262話 主人公、無双する その弐




 オーガはその巨軀から扱う弓も大きく威力も高い。

 その大弓を持ったオーガの後衛部隊が、紫音目掛けて矢の雨を降らすが、高速で移動する紫音にはあたらない。


 だが、偏差射撃をされると当たる可能性も出てくる。

 そこで、紫音は遠隔攻撃を行って、懸念を排除することにした。


「いけっ…、ゴッデスマガタマファミリア」


 紫音はゴッデスマガタマファミリア(GMファミリア)に、矢を射ってきた後衛オーガ達への攻撃を指示する。すると、彼女の左肩の上に浮遊しながら付いて来ているGMファミリアのプラットフォームから、勾玉の形をしたGMファミリアが分離して目標目掛けて飛んでいく。


 分離した8つのゴッデスマガタマファミリア(GMファミリア)は、女神武器の特殊能力発動による紫音のオーラブーストに連動して、マガタマに蓄えられたオーラの量も増加している。


 そのためマガタマは、オーラを全体に纏いそのオーラは刃のようになり、飛翔する姿はオーラのチャクラムのように見えた。


 オーラのチャクラムとなったマガタマは、撃ち落とそうと飛んでくる矢を回避しながら、大弓を持ったオーガに接近する。そして、防具で覆われた体を切り裂いて敵数体を魔石に変えた後に、再びプラットフォームに戻ってオーラの急速充填を開始した。


 紫音が投石機に近づくとリーベの命令によって、複数のオーガが壁のように並んで紫音の行く手を阻んでくる。


 巨軀のオーガに並ばれるとまさしく壁のようで、通り抜けることもましてや切り抜ける隙間もないために、紫音は一度立止らざるを得なくなってしまう。


 そして、気づけば紫音は、リーベの巧みなオーガへの指示によって、囲まれてしまっておりその筋肉の壁は少しずつ距離を詰めてくる。


「囲まれた……。なら、アレを試そう…。GMファミリア展開」


 紫音は冷静に状況を判断すると、オーラの充填が終わったGMファミリアを再び展開させ、新たな指示を出す。


「GMファミリア、クサナギモード!」


 彼女は両手で握ったムラクモブレードを脇構えに構えて、刃を地面と水平にして刀をやや外側に向けてから、GMファミリアに指示を出す。すると、オーラを纏った8つマガタマ達は刀身の刃と峰側に4つずつに別れて、刀身から1メートル離れた所に浮遊する。


 そして、マガタマ達が刃先の方に向かって、1.5メートルずつ間を空けて直線で並ぶと、紫音はムラクモブレードの刀身からマガタマまでオーラを伸ばす。すると、刃幅2メートル、刀身6メートルのオーラの極大剣とも言える剣が作り出される。


「薙ぎ払え! クサナギブレード!」


 そして、紫音は一歩踏み込んでそのオーラの極大剣を、ハンマー投げのように水平に振り回し自分を中心に円を描くように横薙ぎを開始する。


 紫音を囲んでいたオーガ達は、そのオーラの極大剣によって、横一文字に真っ二つにされて、彼女が一回転した時には皆魔石に姿を変えていた。


 その紫音の攻撃を見たエスリンは、隣で戦うタイロンに大声でこう話しかける。


「筋肉先輩! 今のシオンさんの攻撃、先輩の女神武器の特殊能力と同じでしたね! 先輩が出し惜しみしている間に、使われてしまいましたよ!? この後、先輩が使ってもインパクトなくなってしまいましたね!」


 エスリンの言う通り、タイロンの女神武器の特殊能力は、巨大なオーラの極大剣を作り出し、複数の敵を薙ぎ払ったり、大型の敵に大ダメージを与えたりするものである。だが、彼のブルトボルグは、クサナギモードより更に大きい剣を作り出すの全く同じなわけではない。


 タイロンは出し惜しみしていたわけではなく、女神武器の特殊能力は基本的に戦闘では一度しか発動できず、使った後も強力であればあるほど反動が使用者を襲う。


 そのため使い所が難しく、戦況に応じてユーウェインが発動させるかを指示するので、紫音が要塞戦に参加してから(この物語が始まってから)、彼に使用する機会がなかっただけである。


「うるせえよ、戦闘に集中しろ! それを言うなら、その前の敵を切り裂く攻撃方法は、オマエの特殊能力にそっくりだったじゃねぇか!」


 タイロンは生意気な後輩にそう言って反論する。


「あいつら…」


 その二人の言い合いを、タイロンの横で戦っていたユーウェインは、少し呆れた感じで聞いていた。


 一回転した紫音は、その場で少し体がふらつくが、足を肩幅に広げて踏ん張り何とか体勢を崩さずに済む。


「よし、一気に決める!」


 紫音は両手で握ったムラクモブレードを、今度は両腕を伸ばして前に突き出すように構え刀を地面に水平にすると、刀身に大量のオーラを込めてハイパーオーラバスターの準備に入った。


 すると、GMファミリアがプラットフォームから分離して、ムラクモブレードの切っ先2メートル先に輪になって展開する。


「ハイパーオーラバスター!!」


 オーラを溜め終わった紫音は、そのGMファミリアの輪に目掛けて、ハイパーオーラバスターを放つと、その輪を通過したハイパーオーラバスターは更に威力を増して、射線上にいるオーガを消滅させながら太いオーラのビームとなって投石機まで突き進んでいく。


 GMファミリアは女神のクリスタルで出来ているために、周囲のオーラを少しずつ吸収することができる。そのためハイパーオーラバスターが輪を通過する時に、吸収して溜めていたオーラを付与して、その威力を増加させて放つことができた。


 威力の上がったハイパーオーラバスターが、いつもより速く投石機を破壊すると、紫音は射線を横にずらして、射線上にいたオーガを消滅させながら次の投石機を破壊する。


 その頃―


「父さん、母さん。私の右腕には、暗黒竜が封印されているんだ! あと、右目には魔眼で、左目は機械で、左手には仕込み銃が…」


(また、大量の厨二設定ぶっこんできたわね、クロエ…)


 魔王がそう思っていると、アンネが“ほのぼのままごと設定”に“おかしな設定”を付け加えてきたので抗議する。


「クロエお姉ちゃん、変な設定入れないで、ほしいの~」


 ぬいぐるみたちもかわいい鳴き声で、ご主人さまの為に抗議している。


 だが、フェンリルだけは犬好きで自分と遊んでくれるクロエの事も好きなので、どちらについていいかわからずに困っていた。



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