304話 親の意地(成敗編)





「流刑地で我らが訴えれば、必ず陛下まで届くぞ! そうすれば、こんな横暴、あの名君であるルーク様が許すわけがない! 」


 ゴードンは、檻の中からそう叫ぶ。


「フン、名門貴族で領主であるワシとお前達のような下賤の者達の言い分、どちらを信じるかは考えるまでもないであろう。それに、そのような訴えこのハーヴェイの上司が金で何とかして、陛下に届く前にもみ消されるわ!」


「それも、そうですな」


「「わはははははっ」」


 しかし、檻の中で怒りに震えるエレナの父達を見ながら高笑いをするという、解り易い悪役ムーブをおこないヘイトを稼ぐ二人。


 だが、その時――!


「果たして、そう上手くいかな?」


 その笑いを切り裂くように庭に声が響き渡る!


「誰だ!?」


 二人はその声が聞こえてきた方を見ると、例の好青年剣士、貧乏貴族の三男坊ルーカス・アシュフィールドがこちらに向かって歩いて来た。


「貴様! 何者だ!」

「俺か? 俺は天下の風来坊 ルーカス・アシュフィールドだ」


 バトラーが威圧しながら、そう問い質すとルーカスは名乗りをあげる。


「ルーさん!」


 エレナの父達は、単身突如現れたルーカスを見て、驚きと共に希望を感じる。


「おのれ! ここを誰の屋敷と知って入ってきた!」


 まあ悪党の屋敷とはいえ、確かに不法侵入ではあるが、ルーカスの次の一言でそんな事は吹き飛んでしまう。


「黙れ、バトラー! 欲に目が眩み余の顔を見忘れたか!」

「余だとぉ…?」


 そう言われたバトラーは、律儀にルーカスの顔をよく見ると一人の人物の顔と重なり、驚愕と共にすぐさまその場にこう言いながら跪いた。


「ルっ… ルーク陛下!!! ははっ!!」


 そして、それを見たハーヴェイもそれに続いてすぐに跪き、エレナの父達も檻の中で跪く。


 <貧乏 三男坊>というワードで、察していた方もいると思われるが、彼こそこの国の現国王であり、アリシアの兄であるルーク・アースライトであった。


 ルークは跪く悪党二人が犯したその悪事を語り始める。


「商工ギルド支部長ハーヴェイ。そのほう冒険者達の為にゴードン・ウェンライト達が送った薬品を、配下の冒険者達を使って強奪したばかりでなく、その者達を使って薬品を製造し続けるゴードン達の邪魔をした事、既に明白である」


「なっ 何のことやら……?」


 ハーヴェイが白を切ると、どこからともなく密偵が現れ、ルークに2つの薬品を手渡し、ルークはそれを悪党その1に見せながら言い逃れできないように追い詰める。


「これは先程貴様の屋敷から、見つかった強奪した薬品、そして、こっちは禁制の薬品だ。これでもまだ白を切るつもりか!」


 ルークが手に持つ薬品には、エレナの父が作った証の製造シールが張られており、禁制の薬品もまったく同じものであった。


 彼は部下の密偵に命じて、先程ハーヴェイの屋敷を捜査させており、熱りが冷めてから売り捌こうとしていた<強奪した薬品>と、同じく後で売ろうと多めに仕入れていた<禁制の薬品>を既に押収させていたのだ。


 因みにヨハンセン伯爵とその兵士達は、商工ギルド支部とハーヴェイの屋敷、そしてこの屋敷を既に取り囲んでいる。


「ぐぬぬぬ…」


 決定的な証拠をルークに抑えられたハーヴェイは、ぐうの音も出ず地面を見つめている。

 そして、次にルークはバトラーの悪事を糾弾していく。


「バトラー。貴様は領主でありながら私腹を肥やさんがために、そこにいるハーヴェイに多額の賄賂を受け、その見返りに邪魔をする冒険者達を倒して欲しいとのウェンライトの訴えを無視したばかりか、あまつさえなんの罪もない彼らにこの禁制の薬品を使用して、無実の罪をなすりつけ、捕えて処罰しようとは何事だ! このルーク断じて許さんっ! 貴様も名門貴族なら、潔く己が身を処すがいい!!」


