07.5話 冒険者の街への道のり(3)


 



 三日目も何事もなく、次の町ケルトについた。

 明日はいよいよ冒険者の街アルトンに着く、恐らく私の冒険者人生が始まる。

 それと、アリシア達とも別れることになる……


「シオン様一緒の― 」

「駄目です」


 紫音がベッドの中で少し寂しさに浸っていると、アリシアが恒例となったこの言葉を言ってきたが秒で断る。


(でも、アリシアとのこのやり取りも、今日で最後だと思うと感慨深いな…。まあ、一緒のベッドはゴメンだけど!)


 そう思っていると背後に気配を感じたので、紫音が慌てて起き上がるとアリシアが思いつめた顔でベッドの横に立っていた。


「アリシアどうしたの?」


 その表情を見た紫音が、そう恐る恐る尋ねるとアリシアはこう答えた。


「今日でシオン様と一緒に過ごす夜は、ひとまず終わってしまいます。ですので、わたくし今日なんとしてもシオン様と一緒に寝ます!」


「やっぱりそうか!?」


 そう言いながら、アリシアがベッドに強引に入ってこようとしてくる。


「さすがにそれはまずいよ、アリシア! R指定が上がっちゃうから!!」


 そう言って必死に抵抗したが、アリシアはその華奢な見た目によらず力が強い。

 紫音とアリシアの体格にはさほど差はないのだが、明らかに紫音よりパワーがある。


「ふふふ、シオン様油断しましたね。フェミニース様の加護の強化によって、わたくし力には自信あるのです。この世界では、見た目では相手の本当の身体能力が判断できないということを、覚えておいたほうがいいですよ?」


 アリシアはそう言いながら、紫音を力で抑え込んでいく。

 そして、紫音は遂に力負けして、アリシアのベッド侵入を許してしまう。


(だめだよ、アリシア! こんなの早すぎるよ!)


 だが、アリシアは紫音の横に添い寝すると、「それでは、シオン様おやすみなさい」とそのまま寝てしまう。


「私、いつの間にか汚れた心になってしまっていた……、私のバカ!」


 紫音は自分の心に恥じて眠りにつく。

 アリシアが横で寝ていたのが、気になってしまい寝不足気味になってしまう紫音であった。


 次の朝、なんとか起きてやはり起きなかったアリシアを置いて、紫音が眠そうに素振りをしていると、レイチェルが近づいてきてこのように尋ねてくる。


「どうしたんだい、今朝は眠そうだね? はっ!? ま、まさか昨晩は!?」

「自分の心の未熟さを恥じているだけです」


「シオン君!? そ、それは、一体どういう意味なんだ!?」


 レイチェルが、顔を赤くして妄想している姿を尻目に、紫音は朝練を終えたので部屋に戻る。


「最後の日まで……、起きられないなんてわたくしのバカ……」


 部屋に戻ってくると、アリシアがベッドの上でそう言って落ち込んでいた。


「でも、昨晩は一緒に寝たのだから差し引きゼロ、いえむしろプラスのはずよ、アリシア!」


 だが、すぐさまそう言って自分を慰め元気になる。

 そして、紫音はそっと扉を閉めた。


 四日目この旅の終着点、冒険者の街アルトンに向かう。


「そうだ、シオン様。これわたくしの【女神の栞】の番号です」


 今日もアリシアと会話していると、最終日だというのに紫音はまた謎の単語を聞くことになる。


「【女神の栞】ってなんですか?」


 まあ、名前からして便利な女神グッズだとは思うが、ここまで着たら【聞くは一時の恥、聞かずは一生の恥】ということで、詳しく聞いておこうと思った。


「【女神の栞】というのは、これです」


 アリシアが、鞄から不思議な金属でできた栞のような細長い物を取り出して、紫音に見せると説明をしてくれる。


【女神の栞】は女神フェミニース様の不思議な力によって、遠くにいる人に20秒分だけ話した事を送ることができるアイテムらしい。


 フェミニース教会で冒険者に配られているもので、それぞれシリアルナンバーが刻印されていており、そのナンバーが電話番号の役目を果たす。


 あと着信音は鈴虫の鳴き声、猫の鳴き声、犬の鳴き声から選べるそうだ。


「では、実際にレイチェルに使ってみせますね。まずこの表の部分にある数字を押して、レイチェルのシリアル番号を入力してから、この○の刻印をおします。すると刻印が緑に光るので言葉を20秒間以内に話します」


 そして、アリシアは栞に向かって、「今日はいい天気ですね」と喋りかけると、矢印の刻印を押す。


 すると、レイチェルの腰の鞄から犬の鳴き声がしてくる。


「レイチェルさんは、犬派なんですね」


 紫音がそう言うと、レイチェルは少し照れながら鞄から栞を取り出して、栞の赤く光った○の刻印を押す。


 すると、「今日はいい天気ですね」と栞から先程の声が聴こえてくる。


「あと、この音符の刻印を押すと、着信音が鳴らなくなります。魔物の偵察時などに音で気づかれたくない時に使う機能です」


 つまりは、携帯のすごい劣化版みたいなモノである。

 しかし、この世界の家電は便利そうに見えて絶妙に使いにくい。

 おそらくフェミニースが意図的にそうしているのだろう……


「シオン様、わたくしの番号を書いた紙です。シオン様からのご連絡、心待ちにしていますね」


 アリシアは番号を書いた紙を紫音の両手を握りながら渡してくる。



「これは私の番号だ、一応渡しておくよ」


 レイチェルは美少女二人のキマシタワーをしばらく堪能した後、クールなできる女性の顔と声でそう言って紙を渡してくれた。


 紫音はレイチェルの紙を受け取っるために、これ幸いとアリシアの手を解きその紙を受け取る。


(シオン様のいけず…… でも、そんなクールな感じのシオン様も素敵♡)


 という顔をしているアリシアと


(しまった! 折角のキマシタワーが! もうちょっと後で渡せばよかった!)


 という顔をしているレイチェルに


「二人ともありがとうございます、何かあったら遠慮なく連絡させてもらいます」


 と答える紫音であった。

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