

 そして、何となくコツが判ったような気がした。


 一ヶ月半の鍛錬で、染み込ませた感覚と今の身体能力の差異はすでに無くなっており


「これからは、オーラ技の練習に重点を置こう」


 オーラ技の訓練に重点を置くことにする。オーラ技の習得はこれからの魔物との戦いで必須であることは明白であり、魔王を倒そうと考えている紫音にとっては必須技能と言える。


 そして、あっという間に二ヶ月が過ぎ冒険者育成教習が終了した。


 結局オーラブレードは、時間を掛ければできるようになったが、実戦では使えないレベルなので、これからも鍛錬を積もうと考えている。


「みなさん、よく二ヶ月頑張りました。ですが、みなさんの冒険者としての人生はこれから始まるのです」


 教習を終了した新米冒険者達に、教官達は講習終了書を渡していく。


「この終了書を、冒険者組合に持っていってください。そうすると冒険者ライセンスが貰えます」


 紫音は講習終了書をもらうと教官にお礼をして、その足で冒険者組合に向かう。

 冒険者組合に近づくと、紫音は後ろから声を掛けられる。


 振り向くとそこには、初めて冒険者組合に行った時に絡まれた強面の荒くれ冒険者が立っていた。三人は下卑た笑みを浮かべながら、相変わらずの態度で紫音を脅してくる。


「やっと見つけたぞ、小僧!」

「あの時の、慰謝料今払ってもらおうか?」


 紫音は(ああ、そういうことか…)と、すぐに彼らの意図を察知した。


「あの時ちゃんと謝ったし、それに私だけが悪いわけじゃないでしょう?」


 彼女のまっとうな反論に、金が欲しいだけの彼が聞く耳を持つわけもない。


「おとなしく金を出せば、痛い思いせずに済んだのによ!」


 そう言うと三人は武器を手にする。

 金が手に入らないなら、せめて紫音を酷い目に合わせて溜飲を下げようということだ。

 それを見て、紫音も刀を抜くと峰を返す。


 紫音は冷静に三人の動きを見ながら、間合いを取る。

 自分でもどうして、戦闘になった途端こんなに冷静になるのか分からなかった。


 荒くれ冒険者の一人が武器を振りかぶった瞬間、その空いた胴に向かって紫音は高速で飛び込むと胴打ちを鮮やかに決め、胴を打たれた荒くれ者はその場に崩れ落ちた。


(上手くできた! ちゃんと成長している!)


 二ヶ月前、ゴブリンに決められなかった技が決まったことに、紫音は自分が成長したことを実感する。元々の紫音の剣術の腕前と、女神の加護によって得た能力のおかげであるが、彼女の努力の成果でもあるだろう。


 この世界の人達が見たら、紫音の動きは常人離れしているように見えるかもしれない。

 現に何が起こったかわからず、明らかに動揺している残った二人。


「安心してください、峰打ちです。まだ続けますか?」


 その二人に紫音は剣先を向けて、できるだけ威圧感とデキる剣士感を出しながら、低い声でそう言葉を発する。


「「おっ 覚えていろよ~!!」」


 二人の荒くれ冒険者は勝てないと悟ると、お約束の捨て台詞をはいて、倒れた仲間を連れて逃げていく。


 三人が居なくなったのを、確認した紫音は緊張の糸が一気に切れる。


「今日はもう帰ろう… もう帰りたい…。ううん、帰る~」


 紫音は実戦の緊張に心が耐えきれなくなり、半泣きで宿にそそくさと帰ってしまう。


 つい最近まで実戦とは無縁に生きてきた女子高生の紫音には、初めての戦闘による精神的疲労の大きさで心が折れてしまうのは仕方がなかった。


「さらに、できるようになったな… 例の男の娘!」


 その光景を物陰からたまたま見ていたスギハラが、誰かのモノマネをしながら呟く。


 その夜―

 宿にまた半泣きで帰ってきた紫音に、女将さんが黙ってプリンを特別に出してくれる。


「プリンおいしい~。明日も頑張ろう~♪」


 紫音は女将さんの優しさとプリンに癒やされ、明日からまた頑張ろうと思うのだった。
















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