266話 黒猫と幼女とツンデレ
「シオン様が、オーガに連れ去られてしまいます!!」
「はわわわ!!」
紫音が連れ去られる光景を見た焦るアリシアが、そう言うと側に居たミリアはパニックになってしまう。
「わたくしが今お助けに参ります!!」
アリシアがそう言って城壁の階段に向かって走り出そうとすると、アキはそんな彼女をこう言って制止する。
「アリシア様、大丈夫ですよ。紫音ちゃんには― 」
アキがそう言った瞬間、紫音を抱えていたオーガが頭から縦に真っ二つになって、魔石に姿を変えた。
「はぅ!!」
自分を抱えていたオーガが消滅したことによって、地面に落下した紫音は受け身も取れずに地面に落下する。
幸い耐久値のスキルの高い紫音には、地面に落ちたぐらい大したダメージにはならないが、一瞬息が止まるほどの衝撃をお腹と胸に受けてしまう。
「ゲホッ! ゲホッ! 一体何が…?」
紫音が地面から頭を上げて見ると、そこには大きな鎌を持った頼もしい幼女の姿が映る。
「我の出番は、もう無いと思っていたのだがな…。シオン、オマエは本当に困ったやつだな。<無念無想>を習得したというのに、まだこのような醜態を晒しているとは…… 成長せん奴だな…」
肩に鎌を担いだマオは、地面に倒れている紫音を手のかかる子供を見るような目で見ながらそう言ってくる。
「あぅ… ごめんね、マオちゃん…」
美幼女に叱られるのがご褒美と感じられる上級者ではない紫音は、幼女に叱られる情けない自分に凹んでしまう。
(この幼女が、エマの言っていた渾身の蹴りを止めたという子ね。それにしても、突然現れるなんて、まるで光学迷彩ね…)
リーベは前回の戦いの後に、エマからマオの話を聞いていたが、アンネより年下の幼女がそんな凄い戦闘力を持っている事を信じていなかった。
(それに、この戦闘力……。この子、何者なの…? 本当に女神の祝福で、スキル強化されただけの幼女なの?)
だが、目の前で実際見せられるとその力に驚きよりも疑問を感じてしまう。
「そこの黒い者よ、どうする? 大人しく引き下がるか? それとも、我と戦うか?」
そんなリーベにマオは鎌を構えながら、彼女に紫音を諦めてこの場から引き下がるのか、自分と戦うのか選択を迫る。
「わかったわ、今は大人しく引き下がるわ。サタナエル、一度後退するわよ!」
リーベは今の自分ではマオには勝てないと判断すると、大人しくその場を離れることにして、エマに声を掛けて撤退することにした。
「次はちゃんと拳を交えましょうね」
エマはアフラにそう言うとアフラの前に発動させた雷魔法の眩しい光で、彼女に目眩ましをして視界を奪うとその隙に距離をとって撤退する。
「はにゃ~、まぶしい~」
アフラは目眩ましを受けて、視力が回復するまで手をブンブン振って、敵が接近しないように威嚇するが、実際オーガが接近すればその効果はあまりなかったであろう。
だが、運良く視力が回復するまでオーガは彼女に近づかなかった。
「ありがとうね、マオちゃん。後でお礼にお菓子あげるね」
「我を子供扱いするなと何度言ったら解るのだ?」
マオは怒りながら、紫音が腰につけている鞄に手を入れると高級オーラ回復薬を取り出して、封を切ると紫音の口に強引に突っ込む。
「やめて、ゴボゴボ… 無理に飲ませないで、ゴボゴボ… また、マーライオンになっちゃう、ゴボゴボ…」
紫音はなんとかマーライオンにならずに、高級オーラ回復薬を一本飲み干すとオーラが回復して、体に力が入るようになった。
そして、地面から体を起こして座るともう一本オーラ回復薬を飲み始める。
すると、そこにようやくオーガを倒したソフィーが近づいてきた。
「もう、心配したじゃない! あんなに簡単に拐われそうになるなんて!」
ソフィーは開口一番、怒りの言葉をぶつけてくる。
「心配させてごめんね、ソフィーちゃん」
それは、紫音が拐われそうになった時に、極度に心配させられた事への裏返しであり、紫音もそれが解っていたので、素直に感謝と謝罪の言葉を笑顔と共に返す。
「わっ、わかればいいのよ」
素直な紫音の言葉とその笑顔にソフィーは頬を赤くして、照れ隠しにそっぽを向いてツンデレ返事をしてくる。
「銀色の可愛らしいツインテの幼女さんが、シオン様を助けてくれました」
「やっぱり、マオちゃんが助けてくれたみたいだね」
アキはフェミニースの指示によって、マオがまた紫音を見守ってくれていると思っていたので、あまり心配はしていなかった。
「あの幼女さんは、マオちゃんとおっしゃるのですか?」
「そうです」
アリシアの質問に、アキがマオの名前を教える。
(マオ…ちゃん…。どこで、聞いたことがあるような…)
アリシアは、その名に以前どこかで触れた気がしたが思い出せず、今は他に優先することがあるので後で考えることにした。
「まだ、目がチカチカするよ~」
アフラがそう言って、瞼をまばたきさせながら三人に近づいてくる。
「アフラ、目が回復してないところ悪いけど、このダメダメ先輩を連れて、急いでここから後退するわよ」
「了解~」
アフラは紫音を肩に担ぐと安全な後方に向かって走り出す。
安全な後方に戻ってきた紫音達は、マオ以外それぞれ薬品を飲んで傷や消耗したオーラを回復させる。
「しかし、こんな小さいのにあんなに強いなんて、マオちゃんは凄いわね。……私より強いかも…」
薬品を飲みながらソフィーは、マオの強さを褒めると同時に、冷静に自分との強さを比較して、彼女のほうが強いと感じて少し凹んでしまう。
「落ち込むこと無いよ、ソフィーちゃん。マオちゃんは可愛い幼女に見えるけど200年生きているって言い張る合法ロリのお姉さんだから、強いのは当然なんだよ」
紫音は凹むソフィーを見てすぐさまフォローするが、自分の言った彼女を慰める言葉であることに気付いてしまう。
「ということは、私は幼女に叱られたり助けられたりしたのではなく、合法ロリのお姉さんに叱られたんだ! つまり、年上に叱られるのも助けられるのも普通のこと! したがって、私は何も恥じることはなかったんだよ!!」
一応は筋が通っているような理論を言い出して、紫音は自分の駄目さを弁護する。
「何を都合のいい事を言っているのよ! どうみたって幼女じゃない!」
だが、当然そんな都合のいい言い訳に対して、ソフィーの突っ込みがすぐさま入った。
「誰が幼女だ、このツンデレ娘! あと、あの程度のオーガに苦戦するオマエは、ツッコミを磨くより、技を磨くが良い!」
更にそのソフィーに、幼女扱いされたマオの彼女へのダメ出しに近い的確なツッコミが入る。
その三人のやり取りを横目に、アフラが薬品を飲みながら呑気にバナナを頬張っていた。
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