 全ての悪事を暴露され、自身の破滅を悟ったバトラーは、ゆっくりと立ち上がると屋敷中に向かってこう言い放つ。


「おのれ… 最早これまで… 皆の者、出合えぃ! 出合えぃーー!」


 バトラーの叫びと共に、部下の兵士達とハーヴェイの配下の冒険者達が、屋敷中から武器を持って現れルークと密偵を包囲する。


「こやつは、ルーク陛下の名を語る不届き者であるっ! 斬れ! 斬り捨てぃー!」


 そして、バトラーの号令を聞くと、一斉に武器を構え戦闘態勢を取った。


 ルークは周囲を見渡しその鋭い眼光で威嚇してから、腰に差した彼専用の女神武器『ランページキング』を鞘から引き抜き八相で構える。


 そして、例の言葉を唱えてオーラを武器に込め、女神武器の特殊能力を発動させた。


「女神の祝福を我に与え給え!」


 鍔の奥にある女神の宝玉が輝き、特殊能力を発動させるとルークは峰を返す。

 すると、突然辺りに例の処刑BGMが響き渡る。


 <デーンデーンデーン>


「なっ なんだ!? この音楽は!?」


 兵士や冒険者、悪党二人にゴードン達も突然のBGMに驚いていると、


「でやぁぁぁ!!」


 一人の血気盛んな兵士が、BGMを物ともせずに武器を振り上げて、ルークに斬りかかるがそれは蛮勇であり無謀であった。


 ルークは兵士が剣を振り下ろす前に、その剣を持つ篭手に強力な一撃を加え武器を落とさせると、その隙だらけの体に胴斬りを峰打ちで叩き込み一人目を軽々と撃破する。


 それを皮切りに、兵士や冒険者達が次々にルークに襲いかかってきた。


 背後から武器を振り下ろす者に対して、ルークはその振り下ろされる剣の側面に峰を見事に打ち付け、斬撃を横に逸らすと空いている頭部に峰打ちを叩き込み二人目も難なく打ち倒す。


『ランページキング』の特殊能力は、BGMを聞くルークに敵意を持つ全ての者達に身体能力低下を与え、本人には身体能力強化を与える。


 しかも、その峰打ちの破壊力は、防具貫通というオマケ付きである。


 そのため、スキルランクAAのルークと敵との戦闘力の差は更に開き、防具無視の強力な峰打ちが一撃の元に悪党どもを成敗していく。


 ルークに挑む兵士や冒険者達は、まるで事前に打ち合わせをした殺陣のように、次々と打ち倒されて地面に倒れていき、バトラーとハーヴェイはただ黙って、その光景を見守るしかなかった。


 もちろん、密偵も強く向かってくる者達を、その刀で返り討ちにしている。


 ルークと密偵が戦っている間に、女性の密偵が現れ囚われているエレナの父達を、檻から解放して周囲にいるヨハンセン伯爵の兵士の所まで連れて行くと、戻ってきて戦闘に加わり敵を倒していく。


 三人によって、遂に残るはバトラーとハーヴェイのみとなり、バトラーは剣を抜くとダメ元でルークに襲いかかるが、適う訳もなくルークに最初の兵士のように剣を振り下ろす前に、篭手を打たれて武器を落とすと袈裟に峰打ちを打ち込まれる。


「成敗!!」


 ルークの命令を受けた密偵二人は、主人の袈裟斬りを受けてふらつくバトラーと逃亡を図るハーヴェイに刃を振って成敗した。


 ルークが『ランページキング』を鞘に収めるとBGMが止まり、密偵二人は武器を収めて彼に跪く。



 そこに片がついた頃合いを見計らったヨハンセン伯爵が、ゴードン達を連れてやってくるとゴードンと従業員達はすぐさま跪いて、今までの非礼を謝罪する。


「ルーさ― いや、ルーク陛下! 知らない事とはいえ、とんだご無礼を― 」


 ゴードンがそこまで言うと、ルークは彼らに近づいて、爽やかな笑顔と共にこう言ってくきた。


「親方、それにみんな、よしてください。私は貧乏貴族の三男坊 ルーカス・アシュフィールドですよ」


「ルーさん…」


 ここにきて、一同は何故自分達がこの青年を信頼していたのかを悟る。


 この後、ヨハンセン伯爵の兵士達が屋敷にやってきて、悪党どもを一人残らず捕縛して連れて行く。


 バトラーは領地と財産没収、更に貴族の身分を剥奪された後に遠島に流罪。

 ハーヴェイも財産没収の後に、雇っていた冒険者達と禁制薬品を仕込んだ兵士と共に遠島に流罪となった。


 他の兵士達は知らなかったとはいえ、悪事に加担したので減俸処分とされる。


 バトラーの領地は、新たな領主が決まるまでヨハンセン伯爵が管理することになり、もちろん今後の妨害を見越して彼の兵士が村を護衛することは言うまでもない。


 ゴードン達とこの村の平和を願う若いルークであった。

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