06.5話 冒険者の街への道のり(2)





 レイチェルは紫音を疑っていたが、彼女を監視(?)しているうちに、悪い者では無いような気がしてきて、眼の前で美少女二人が両手を握っている姿を見てこのように考える。


(よし、これからはこのキマシタワーを思う存分楽しむとしよう!)


 彼女は百合好きであった……

 紫音は、レイチェルのその生暖かい視線に気付くと恥ずかしくなってきて、アリシアの手を優しく解くと先程のユーウェインの誘いにこう答える。


「アリシア様とパーティーを組むかどうかは、今はわかりません。私自身、暫くは冒険者として、こつこつとやっていこうと思っています。なので、折角のお誘いですがお断りさせていただきます」



「振られたな……だが、身持ちの固い女性は嫌いではない。また口説かせてもらうとするよ」


 その紫音の返事を聞いたユーウェインは、そう少しキザに言葉を返す。

 これが嫌味に感じないのは、彼の人徳によるものかもしれない。


 紫音は間接的にアリシアの誘いも断ったことに、彼女を傷つけてしまったのではないかと思って、彼女の顔を恐る恐る見ると特に残念そうな顔はしていなかった。

 

(よかった、それほど本気ではなかったようだね)


 そう紫音が思っていると、満面の笑顔でアリシアが、このような事を言ってくる。


「わたくしは今、冒険者育成高等学校に通っています。そこを卒業するまでは、シオン様とはパーティーが組めません。だから、<い・ま・は>組めないというシオン様のプランは好都合です。あくまで、<い・ま・は>ですが」


 最後何か彼女の眼に闇が見えたような気がした……

 

(アリシア様すごく可愛らしい人だけどなんか、コワイ……)


 小動物的危険察知能力でそう感じ取った紫音は、今すぐ話題を変えようと疑問に思っていたことをこの際に聞いてみることにする。


「すみません。すごく初歩的な質問なのですけど、そもそも冒険者ってどうやってなるものなのですか? さっきアリシア様が言っていた冒険者育成高等学校というところに入るのですか?」


 すると、未来のパートナー(仮)のアリシアが、紫音にこの世界で冒険者になる説明をしてくれた。


 冒険者育成高等学校に入るのは一つの方法であり、最も簡単な方法は国が運営している冒険者育成教習所に入り二ヶ月最低限の教習を受けること

 そこで、冒険者ライセンスを得ることができるが、ランクは最低のHである。


 次に冒険者育成学校で、ここでは二年間しっかりと戦闘技術を学ぶ。

 卒業時のランクはFである。


 その次が冒険者育成高等学校で、さらに二年間みっちりと戦闘技術学ぶ。

 卒業時のランクはE、騎士や大手【クラン】に誘いを受けたければ、ここを卒業しなければ難しい。


「なお、冒険者育成教習所以外は入るのに条件があり、開校も4月からとなっています。今は、11月なのであと4ヶ月ですね」


 アリシアの説明を聞いた紫音は、「何か学校みたいだなあ」という感想を抱く。

 あと初めて聞く単語も出てきた。

 冒険者ランク・ライセンスは聞いたそのままのモノだろう。


「あのー【クラン】って何ですか?」


「【クラン】は同じ思想や目的を持った冒険者たちが集まって作るものです。大抵の冒険者はどこかの【クラン】に入って助け合って、報酬の高い難しい依頼をこなします。もちろん、自分で立ち上げることもできます」


 アリシアは冒険者について、一通り説明をすると紫音にこのように提案してくる。


「冒険者を目指すなら、わたくしたちと一緒に冒険者の街アルトンに行きましょう。そこには先程説明した施設が全て揃っていますから」


(確かにそこなら、最初の拠点とするには便利かもしれない)


「はい、ご迷惑でなければお願いします」

「迷惑なんてとんでもない、これからあと三日一緒ですね」


 アリシアは嬉しさのあまり、故意か無意識かは分からないが今度は紫音に抱きついた。


(フタタビ、キマシタワー!!)


 目の前で美少女二人が、イチャイチャする姿を見て心の中で悶絶するレイチェル。


 ※百合好きの歪んだ視点から見れば、イチャイチャしているように見えるが、実際には強引に抱きついてくるアリシアを紫音が必死に引き離そうとしています。


 しばらくすると、馬車の外からユーウェインが報告をしてくる。


「アリシア様、グリース村に着きました。宿へ向かいます」


 宿につき馬車から降りた紫音は、【魔石電気】の恩恵を受けることになる。

 村は夜だと言うのに、街灯と民家の明かりで明かりには困らなかった。

 

「これなら、私の元の世界に住んでいた所のほうが暗いかも……」


 ただ、家屋は古い時代のヨーロッパの家なので、明るく光る近代的な街灯との風景に少し違和感を抱いてしまう。


 聞いたところによると、【魔石電気】とは厳密に言えば電気ではなく魔法力のようで、それが色々な属性の【魔法スクロール】の取り付けられた魔道具に送られて、家電のように扱えるらしい。


 例えば、街灯なら光属性のスクロール、コンロなら火のスクロールなどである。

 ただし、家電のような細かい調整機能はもちろん無いため、スクロールの威力の方で調整する仕組みのようだ。


 家電に比べれば使い勝手は悪いが、それでもこの世界の人々の生活はかなり楽になっている。


 魔力の高い魔道士なら、魔石電気なしでも魔力の続く限りなら使えるらしいが、ほとんどの人は使用料金を支払って、魔石電気を使用するらしい。


 二百年以上人々に魔物と戦わせ、一方では魔石電気で生活を楽にするフェミニース様は優しいのか、厳しいのか分からない女神様だと紫音は思った。


 宿屋に入った紫音は自分の部屋を押さえるため、受付に向かおうとするとアリシアに引き止められる。


「わたくしの部屋は広くてベッドが二つあるので、一緒に泊まればシオン様の宿代が節約できます」


 彼女は紫音をそう言って、相部屋に誘ってきた。


(それは流石に、レイチェルさんが許さないだろう…。いや、むしろ反対して欲しい! 反対してください! さあ、レイチェルさん!!!)


 そう思って、紫音が期待の目でレイチェルの方を見る。

 だが、百合厨女騎士から帰ってきた返事は……


「今夜は夜更けまで、パジャマパーティーですね!」


 期待を裏切る思いも寄らない言葉であった。

 紫音の中で、レイチェルの印象が残念美人さんになる。


(あと、私の憧れを返せ)


 美少女二人のパジャマパーティーを妄想する百合厨残念美人を見ながら、紫音は心の中でそう突っ込んだ。

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