267話 優勢な戦況
前回までのあらすじ
幼女のマオちゃんの窘められてしまった紫音は、頼れるお姉さん(自称)のポジションを守るために、マオが200才だと言い張っているのを良いことに、自分は年上のお姉さんに叱られただけだとして体面を保とうとする。
だが、そんな言い訳が通じるわけもなくソフィーにすぐさま突っ込まれてしまうが、その彼女も幼女のマオにツッコミスキルを上げる前に戦闘スキルをあげろと窘められてしまう。
幼女に窘められた二人は凹み、その横で呑気にバナナを頬張るアフラ。
果たして、オーガ侵攻軍を撃退することができるのか!?
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「ところで、シオンよ。いつまで、頭に猫耳を付けているつもりだ?」
マオは紫音に、すっかり忘れて頭につけっぱなしだった猫耳にツッコミを入れる。
「そうだった! すっかり、忘れていたよ」
紫音がリーベによって、頭につけられていた猫耳カチューシャを外すと、ソフィーと城壁の上のアリシアが残念そうな顔をした。
そして、紫音はその忌まわしい猫耳を地面に叩きつけて捨てようとしたが、リーベの事を思い出してそっと鞄にしまう。
紫音が最後やらかして投石機を一つ壊しそこねたが、その後リディアがフェイタルアローで破壊に成功しており、マジックシールドでの防御から開放された魔術師達の援護が再開されたことによって、要塞前の堀での戦いは順調に進んでいた。
最後グダったとは言え、それまでにオーガを60体近く撃破しており、そのおかげで堀に攻めてくる敵の数が少なくなり、戦闘間隔に余裕ができたことも功を奏している。
防衛部隊は紫音達が堀の前に戻った頃には、オーガの前衛部隊を撃破しており、オーガを警戒しつつ交代しながら休憩に入っていた。
今回は戦力に余裕があるためか、皆の表情もいつもより険しくなく、むしろ優勢な事から全体的に楽観的な雰囲気も少し漂っている。
「シオン君、よくやってくれた。君が敵の戦力と投石機の数を減らしてくれたお陰で、かなり余裕を持って戦う事ができた。おかげでかなり戦力を維持した状態で、敵の残り部隊に対抗することができる」
ユーウェインが高級魔力回復薬を飲みながら、紫音に近づいてきて労いと感謝の言葉を述べてきた。
「新しい女神武器と修行の成果、凄いわねシオン」
クリスも近づいてきて、話しかけてくる。
紫音の回りに集まった堀で戦っていた者達は、ダメダメポニーがやらかしたことを知らないために、戦果だけを見て褒めてくれる。
「えへへ~」
紫音がみんなの称賛の声に照れていると、自分達に迷惑を掛けたくせに能天気に照れている姿を見たソフィーは、少しイラッとしてさらっとこう突っ込む。
「最後に派手にやらかして、ハラハラさせてくれたけどね…」
「はぅ!?」
(あっ… やっぱり、やらかしていたのか…)
ソフィーのツッコミを聞いた一同は、すんなりと納得して何も言わずに持ち場に戻っていった。
「別に言わなくてもいいよね!? ソフィーちゃんの意地悪! ソフィーちゃんのヒンヌー!」
紫音はみんなにやらかしたことを暴露したソフィーに、そう文句を言って向こうに走っていった。
「誰がヒンヌーよ!? アナタにだけは言われたくないのよ!」
そう言って、ソフィーは走っていった紫音を、怒りながら両手を上げて追いかけるという解りやすいポーズで紫音の後を追っていく。
その頃、リーベとエマは次の手を考えていた。
オーガは100体近くまで減らされており、投石機を破壊されたこの状況では、防御側である人間側は積極的には攻めてこず、堀の後ろで待ち構えるであろう。
だが、二人で考えてもいい案が浮かばなかったので、魔王に栞で指示を仰ぐことにして、策を授かっていた。
「これまでの防衛戦なら、そうだけど今は状況が違うわ。この戦いの後に、オーガ本拠点攻略を考えている人間達は、今回の戦いで四天王2体とオーガの数をできるだけ減らしたいと思っているはずよ」
少し考えた魔王は最良と思う次のような作戦の指示を出す。
「そこで、今回の作戦だけど… 次の戦いに備えて撤退しなさい。まずはリーベ、アナタはゴーレムを作り出して、それとオーガを数体全面に出してから撤退を開始しなさい。そうすれば、人間達は追撃をかけてくるはずだから、ゴーレムで時間稼ぎをしている内に、撤退して追いつかれそうになる度に、オーガを退路に10体配置して追撃を防ぎなさい」
これは、戦国大名島津氏の戦法『捨て奸』を参考にした撤退方法である。
「逃げるというのですか?」
エマは撤退戦に反対するが、魔王は次のように説明する。
「エマ、戦術的撤退よ。ここで、戦力をすりつぶしても意味はないわ。それより、四天王を2体温存して、オーガ本拠点侵攻作戦に備えたほうが勝率は高いわ」
「確かに…そうですね」
魔王の説明に納得したエマは、次の戦いで借りを返すことを胸に誓う。
リーベはゴーレムを作り始め、人間達が回復を終わらせ戦闘態勢を整えた時には、何とか一体のアイアンゴーレムを作り出す。
「私の出番だね!」
そのゴーレムを見たゴーレムキラーアフラは、ミトゥトレットを装着した右腕を回しながら休息で切れていた戦闘スイッチを入れ直す。
その頃、アルトンの街の隠れ家では―
「私とした事が、シオン・アマカワの戦力を見誤るとはね… でも、真悠子の話だと読み通り習熟は出来ていないようね。撤退戦でどれだけの驚異になるかしらね…」
魔王は紫音の戦闘力を危惧しながら、もう一つの問題に頭を抱えていた。
「だから~、変な設定を追加していかないで欲しいの~」
それは、クロエがままごとに新たな設定を加えはじめ、それに対してアンネが怒っているからである。
少し前までのクロエの設定は、右腕に暗黒竜が封印されており、右目には魔眼、左目は機械で、左手には仕込み銃が装備されているというモノであった。
現時点でのクロエは右腕の暗黒竜の封印が解けたという設定であるが、そのかわりに右腕には、一回だけだが星も砕くことができるパンチが打てる力が宿っている。
そして、暗黒竜に見立てた蛇のヌイグルミであるヨルムンガンドと戦い始めるが、すぐさまヨルムに巻き付かれてしまう。
「シャ~」
「くっそ~! 暗黒竜め~!」
だが、クロエはノリノリでその危機的状況を楽しんでいる。
何故なら、しょせんゴッコ遊びだからである。
「わんわん」
「おのれ~、魔狼め~!」
そこにフェンリルが、自分も遊んで欲しくてクロエの頭に前足でちょっかいをかけだす。
「ぶも~」
そこに更にエイクが角でクロエの足を突きはじめる。
「おのれ~、暗黒… 魔… 暗黒ヘラジカめ~」
いいネーミングが浮かばなかったので、エイクは安直な名前になってしまう。
「もぉ~! ヨルムもフェンリルもエイクも、クロエお姉ちゃんの変な設定に付き合っちゃダメなの~」
アンネが頬を膨らませて怒っており、フィルギャとスレイプニルが側で慰めている。
そのアンネの怒る姿がかわいいので、やっぱりもうしばらく見守ることにした魔王であった。
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