278話 思わぬ出来事
次の日の早朝 ミレーヌの屋敷―
「ミー、どうッスか?」
「ホーー」
「レーダーに怪しい人の反応は、ないそうッス」
今回の作戦は極秘であるために、リズは屋敷を見張っている人物がいないかミーに周囲をレーダー索敵させて、誰もいないことを確認する。
「みんな気をつけてね」
紫音が出発する一同に声を掛けると、
「ミリアちゃんも気をつけるんだよ。他の者達もな」
続けてミレーヌも声をかけるが、他の者達への熱量は明らかに低い。
因みに相変わらず朝に弱いアリシアは起きてこなかった。
こうして、アキ、リズ、ミリア、ソフィー、エレナは一日早く本拠点に向って出発する。
一同が一応周囲を警戒しながら、街の外まで来るとそこには今回の旅の物資を乗せた馬車に乗るノエミとアフラが待っていた。
「私も要塞に最後の打ち合わせで呼ばれているので、これから向かいます。シオン君、ミレーヌ様、アリシア様の事お願いします。では、シオン君、明日要塞で会おう」
一同を見送ったレイチェルは、紫音とミレーヌにアリシアの護衛を託すと、要塞に向かって馬を走らせる。
その頃、同時刻パロム村では、ゴードン(エレナの父)の薬品工房で働く数名が、朝早くから近くの山に材料の薬草を採りに来ていた。
彼らが薬草を摘んでいると、恐らく前日に薬品の輸送隊を襲った覆面の集団が突如現れ、彼らを次々と襲い始める。
襲撃した一団は痛めつけるのが目的のようで、従業員達は傷だらけではあるが山から何とか逃げ帰ることができた。
だが、従業員達はほうぼうの体で逃げ出してきたので、肝心の薬草を置いてきてしまい材料が無いために工房では薬品の生産が止まってしまう。
ゴードンが山に様子を見に行くと、覆面を付けた集団は交代で薬草の各群生地を見張っており、薬草を得るには彼らを倒すしか方法はないと思われる。
そこで従業員はこの辺りを任されている領主に、山にいる賊を退治してもらおうと提案するが、
「前回オークが現れた時も、何も対処してくれなかった領主が、果たして対応してくれるかどうか…」
と、ゴードンは考える。
だが、領主の反応はゴードンの考えよりも、もっと酷く「今は忙しいから、帰れ!」と、会うことすらせずに門前で部下にそう伝えさせただけであった。
こうして、ゴードンは頼みの綱も切れ果て、肩を落として工房への帰路につく。
それを、領主の屋敷の窓から、そっとほくそ笑みながら見ている男がいた。
そう、商工ギルドの支部長であるハーヴェイである。
領主バトラーとハーヴェイ、厳密には商工ギルドの長マクナマラは繋がっており、ゴードンからの訴えを黙認し、更に彼が目障りになった時は何か罪をでっち上げて捕まえる算段になっている。もちろん領主への高額な賄賂によって。
「バトラー様。ありがとうございます。マクナマラ様も大変喜ぶことでしょう」
「うむ。マクナマラ殿には、(金銭で)世話になっているからな」
二人が屋敷で高笑いをしていることも知らず、ゴードンはこれからどうするべきかと途方に暮れていた。
早朝6時にアルトンの街を出発したアキ達は、午後2時ぐらいにようやく本拠点近くに到着してそこで馬車を停める。
本拠点に近すぎると敵に見つかる可能性が高くなるので、一同はここでキャンプをすることにして準備を始める。
キャンプの設営を終えると、アキとソフィー、アフラ、ノエミは身を屈めて敵本拠転にさらに接近して、敵の感知エリアギリギリ近づく。
そして、アキはそこにゴーレム生成魔法陣を作り魔力を注ぎ始め、残りの者は周囲を索敵して安全を確保する。
キャンプに残ったリズとミリア、エレナは少し遅めの昼食を作り始める。
「お腹へったね~」
アフラはお腹を鳴らしながら、元気のない声でそう言うと
「アフラ。アナタね、緊張感が無さ過ぎよ!」
ソフィーがそうアフラを嗜めるが、確かに昼食を作るにしては時間が掛かりすぎていると思い、女神の懐中時計を鞄から取り出して、時間を確認すると既に45分経っていた。
「確かに遅いわね… まさか、何かあったのかしら!?」
アキは魔法陣への魔力注入を止めると、4人はキャンプ地に急いで戻ってくる。
すると、キャンプ地は何事もないようで、4人がひとまず安堵すると彼女達に気付いたエレナが声を掛けてくる。
「皆さんちょうどよかった。ようやく料理が完成したので、これから呼びに行こうと思っていたんです」
「エレナさんにしては、随分作るのに時間が結構掛かりましたね? 手の込んだモノを作っていたんですか?」
アキの言う通り料理上手なエレナが、これほど時間が掛かるのはおかしいため、声を掛けてきたエレナにアキがそう尋ねたのも無理はない。
だが、アキの問いかけに返ってきたエレナの答えは、意外なものであった。
「実は今回の昼食は、どうしてもリズちゃんが作りたいと言ったので、任せたんです」
「へえー、リズちゃんが作ったんだ」
「私が作ったッス。私はエレナさんやシオンさん、それにソフィーお姉さんが料理している姿を見て、自分でも作って見たいと思ったッス」
「大丈夫なの?」と、ソフィーは言いかけたが、リズが料理を覚えたいというのは、良いことだと思い、ここは余計な事は言わないことにした。
「ひき肉とナスのパスタ オーガ風ッス!」
リズは自信たっぷりにそう言って、一同の前にパスタが盛り付けられた皿を並べていく。
そして、一同はそのパスタを見て驚愕する、何故なら…
それはパスタというにはあまりにも量が多すぎた―
大きく―
分厚く―
重く―
食感も悪く―
皿いっぱいに『特盛り!』と言わんばかりに、山のように盛られていた―
いくら彼女達が冒険者とはいえ、明らかに量が多すぎた―
「何よこの量は! こんなに食べきれるわけないじゃない!」
目の前に置かれたてんこ盛りのパスタを見たソフィーが、電光石火で突っ込む。
「張り切り過ぎて、作り過ぎたんだよね? 紫音ちゃんも料理を作り始めた頃は、分量をよく間違えていたよ」
ソフィーのツッコミの後に、アキがそうフォローするとリズからはこう返ってくる。
「7人前ッス… 茹ですぎたら、倍に膨れ上がったッス…」
「oh…」
茹ですぎて、倍ほど伸びたパスタが美味しいわけがない…
リズのその言葉を聞いた一同は、そう一言漏らした後に暫く無言になる。
「ところで、どこがオーガ風なんですか?」
エレナは、目の前にある大量に盛られた伸び切ったパスタを見て、意気消沈しながら頑張ってリズにそう質問してみると、彼女からはこのような答えが返ってきた。
「この上から大量に掛けているトマトソースを、頭から大量に血を流すオーガに見立てているッス。あの憎きオーガをこうしてやろうという願いを込めているッス」
「何おっかない思いを料理に込めているのよ! 見なさいよ、ミリアが連想してすっかり怯えているじゃない!」
「あうぅぅ…」
ミリアは食べる前から、意気阻喪としてしまっている。
※意気阻喪
元気がなくなり、気力が失せ、意気込みや勢いも衰えること。
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