07話 冒険者の街への道のり(3)

 

 



 みんなと食事を済ませた後、シャワーを浴びベッドに入った紫音は、結局断りきれずにアリシアと相部屋になり、先にベッドに入っていたアリシアとは違うベッドに入る。


 初めての異世界での夜、紫音はベッドの中で今日のことを思い返していた。


 今日は本当に色々あった……、自分が元の世界で死んでしまったこと……、

 二人の女神様にあって異世界に転生したこと、魔物に襲われたこと、ユーウェインに助けられたこと、アリシアに会ったこと……


 紫音が暗い天井を見ながら、目まぐるしく起きた今日の出来事を振り返っていると、アリシアが声を掛けてくる。


「アリシア様、もう寝ました?」

「いえ、まだですシオン様」


「アリシア様は、私の事をどこまで知っているのですか?」


「セシリア様がアマネ様から聞いた、アマネ様がこことは違う別の世界のニホン? というところから来たこと。セシリア様がそのニホンのことについて聞いて、日記に記した内容だけです」


「くれぐれも異世界のことは内緒で……」


 この紫音の“内緒にしてくれ”とは、フェミニース様からは言われなかったが、内緒にしておいたほうがいいかなと思っての発言であった。現に天音様も内緒にしていたみたいだし、一人を除いては……


「わかっています、シオン様」

「ありがとうございます」


「あとわたくしのことは、二人だけの時はアリシアとお呼びください」

「そんなわけには……」


「御二人は二人だけの時は、そう呼び合っていたみたいなのです」

「それほど仲が良かったんですね」


「御二人は亡くなるまで、お互い独り身だったそうです。だからわたくしもシオン様と同じで直系ではないのです」


「そうなのですか……」


「きっとお互いを想い合っていたのだと思います。でなければ、本来このような重大な日記を隠して残すことなど無いと思います。でも、セシリア様はアマネ様との思い出の詰まったこの日記をどうしても処分できなかったのだと思います」


「わたくしそんな御二人の関係にずっと憧れてきたのです。だからアマネ様の子孫のシオン様と御二人と同じような関係になりたいのです」


 紫音は少し考えると、上半身をベッドから起こし、


「わかりま――、わかったわ、アリシア。アマネ様のように頼れる人になれるか分からないけど、これからもよろしくね」


「はい、わたくしこそ不束者ですが、これからもよろしくお願いします、シオン様」

「えっ、そっちは様付けなの!?」


「だって、わたくしにとってシオン様はシオン様なのです!」


「あの~シオン様、そちらでご一緒に寝てもいいで―」

「駄目です」


 紫音は無表情で、間髪いれずに答える。


 その頃―


「俺のターン、ドロー。コストを2払ってロックゴーレムを召喚! 後衛にいるクロスボウゴブリンに岩石投げアタック!」


 ユーウェインのロックゴーレムが、ミゲルのゴブリンを破壊した。


「続けて場にいるサラマンダーで、オーガに攻撃! 最後、ファイアードラゴンでライフに攻撃!」


 この時点でミゲルのライフが0なり、ユーウェインの勝利が確定する。


「隊長、もう寝ましょうよ。カードゲームはもういいでしょう? 明日も早いですよ?」


 ユーウェインとそれに付き合わされているミゲルが遊んでいるのは、魔物バトルというカードゲームで実在する魔物が描かれたカードで戦ういわゆるアナログカードゲームだ。


 三年前から子供向けに発売された物で、当初はこれを買えば魔物の弱点・属性・攻撃方法が解り、魔物の知識が得られるという触れ込みで売り出された。


 今までにないゲーム性とイラストの格好よさ親に魔物の勉強になるという、おねだりのしやすさで子供から大きなお友達まで人気の商品となっている。


「仕方ない、明日に備えてお前は寝るといい。私はもう少しデッキ構成を考え直してから寝ることにしよう」


 ミゲルは借りていたユーウェインの予備デッキを返すと、敬礼して自分の部屋に返っていった。


 こうして、紫音の異世界初日は過ぎていく。


 早朝5時頃、いつもの習慣で目が覚める。

 昨日の事は実は夢で、眼が覚めればいつもの朝が来るのではないかと淡い期待を少ししていたがやはり現実らしい。


「異世界に転生しても、朝練をするための早起きの習慣は抜けないんだ……」


 隣で寝ているアリシアを起こさないように、気をつけながら身支度を済ませると外に出て朝練を始める。


 ストレッチを済ませ、宿屋の周りを走っているとユーウェインとミゲルが宿から出てきた。


「おはようございます」


 紫音が挨拶をすると2人も挨拶を返してくる。


「早いな、シオン君」

「はい、少しでも訓練して、早く戦えるようになりたいんです」


 ユーウェインの質問に紫音はそう答えた。


「そうか、私達は軽く流すだけにしておくよ。やりすぎて警護に支障をきたすといけないからね」


 紫音がジョギングを終わらせた頃には、2人は居なくなっていた。

 その代わりに入れ替わるようにレイチェルが宿から出てきており、どうやら交代でアリシアの警護をしているようだ。


「おはようございます」


 紫音が挨拶すると、彼女も挨拶を返してくれた。そして―


「ところでシオン君、昨晩はアリシア様とは……」

「もちろん、何も有りませんでしたよ」


 彼女がそう答えると、心做しか残念そうにしているレイチェルを横目に素振りを始める。

 紫音が朝練を終え部屋に戻ってきた時、アリシアはすでに起きていた。


「おはよう、アリシア」

「おはようございます、シオン様」


 アリシアは挨拶を返すと、朝練を行っていた事についてこのようなことを尋ねてくる。


「レイチェルから聞きました、朝練をなさっていたそうですね。何故わたくしも誘ってくれなかったのですか?」



「気持ちよさそうに眠っていたし、アリシアが朝練に誘って欲しいなんて、思わなかったから……」


 その問いに紫音はこう答える。紫音の持つお姫様像には、朝練をするという発想がなかったからだ。


「昨日もいいましたが、わたくしは冒険者育成高等学校に通っています。だから朝練だって当然しています。今日は昨日なかなか寝付けなくて寝坊してしまいましたが……」


 中々寝付けなかった理由は察してあげてください。


「じゃあ、明日から誘うことにするね」

「はい!」


 紫音の言葉にアリシアは嬉しそうに返事をする。

 二日目は特に何もなくアリシア達と話している間に、次の町アーウィンについた。


 この夜もアリシアに一緒に寝ようと言われたが、丁重にお断りをして早い時間に就寝することにする。明日も朝練で早いからだ。


 三日目の早朝、紫音は昨日の約束でアリシアを朝練のため起こそうとする。


「あと五分、あと五分寝かせてくださいシオン様……ZZZ」


 だが、布団を頭から被った彼女からは、このようなお約束の言葉が返ってきた。


(こういう事言う人は、絶対に起きないないよね…)


 なので、紫音はそう思い一人で朝練に向かった。


 朝練から帰るとアリシアが、紫音に近づいてきて


「明日こそ、明日こそちゃんと起きます!」


 と言ってきたが、これは明日も起きないなと紫音は予想する。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る