08話 冒険者の街 アルトン到着



 アルトンの街に向かう馬車の中で、紫音は二人に今更ながらの質問をおこなう。


「最終日に聞くことでも無いかもしれないけど、何故【冒険者】って職名なんですか?」


 流石の2人もこの質問にはキョトンとした顔になった。


 だが、その質問の意図にいち早く気づいたできる女騎士にて、百合厨のアリシアの護衛役レイチェルが説明を始める。


「何故【冒険者】という職名になったかと言うと、君の考える通り冒険者の仕事には騎士や傭兵、ハンター、警護兵なども含まれそれを専門にしている者もいる。そしてそれは、とても危険な仕事だ」


 そこまでの説明で、紫音が何を聞きたいのか理解したアリシアが、紫音への説明役はわたくしと言わんばかりに割って入り説明を開始した。


「昔はもちろんそれぞれの職名がついていて独立した職でした。ですが騎士はともかく、傭兵やハンターはなんか殺伐とした名前でイメージ悪いじゃないですか? それでは子供が憧れません。そこでセシリア様が騎士以外を、【冒険者】という名称に統合したのです。【冒険者】って何か夢がありそうな前向きなイメージがあっていいじゃないですか?」


(それって、印象操作じゃないのかな…)


 紫音は大人の世界の闇を見た気がした…


「お陰で、冒険者になりたい人が増えたと聞きます。ただし、強さの指標の一つである冒険者ランクは、混乱しないように騎士も使っています」


 アリシアは尊敬するセシリアの偉業(?)を、誇らしげに語る。


「アリシア様、シオン君、冒険者の街アルトンが見えてきたぞ」


 そうしているうちに、馬車の外からユーウェインの声が聞こえてきた。


 馬車から外を見ると、今まで通ってきた町とは比べ物にならないほどの大きな街が見えてくる。重要拠点らしく、街の周りにはいくつもの石造りの見張り塔が見える。


「あれがこの世界で二番目に大きい街、【冒険者の街 アルトン】です。三年前の魔王との決戦で減少した戦力を、増強するために国を挙げて冒険者・騎士の育成拠点として整備し直された街です。ちなみにそれを纏める今の領主が、元王宮魔道士長のミレーヌ=ウルスクラフト様です」


(あのメテオを使ったという凄い魔法使い様が領主様なんだ。でも、そんな偉い人と会うことないから、関係ないかな)


 この時の紫音はこのように思ったが、後に出会うことになることは言うまでもない。

 街の中に入ると流石は二番目に大きな街だけあって、人々も建物もとても多く活気に満ちていた。


(私が元の世界で住んでいたところよりも、確実に人も建物も多い…。私の住んでいたところって、凄い田舎だったのん…)


 紫音は少しショックを受けてしまう。

 大通りを進むと、一軒の宿屋の前で馬車は止まった。


 すると、ユーウェインが馬車に近づいてきて、こう申し出てくれる。


「シオン君、宿の宛はないのだろう? ここは私の馴染みがやっている信頼できる宿だ。よければ、口を利いてもいいが?」


 紫音に断る理由はないので、お願いすることにした。


「ぜひ、お願いします!」


 紫音がそう答えると、ユーウェインは宿に入っていく。


「シオン様、ここでしばらくのお別れですね」


 アリシアは悲しそうな顔して紫音にそう言ってくる。


「少し落ち着いて、栞を手に入れたら連絡するから。それに会おうとおもえば同じ街にいるし、いつでも会えるよ」


「はい、そうですね…」


 紫音はつい二人の時と同じように敬語を使わなかった事に気がついて、レイチェルの方を見たが彼女は黙認して何も言わず外を見ていてくれた。


「じゃあ、アリシア……元気でね、またね」

「はい、シオン様もお元気で……」


「レイチェルさんもお世話になりました、お元気で」

「ああ、君も元気で」


 紫音は二人に頭を下げると馬車から降りると、御者台に座るミゲルにも感謝の言葉を伝える。


「ミゲルさんも、大変お世話になりました。お元気で」

「ああ、君もな。立派な冒険者になれよ」


 紫音はミゲルに頭を下げると、丁度ユーウェインが宿から返ってきた。


「君のことは主人に頼んでおいた。定住できる所が見つかるまで安心して泊まるといい。あと、まずは【冒険者組合】に行くといい。色々教えてくれるだろう」


「何から何までありがとうございます。カムラードさん、色々お世話になりました。お元気で」


 そう言って頭を下げようとすると、ユーウェインが握手のための手を差し出してきた。


「君も元気で。それと私のことはユーウェインでいい」


 握手をしながら、ユーウェインはそう言ってくれる。

 そして、馬車がアリシアを冒険者育成高等学校に送るため発車した。



 紫音は馬車が見えなくなるまで手を振り続けた、アリシアも最後まで後ろの窓から手を降り続けてくれる。


 しだいに湧き上がってくる寂しい気持ちに活を入れるため、紫音は両頬を叩いてから宿屋に入ることにした。宿屋のカウンターに近づくと、店主が紫音に話しかけてくる。


「君が、ユーウェインさんが言っていたシオン君だね。話は聞いている、格安で泊まらせてあげるから安心して何日でもいるといい。まあ、一流ホテルの様なサービスはできないがね」


 宿屋の主人は人の良さそうな人物で、紫音は安心して宿泊することができそうだと思った。


「しばらく、お世話になります」


「しかし、話に聞いたとおり近くで見ると可愛らしい娘さんだが、遠くで見るとたしかに男の子みたいだな」


(あの人最後に何を言ってるの!? 誰が男の子だよ! どう見たって、女の子でしょうが! あっ、でもこの服装じゃあ、男の子に間違えられても仕方がないか…。男の子みたいだもんね…。きっと、服装のせいだよ! 服装のせいだよ…)


 紫音は自分にそう言って聞かせる。

 そして、彼女は恩義に反するが、ユーウェインの事が少し嫌いになった。



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