11話 新米冒険者、教会にて




 翌日、紫音は気持ちを強く持ち冒険者組合に向かう。

 冒険者組合に入ると、カウンターから彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。


「シオンちゃん、こっち,こっち!」


 紫音に気付いた受付のお姉さん、シャーリーが手を振って呼んでくれた。


「シオンちゃんなら、昨日すぐ来ると思ったんだけど、どうしたの?」

「昨日は…その…、疲れてしまってすぐに宿に帰ったんです…」


 紫音は初めての対人戦で心が折れたとも言えずに、シャーリーから眼を逸しながらそう答える。


「これ、講習終了書です」


 紫音は話題を変えるため、やや強引に講習終了書を彼女に渡す。

 講習終了書を受け取ったシャーリーは、手慣れた感じで手続きをすると、紫音に発行されたばかりの冒険者ライセンスを手渡してくれる。


「はい、確かに。では、こちらが冒険者ライセンスです」

「これで、私も冒険者……」


 紫音がライセンスを感慨深く見ていると、シャーリーが次の手続きの説明を始めた。


「そのライセンスを持って、次はフェミニース教会に向かってね。ライセンスを教会の人に見せると、冒険者に必要な女神様のアイテムが貰えるからね」


 彼女の説明を聞いた紫音は、こう言ってフェミニース教会に向かおうとする。


「わかりました。今からさっそく行ってきます」


 すると、シャーリーは続けて、こう説明をしてくれた。


「アイテムを貰って、今日からでも冒険者の仕事がしたくなったら、またここに戻ってきてね。依頼の受け方を教えてあげるからね」


「はい。では、行ってきます」


 紫音はシャーリーの説明に従って、二ヶ月ぶりにフェミニース教会にやってくる。

 以前は足の痛みで気づかなかったが、教会の後ろの方にある施設から出ている大きな煙突からキラキラと光る煙が見えた。


 教会の中に入ると、教会内が張り詰めた空気に包まれており、エレナが紫音に気づいて近づいてくる。


「お久しぶりですね、シオンさん。今日はどんなごようですか?」

「今日は冒険者ライセンスを持ってきました」


「そうですか、ついに冒険者になったのですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます、エレナさん」


 紫音は、エレナに教会内の空気が張り詰めていることについて、質問してみた。


「ところで、今日は教会内の空気が張り詰めていませんか?」


「実はここだけの話なのですが、昨日からこの教会に【フェミニース教】の総主教様である、あの聖女フィオナ・シューリス様がお忍びで来ているんです」


 そんな偉い人が来ているなら、教会の人達が緊張するのも当然だ。


「では、こちらへどうぞ」


 エレナは教会の端にある【冒険者こちらへ】と掲げられた部屋に案内する。

 すると、中にはいくつかの窓口とそれに並ぶ数人の冒険者達がいた。


「シオンさん、あの窓口で冒険者ライセンスを見せてください」


 紫音は言われたとおり列に並び、順番を待つと窓口の椅子に座る。

 窓口の係に冒険者ライセンスを見せると、教会の係員シスターが質問をしてきた。


「新米冒険者ですね、では冒険のお供【女神グッズ】をお渡しします。あなたはすでに鞄をお持ちですね、他に持っているものはありますか?」


「【女神の寝袋】を持っています」


「では、その他のものをお渡ししますね。まず、【女神の時計】。これは女神様の不思議な力で、時刻を自動で調整してくれさらに太陽光もしくは強い光でネジを巻く必要がないという神秘の時計です」


 まさかのソーラー電波時計の登場に、驚いたが掌と同じくらいの大きさの懐中時計型なので、戦闘中には使いづらいというこれまた使い勝手の悪い時計だ。


「次は、この【女神の栞】です。あとこちら栞用魔石充電器です。栞の着信音は鈴虫、犬、猫どれにしますか?」


 充電器ってやっぱり携帯じゃないかと思いながら、「猫でお願いします」と答えた、紫音は猫派だった。


「では次に、このスキルプレートをお渡しします。このスキルプレートはフェミニース様の神秘の力によって、あなたの現在のスキルを表記してくれる者です」


 さらに係員による説明は続く。


「このスキルプレートは、フェミニース様がスキルを可視化できるようにすることで、女性だと言う理由だけで採用されない悪しき習慣をなくし、ちゃんと能力で採用しなさいという素晴らしいものなのです!」


 係員シスターは熱く説明してくれる。


「スキルプレートの内容記入・更新は、あちらの専用台で行ってください」


 案内された場所を見ると、衝立で区切られた台が見えた。


「次はこちらの冒険者プレートです。こちらもフェミニース様の神秘の力が掛けられており、これを持っていると魔物のLVが視えるようになります。あと、倒した魔物の強さによって冒険者ポイントが記録されます。そのポイントは冒険者ランクが上がる条件のひとつになります」


 紫音はフェミニース様、さすがに世界に干渉しすぎだろうと思った。

 あの方は人類をどうしたいのだろう、鞭でしばきたいのか、飴で甘やかしたいのかどっちなのだろうと疑問に思う。


「以上です。あと、これらのアイテムは初回無料ですが、次回からはお布施として料金が発生するのでご了承ください。料金表はこちらです」


 料金表パンフレットを見ると、結構な値段が載っていた。

 壊さないように気をつけないと……


「ありがとうございました」


 紫音は係員にお礼をすると、スキルプレート以外を鞄に入れスキルプレート更新台に向かう。


 更新台に向かうと、わざわざ待ってくれていたエレナがこう申し出てくれる。


「シオンさん、更新台の使い方わかりますか? よろしければ、お教えしましょうか?」

「初めてなので助かります。おねがいします」

「では、左の大きな丸にスキルプレートを置いてください」


 紫音は言われたとおりにプレートを置く。


「次にこちらの左に書いている掌のマークに手を置いてください」


 紫音が左手を置くと、スキルプレートが輝きだししばらくすると文字が刻まれていく。

 文字が刻み終わると、プレートの輝きが消える。


「プレートの輝きが消えれば終了です。」


 エレナが何故か背中を向けて説明してきたので、紫音は疑問に思って理由を尋ねてみた。


「何故、後ろを向いているんですか?」

「他人のスキルプレートを勝手に見るのは、マナー違反とされているので」

「確かに、低い数値だと恥ずかしいですよね」


 紫音はエレナにそう答えてから、スキルプレートを台から取ると、プレートは少し温かくなっている。


「えーと、私のスキルは……」


 色々なスキルの数値が10~30以内に収まっていたが、横に追記されている+の数値のお陰で、最終の数値が80を超えているものが多かった。


「この+の数値はなんですか?」

「それは女神の加護の強化数値です」


 総合スキルランクはAA


「ちなみに平均スキルランクはどれくらいですか?」

「Cですね。ちなみに、私はお恥ずかしいですがDです」


「一番高いランクは?」

「Sです、次はAAです」


 紫音は少し考え、「Cでした」と答えた。


 新米冒険者がAAというのは、色々まずい気がしたからだ。

 昔の偉い人が言っていた。


(出る杭は打たれる、と!)


 そして紫音は最後にポツリと呟く。


「総合スキルもAA……」


 紫音はもうひとつのAAを胸に思い浮かべ、その因縁めいた記号に心の中で泣いた……

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