280話 それぞれの夜 その1



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 リズ達の場合―


 リズにお見舞いされたアキ達は、余ったパスタを全て平らげて服からはみ出すぐらいお腹を膨らませるというお約束の姿になったアフラをキャンプ地に置いて、再びゴーレム生成魔法陣に魔力を注いでいた。


 そして、その夜―


「夕食はエレナさんが作ったんですよね?」

「はい」


 昼間にリズの料理をお見舞いされた一同は、美味しいエレナの料理で満足な夕食を過ごすことができた。だが――!


「では、次は私の作ったオニオンスープをご賞味して欲しいッス」


 シェフリズは夜も現れる。


「大丈夫… なんでしょうね…?」

「まあ、食べてみて欲しいッス!」


「何これ!? 辛いじゃない!!」


 ソフィーは用心しながらスープを飲んだ為、少量だけで済んだためその辛さにツッコミを入れる事ができた。


「<リズ風スパイシーオニオンスープ>ッス。辛いスープは、美味しいし体も温まるッス」


 リズはドヤ顔でそう答えたが、それは自称「料理名人」にありがちの、変なアレンジをした料理であり


「これは… 流石に、辛すぎだと思うよ…?」


 スープを一口飲んだアキの感想通り、辛い通り越した激辛スープであった。


「何また余計なモノを作っているのよ! アナタ、自分で食べてみなさいよ!」


 またもや、嫌がらせのような料理を食べさせられたソフィーは、突っ込みというより怒りの感情をリズにぶつける。


 命がけで魔物と戦う冒険者にとって、ご飯と睡眠は戦う為のベストコンディションを維持する大事な要素である。そのため食事にはうるさくなってしまう。


「うぅ!? これは……  辛くて… 美味しいッス…」


 ソフィーに飲むように言われて、自分で作っておきながらその辛さにむせ返りそうになるが、あくまで<美味しい>と言い張るリズ。


「美味しいなら、もっと早く食べなさいよ! ほら、早く全部飲みなさいよ!」


 だが、ソフィーにはリズのやせ我慢はお見通しで、素直に辛いことを認めるまで食べるように促しつつ、辛さで涙目になっているミリアの様子を伝える。


「ミリアを見なさいよ、涙目になっているじゃない!」

「あうぅぅぅ…(涙目)」


 その涙目のミリアを見たリズは、何故か彼女に説教を始める。


「ミリアちゃん、何涙目になっているッスか! まだまだ、帰れないッス! 泣いたって、誰も助けに来てくれないッス! だから、早く食べるッス!」


「えうぅぅぅ…(泣)」


 リズの言う通り、いつもなら助けてくれる紫音とミレーヌがいない事に気付いたミリアは、急に心細くなって更に泣きそうになってしまう。


「昼と夜とせっかく頑張って料理を作ったのに、<辛い!>だの<不味い!>だの文句を言われて、更に涙目になられて、悲しいッス! 夜に体が冷えないようにと思って、辛いスープを作ったのに<余計なモノ>と言われ、<早く飲みなさいよ!>とか言われて、自分のペースで飲むことも許されず、こんな悲しい事は無いッス!」


 ワザとではないとは言え、不味い料理を作ってしまいそのために(主にソフィーに)文句を言われたリズが、悲しそうに反論すると人のいいエレナとアフラが擁護を始める。


「ソフィーちゃん。リズちゃんも料理を覚えたいと思って頑張って作っただけで、ワザと作ったわけではないので、それぐらいで許してあげてください」


「そうだよ、ソフィーちゃん。それに、そこまで不味くないよ」


 アフラはそう言いながら、スープを飲んでいる。


「アフラ、アナタは何でも美味しいんでしょうが!」

「そんなことないよ! 苦いのと腐ったモノはそんなに好きじゃないよ!」


「”そんなに好きじゃない“って、腐ったモノはお腹を壊すから、絶対に食べないようにしなさいよ!」


 ソフィーのツッコミの形をした、アフラを想うツンデレツッコミが出た所で、アキがこの様な提案をしてくる。


「よし、じゃあこうしようよ。明日の本拠点侵攻作戦が終わった後、エレナさんの夕食を食べた後に、もう一度リズちゃんにチャンスをあげて、一品だけ作った料理を食べるということにしようよ」


「アキさん、何言い出すのよ!?」


 アキの提案を聞いて詰め寄ってくるソフィーに、彼女にだけ聞こえるようにアキはこの様な企みを聞かせてきた。


「ソフィーちゃん、私はリズちゃんの料理を食べた時の紫音ちゃんの反応が見たいんだよ。果たして、こんな酷い料理を食べさせられた紫音ちゃんが、可愛いリズちゃんにどんな対応をするのかね」


「相変わらず、歪んだ愛情表現ね… (でも、確かにシオン先輩の反応を見たいかも… それに、最悪食べなければいいだけだし)」


 ソフィーはこのように考え、アキの企画を受け入れることにした。


 もちろん紫音の反応を見たいという興味もあるが、アキもソフィーもリズの料理を覚えたいという想いを汲み取ってのことでもある。


 こうして、明日の夜にもう一度リズの料理が、紫音を巻き込んでお見舞いされることになった。


「エレナさんの料理が、前座になるわけッスね」


 リズはエレナに聞こえないように、ソフィーとアキにそう言うとソフィーからは、すぐさまこのようなツッコミが返ってくる。


「アナタ、昼と夜にあんなモノ作っておいて、よくそんな事を言えたわね!」


 そして、ソフィーは更にリズに明日の料理に関して、変な料理を作らないように釘を打っておくことにした。


「あと言っておくけど、次あんな料理だしてきたら、シオン先輩じゃないけど肩にグーパンしてやるからね!」


「エレナさんにアキさん! 聞いたッスか今の言葉を!? 頑張って作った結果、不可抗力で美味しくない料理を作ってしまった私に対して、このヒンヌーツンデレお姉さんは、次また作ったら”肩にグーパンしてやる”っていったッス! 子供のヤル気を削ぐとんでもない発言ッス!」


 リズはソフィーの暴言に対して二人に意見を求めるが、アキとエレナはソフィーの気持ちも分かるので苦笑いするしかない。


「誰がヒンヌーツンデレお姉さんよ!」


 果たして、明日の料理は何が出てくるのか? ”エビチリ”か? ”グレーリング飯”か? 本拠点攻略後に続く。

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