261話 主人公、無双する その壱




「街の噂通り、シオン・アマカワの武器が新しくなっていますね」


「あれが紫音に与えられた彼女用の女神武器…。あの女神の事だから、お気に入りの紫音の為に強力な武器にしているに違いないわ。魔王様の作戦通り、まずはオーガと戦わせて、少し様子を見ましょう」


 望遠鏡で紫音の姿を見たエマとリーベは、そう話し合うとオーガに攻撃の命令を出す。


「ニンゲンタチヲ、ホフルトキガヤッッテキタ! ゼンエイ、コウゲキヲカイシセヨ!」


 リーベの攻撃命令を受けたオーガ四天王の一人、『ホシグマ』が屈強なオーガの戦士達に攻撃命令を下す。


「オーーーー!!」


 オーガ達は手に持った武器を天に掲げて、大気が震える程の鬨の声をあげると、前衛部隊が要塞に向かって突撃を開始する。


 それと同時にリーベは、投石機の準備の指示を出す。


 オーガ達がその筋骨隆々の体で走るスピードはかなり速く、いつものように近寄る前にHPを削る作戦では、削り切る前に要塞前まで到達してしまう。


 そのために要塞前までの地面には事前に先の尖った杭、所謂乱杭が設置されており、少しでもオーガ達の突進速度を抑える工夫がされていた。


 オーガ達は大斧や大剣などの武器で、乱杭を破壊する為に一度足を止めるので、そこから再び走り出すので速度が少しだけ落ちる。


 そこに弱点の雷属性魔法や弓矢、城壁に設置しているバリスタで攻撃を加えて、迫ってくるオーガ達のHPを削っていく。


「ミ―! GRファミリア発射ッス!」

「ホーー!」


 リズも城壁の上から、グシスナルタとGRファミリアを発射して、主にGRファミリアの攻撃でオーガを撃破していく。


「スパーク!」


 ミリアも頑張って、城壁の上から雷属性の最高位魔法『スパーク』を放ち続ける。

 遠距離攻撃を受けHPを削られながらも、走り抜けてきたオーク達は堀の縁を通り過ぎたところで、ユーウェインやスギハラ達に止めを刺されていく。


 ユーウェインはオーガの攻撃を左斜めに素早く移動して回避すると、そのままオーガの横を抜けながら空いた胴に斬撃を放つ。


「魔法剣スパーク!」


 胴を斬りつけられたオーガは、斬撃と同時に強力な雷攻撃を受けて、全身黒焦げになった後に魔石へと姿を変えた。


「風旋!」


 スギハラはオーガが自分に向かって武器を振り上げた瞬間に、後の先を取って縮地法で踏み込むとその空いた胴に、高速の切り抜け技『風旋』を放ちながら後方に切り抜け、オーガを魔石にする。


 他の縁の出口を守っている者達も、各々その磨き抜いた技でオーガを撃破していく。


「これが…実戦…」


 アリシアが城壁の胸壁に身を隠くしながら、戦場の様子を窺っている。

 そして、初めての実戦で自分に迫ってくる巨軀のオーガを目の前にして、震える体を必死に抑えながらこのようなことを考えていた。


(シオン様は…兵士の皆さんは、この恐ろしい戦場で毎回立派に戦っておられたのですね…。それなのに、わたくしは…… 立派なのは装備だけです……)


 そして、アリシアは自分の不甲斐なさに落ち込んでしまう。


「投石攻撃が始まるぞ!」


 壁の上で敵の行動を観察していた兵士がそう叫ぶと、壁の上にいた魔法使い達が一斉にマジックバリアを張って、飛んでくる石の防御に徹し始める。


「アリシア様、ここは危険です! 安全な所にお連れします。まあ、ここよりはですが…」


 リディアはアリシアに駆け寄って、彼女にそう言うと一緒に連れてきた女性兵士に、アリシアを比較的安全な場所に案内しようとすると、リズとミリアが近寄ってきてこのような提案をしてくる。


「それなら、ミリアちゃんと一緒に居たほうが安全かもしれないッス。ミリアちゃんにはケットさんがいるッス」


「確かに、ミリアちゃんの肩に乗っている黒猫?さんは、以前ヒュドラのウォーターブレスも防いでいたわね。そのほうが良いかも知れない…。お願いできるかしら、黒猫さん」


「ナー」


 ケットさんは右前足を上あげて、”まかせなさい”と言った感じで鳴いて答える。

 リディアにはその姿がとても頼もしく見えたので、アリシアを任せることにした。


「いつもより、投石攻撃がはやいな…。リーベの差し金か」


 ユーウェインはオーガと戦いながら、頭上を飛んでいく石を見ながらそう推察する。


 だが、彼はさほど慌ててはいない、何故ならばこの時のために彼女達を遊軍としていたのであるのだから。


 戦場の左端に居たオーガが、残像を残しながら高速移動する者が、自分の側を通り過ぎた時にオーラの大太刀で斬って抜けたことに気付いたのは、体を斜めに真っ二つに斬られ視界が斜めにズレた時であった。


 紫音はオーガが投石機による攻撃を始めたと同時に、女神武器の特殊能力を発動させ、戦場の端から残像を残しながら高速移動で、投石機を目指して走っていた。


 その途中、行きがけの駄賃とばかりに進路上にいるオーガ達を、オーラの大太刀で真っ二つに切り捨てて行く。


 ムラクモブレードに、オーラを纏わせて作り出したオーラの大太刀は、刀身が3メートル程あるので、オーガの巨軀を余裕で真っ二つにすることができる。


「これで、10…」


 <無念無想>の紫音はそう落ち着いた感じで、斬った数を口にすると更に目の前にいたオーガを横一文字に切り伏せていった。


「15…」


 紫音はオーラの大太刀を、肩に担ぐようにして持ちながら走り、目の前にいるオーガを一体、また一体と一撃の元に魔石にしていく。


「武器だけではなくて、本人の実力もかなり上がったみたいね」


 その紫音の鬼神のような働きに、リーベは冷静に彼女の戦闘力を測る。


 その頃―


「お隣のクマさん(フィルギャ)とヘラジカさん(エイクスュルニル)とウマさん(スレイプニル)とヘビさん(ヨルムンガンド)が遊びに来たの~」


「クマ~」

「ブモ~」

「ヒヒ~ン」

「シャ~」


 アンネのおままごとに参加することになったぬいぐるみ達は、みんな嬉しそうに鳴いている。


(ご近所に住んでいるのが、動物ばかりって某ゲームみたいだな…)


 厨二のクロエには、このヌルイ設定の“ままごと”に、正直少し飽きながら、そう思っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る