279話 爽やか好青年登場!
前回のあらすじ
アキ一行は”シェフ・オオリズミ”によって、昼食で味方から思わぬ攻撃を受けてしまい戦う前からダメージを受けてしまう。
因みに食べきれなかったパスタは、アフラが後で美味しくいただきました。
########
アキ達がリズにお見舞いされていた頃―
朝から紫音と模擬戦をしていたアリシアは、ようやく紫音のスピードに慣れてきて、その攻撃を3回に1回盾で防げるようになってきた。
「ようやくシオン様のスピードに慣れてきました」
「ふっ… 甘いね、アリシア。いつから― 今の私のスピードが100%だと勘違いしていた?」
「なん… ですって…」
二人がそんな馬鹿なやり取りをしていた頃―
エレナの父ゴードン・ウェンライトは、昔冒険者だった頃の装備を倉庫から取り出すと、それを身につけはじめる。
その理由はもちろん薬草を採りに行って、覆面の男達に襲われた時に戦うためであった。
だが、昔とった杵柄とはいえゴードンのランクはDであり、更にブランクも10年以上あり、返り討ちにあうのは火を見るより明らかである。
そのためエレナの母や従業員に反対されるが、彼の決意は固く止めることはできなかった。
そこで、従業員の中から「社長だけで行かせません!」となって、昔冒険者をしていた者達が、久しぶりに装備を身に着けて共に薬草を採りに行くことになる。
とはいえ、このような者達で現役の凄腕冒険者である覆面の男達とまともに戦える訳もない。
薬草の生えている山で再び襲われた彼らは、武器を振り回して何とか抵抗するが、次第に一箇所に追い詰められ、周りをぐるりと囲まれ逃げ場を失ってしまう。
そして、覆面の男の一人が、頭の上で構えた剣を傷だらけのゴードンに振り下ろす!
だが、その時、剣を振り下ろそうとした腕にどこからか飛んできた小さな投げナイフが刺さり、ゴードンへの攻撃は中断される。
「だれだ!?」
覆面の男は、腕に刺さった小さなナイフを抜き、地面に捨てるとナイフが飛んできた方向を見ると、そこには若い剣士がこちらに駆け寄ってくる姿が見えた。
覆面の男達は近寄ってくる若い剣士に武器を向けると、近くまで来た若い剣士も片刃の剣を抜いて峰を返すとゆっくりと間合いを詰め始める。
右手に剣を持って、間合いをジリジリと詰めてくる若い剣士には隙がなく、ブランクのあるゴードンですらその姿を見るだけで、只者ではないことがわかった。
覆面の男達は、その若い剣士から放たれる強者のオーラの圧を受けて、強い緊張感に包まれその圧迫感に耐え切れなくなった覆面の男の一人は、若い剣士が間合いに入る前に自ら突進して剣で斬りかかろうとする。だが、あっさり回避されて隙のできた背中に峰打ちを打ち込まれる。
「ぐほっ」
背中に強打を浴びせられた男は、息苦しそうにそう呟くとその場に倒れ込む。
それを合図に覆面の男達は、次々と若い剣士に斬りかかるが、若い剣士は巧みに斬撃を回避し、片刃の剣で受け流す。
そして、その事により体勢を崩した男達に、逆に次々と強力な峰打ちを打ち込んでいく。
その状況を一歩引いた所で見ていた覆面のリーダー格の男は、「退けい! 退けい!」と言って撤退命令を出す。その命令を聞いた覆面の男達は、倒れた仲間を担ぐと素早く森の中に姿を消した。
若い剣士は剣を鞘に収めるとゴードンに近づき、「大丈夫ですか?」と声を掛けてくる。
「助けて頂いて、ありがとうございます」
ゴードンが若い剣士に感謝の言葉を述べると、
「礼にはおよびません。私は貴方が危険を冒してまで、冒険者のために薬品を作っていると聞いて、その男気に胸を打たれて何か手助けできればと思いこの村にきたのです」
彼は爽やかな笑顔でそう答えた。
その爽やかな笑顔は鼻につくこと無く、見る者に彼が信頼できる好青年であると思わせる、何か不思議な魅力を感じさせる。
ゴードンも彼を何故か信頼してしまい、お礼も兼ねて工房に招き入れることにした。
彼は初対面のこの青年を、何故これほど信用しているのかと考えあることを思い出す。
(そうだ… この感覚… シオンさんに初めて会った時と同じ感覚だ)
娘のエレナに紫音を初めて紹介された時も、ゴードンは娘のPTメンバーとはいえ何故か無条件で信頼してしまった事を思い出す。
そして、その紫音はオークで困っていた自分達のために、危険を顧みず傷だらけになってオークを退治してくれた。
なら、同じ印象を持った彼も信頼できると結論づけて、彼を工房まで連れて行き今までの事を青年に話すことにする。
「なるほど… 商工ギルドが売上のために、そのような嫌がらせを… 更に領主が何も手を打たないということですか…」
「そうです。そこで我々だけで、あの覆面の男達と戦おうとしたのですが、この有様で…」
「では、これからは私が、薬草採りの護衛を引き受けましょう」
ゴードン達から話を聞いた青年は、薬草採取の護衛を買って出る。
「おお、それは心強い。是非お願いします!」
ゴードン達は護衛を買って出てくれた青年に、感謝を述べた後に自己紹介がまだだった事に気付いて自己紹介を始めた。
「私はゴードン・ウェンライト。この薬品工房の責任者です」
「私は貧乏貴族の三男坊で冒険者をやっている、ルーカス・アシュフィールドと申します」
ゴードンの後に自己紹介をしたルーカスはきれいな金髪で、その整った顔立ちは爽やかな笑顔が似合う好青年で、腰には鍔に宝玉がはめ込まれた珍しいデザインの片刃の剣を帯びている。
「それでは、アシュフィールドさん。もう一度薬草を摘みに行きたいので、早速護衛を頼みたいのですが」
「わかりました。それでは、参りましょう」
怪我の治療が終わったゴードンの依頼を、ルーカスは二つ返事で答えると再び先程の薬草の生えている山にみんなと一緒に向かう。
薬草の採取中、ルーカスは森の中からこちらの様子を窺う気配を感じたが、覆面の男達は彼がいるため仕掛けてくることはなかった。
こうして、夕方まで薬草を採取したゴードン達は、薬品の製造を再開することになった。
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