313話 <ピストル(ビストロ) Oh リズ Me>開店! ~ソフィーちゃん、酷い目にあう!~




 前回までのあらすじ


 みんなで力を合わせて、リザードの王を追い込み颯爽と氷上を駆ける紫音様が見事に蒼覇翔烈波で止めを刺す!


 見守っていた冒険者からは、歓声が上がり拍手喝采のスタンディングオベーション!

 素敵です、紫音様!


 報告者 アリシア・アースライト



 #####



「というわけ、今夜のエレナさんの夕食を食べた後に、リズちゃんが一品作ってくれる事になったんだよ」


 アキの説明を受けた紫音は、リズに確認してみる。


「リズちゃんが、ご飯を作ってくれるの?」

「そうッス! 楽しみにしていて欲しいッス!」


 すると、リズは目を輝かせて、紫音にそう答えた。


「というわけで、紫音さん。そこの川で魚を採ってきてくださいッス。それをライスと一緒に炊き混むっス!」


「リズちゃん、お魚捌けるの?」


「いえ、生の魚なんて触ったことのないッス! でも、何事も挑戦ッス! だから、ライスにそのまま放り込むッス!」


「リズちゃん… それは、料理とは言えない気がするよ」

「はぅ!? そうッスか!?」


 リズは紫音の指摘を受けて、他の者達の反応を見ると、みんな首を縦に振って紫音の意見に同意する。


「うぅ… だったら、仕方がないッス! また、スープを作るッス! 昨晩のリベンジッス!」


 意気揚々とスープを作ることを宣言するリズ。


「では、今晩のメニューからスープは外しておきますね」


 エレナはそう言うと晩御飯の準備を始める。


 そして、エレナの晩御飯を食べ終わった頃、辺りはすっかり暗くなっており、いつもならキャンプファイアーを見ながら、食後のまったりとした時間になるはずなのだが今夜は違う。


「<ピストル Oh リズ Me>開店!」


 アキがそう高らかに宣言すると


「それを言うなら、ビストロだよね!?」


 紫音のツッコミが早速入る。


「もちろん、撃ち抜くのはみんなのハートだけどね」


 だが、アキは無視して指で拳銃の形を作りながら、そのようなことを言い出す。


「そもそも、ピストルにビストロって何よ! また、二人だけで通じる単語を使って、会話しないでよ!」


 この世界にはピストルなど無く、ビストロ形式はあるが名称が違うため、ソフィーには二人が何を言っているのか解らずに、まずそこにツッコミを入れる。


「お邪魔していいかしら?」


 そんな所に、妹が料理をすると話を聞いたリディアが心配で、様子を見にやってくる。


「はい、もちろんです」


 紫音がそう答えると、リディアはアリシアに一礼してから、勧められたレイチェルの隣の席に座った。


「何かこんなに大勢で見られるのは、緊張するッス」


 リズはそう言いながら、スープ作りを開始するが料理初心者特有の危ない手付きで、調理しているため、それを心配そうに見守る紫音、リディア、エレナ、ミリアは気が気でない。


「ああ、リズ! 食材を切る時は猫の手よ!」


 リディアは、料理をする妹の危なかっしい手付きをオロオロしながら見守っていたが、思わず声をかけてしまう。


 人参一つ皮を剥くのに、慣れない包丁捌きで既に10分経過している。


「もう、お姉さん心配で見ていられないよ!」


 この緊迫した空気に耐えきれなくなったメンタル豆腐の紫音は、そう言って料理するリズに近づいていく。


「リズちゃん。私がスープの作り方を教えてあげるから、一緒につくろう」


 そして、リズの横に立つと彼女に、助力を申しでる。


「先輩!?」

「しっ 紫音ちゃん!? 何を言っているの?」


 ソフィーとアキは、紫音のこの突然の行動に驚きを隠せずに、思わず声にだしてしまう。


 何故なら、二人は紫音がいつも可愛がっているリズの不味い料理を食べた時の反応が見たくて、このような不毛なイベントを企画したため、その根底を覆す紫音の言葉に驚くのも無理はなかった。


「でも、紫音さん。私が一人で作らないと意味が無いッス…」

「どうして、意味がないの?」


「えっ!? だって、昨日美味しくないって言われたのを見返すために、作っているッス。だから、私が一人で作らないと意味が無いッス!」


「だから、私は横で調理方法を教えるだけだよ。実際の調理は、リズちゃんがするんだよ」

「でも、それは紫音さんの力を借りたことになって…」


「そうだよ、紫音ちゃん。リズちゃん一人で作らないと意味がないよ」

「そっ そうよ、先輩」 


 企画を邪魔されたくないアキは、すぐにリズの意見を肯定して、ソフィーも釣られて賛同してみる。


「どうして、アキちゃん? 初心者のリズちゃんが一人で闇雲に作っても、美味しくないモノができるだけだし、成長もあまりできないよ?」


「そっ それは… 」


 紫音に珍しく正論を語られたアキは、一瞬戸惑って言葉が出なくなり、リズに負い目を感じていたソフィーは困った顔で黙ってしまう。


「それとも、アキちゃんとソフィーちゃんは、リズちゃんに美味しくない料理を作らせたいの!?」


「!!?」


 二人は紫音に図星を突かれ、思わず黙ってしまいそれが答えと周囲は受け取る。


「お二人共、また私にまずい料理を作らせて、バカにするつもりだったんッスか!」

「意地悪なアキちゃんはともかく、ソフィーちゃんまでそんな事を考えていたの?!」


 リズと紫音は、アキとソフィーを避難した。


「わっ 私はアキさんの先輩がジト目のまずい料理を食べてどんな反応をするかというのに、興味を持っただけで… 別にジト目をバカにするつもりは…」


 根は良い子のソフィーは、二人からの責めに耐えきれずに目的を暴露してしまう。


「ソフィーちゃん!?」


 アキは早々に口を割ったソフィーを責めようとするが


「やっぱり、アキちゃんが悪いんじゃない!」


 逆に紫音に責められてしまう。


「ソフィー、アナタ… そんな事を… 」


 そう言葉を発したのは、今日の戦いを労いにたまたまやって来たクリスであった。

 彼女は失望した目でソフィーを見ながら、大きくため息をつくと無言で立ち去っていく。


「いやーーーー!!! お姉さま! 違うんです! これは… 魔が差してしまっただけなんです! だから、そんな目で私を見ないでーーー!」


 ソフィーは、自分の高感度が爆下がりしてしまったクリスを半泣きで追いかけていく。

 自業自得とは言え、その姿に少し同情してしまう紫音とリズであった。

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