256話 深夜の激闘




 四人が紫音の部屋の床で倒れ込んでいる様子を、二人が倒れ込んだ音を聞いて自分の部屋からやってきた<変態淑女>レイチェルは、助けもせずに入り口の外から四人のやり取りを見守っていた。


 レイチェルの目にはこの悲惨な状況が、<キャッキャウフフ 美少女四人でお楽しみ!>に見えており、彼女は心の中で女神に感謝していた。


 すると、音を聞いてやってきたであろうエレナの声が廊下より、床に抑え込まれて万事休すの紫音に聞こえてくる。


「エレナさん! 助けて~」


 お腹の上にソフィーとアリシアが乗っている為に、息苦しくて大きな声が出しにくいために、紫音の助けを呼ぶ声は廊下にまで届かなかった。


 廊下からは同じく音を聞いてやってきたリズとミリアに対して、エレナが説明をする声が聞こえてくる。


「どうやら、四人は……、トランプで少し盛り上がっただけみたいですから、二人は心配せずに部屋に戻ってください」


 エレナは部屋の様子を一瞬だけ見て、子供に見せられないと判断したのかリズ達に部屋に帰るように説明している。


「エレナさん! この体勢を深読みして、変な気を使わないで!!」


 そのエレナの説明に紫音はツッコミを入れるが、もちろんその声は届かない。

 ミリアがトランプなら自分も参加したいと言ったのであろう、それに対してリズの答える声が聞こえてくる。


「四人は大人の大貧民をやっているッス。ミリアちゃんは参加できないッス。どうしてもやりたいなら、私と一緒に子供の大貧民をやろうッス」


「リズちゃん、大人の大貧民って何!? お姉さん、そんな如何わしい遊びしてないよ?!」


 紫音のツッコミが虚しく部屋にだけ響いた後に、廊下からこのようなリズの声が聞こえてくる。


「ミリアちゃんには、シオンさんの助けを呼ぶ声が聞こえたッスか?」


 どうやら、ミリアには紫音の救援を求める声が聞こえたらしく、その事をエレナとリズに話したようだ。


「流石は私のかわいいミリアちゃん! その通り紫音お姉さんは助けを求めているよ!」


 紫音がアリシアに押さえつけながら、ミリアに期待を込めて念に近い感じで、もう一度救援を求めるが、廊下からはリズのミリアへの否定の説明が聞こえてくる。


「どうせ、シオンさんがアキさんに革命を起こして調子に乗っている所に、その後にアリシア様に革命を起こされて、逆にピンチになっているだけッス。だから、心配することなんてないッス」


 聡明なリズはまるで見ていたかのように、紫音がアリシアによって床で身動きが取れなくなってしまった経緯を見事に大貧民に例えて説明してみせる。


「リズちゃん、本当は何が起きているか察しているよね!? 意地悪しないで、お姉さんを助けに来て!」


 だが、紫音の声は最後まで届かずに、三人は部屋に戻ってしまう。


「シオン様、邪魔者は消えましたね…」


 アリシアは抑え込んだ紫音にゆっくりと顔を近付けてくる。

 紫音が貞操の危機を感じたその時!


「むぎゅう~」


 体を鍛えていないアキはソフィー、アリシアの重さに耐えられずに、苦しみで漫画みたいな声を上げる。


「残念ですが、今回はここまでですね…」


 そのアキのカエルが潰れたような声を聞いたアリシアは、流石にアキの状態が不味いと感じて、紫音にそう言うと残念そうに3人の上から起き上がる。


 続いてソフィーが起き上がり、アキと紫音はようやく苦しみから開放される。


「酷い目にあったわ! こんな事なら、このPTに帰ってくるんじゃなかったわ!」

 ソフィーは乱れた髪を触りながら、そう言って少し怒った表情で部屋に帰っていった。


 ソフィーが部屋を出る時にふと入り口の側を見ると、レイチェルが先程までの緩みきった表情から一転して深刻そうな表情でこう呟いていた。


「美少女四人がキャッキャウフフと絡んでいる姿を見られるなんて、これは運を使い果たしてしまったのではないか? もしかして、私は明日の戦いで死ぬのではないか……」


 彼女は自分が何かとんでもないフラグを、立てしまったのではないかと心配する。

 ソフィーはその呟きを聞くと少し呆れた顔をして、見なかったことにして黙ってその場から立ち去り自室に戻っていった。


「ソフィーさんを、怒らせてしまいましたね…」


 アリシアが少し調子に乗りすぎて、彼女を怒らせてしまったことを反省していると、紫音がこう答える。


「大丈夫だよ、アリシア。ソフィーちゃんは、優しいからちゃんと謝れば許してくれるよ」


 紫音にそう言われたアリシアは、後で彼女に謝罪しようと考えた後に、二人が何故揉めていたのかを尋ねた。


 すると、紫音からアキと揉めて言い争いになった原因が、ミレーヌとフィオナが戦わない事によるもので、お互いの反論が理由で取っ組み合いに進展してあの大勢になったという説明を受ける。


「それなら、直接本人にお聞きになればよろしいのでは?」


 アリシアの答えは単純明快で、同じ屋根の下に本人がいるのだから、聞いてしまおうと言うものであった。


「確かに良い機会かもしれないね…」


 アキは乱れた服装と髪を整えながらわだかまりを無くすために、紫音に決意を促す眼差しを向けながらそう言ってくる。


「そうだね、お話を聞きに行こうか」


 紫音はミレーヌが怪しいはずがないと信じているので、彼女を更に信頼するために彼女の部屋に向かうことにした。


 三人が部屋を出る時には、すでにレイチェルはいなかった。

 ミレーヌの部屋の前に行くと、アリシアはドアをノックして、中に入室の伺いをたてる。


「ミレーヌ様、アリシアです。少しお話よろしいでしょうか?」


 アリシアに任せたのは、質問の内容と来訪時間も遅いために自分達よりも、王妹であるアリシアのほうが、角が立たないと考えたからである。


「アリシア様、どうぞ」


 部屋の中から、ミレーヌの入室許可の声がしたので「失礼します」と言って、三人はミレーヌの部屋に入室する。


 入室するとミレーヌは目を通していた書類を机に置くと、椅子を回転させて体を部屋の入り口に向けて、アリシアにこのように話しかけてきた。


「アリシア様が、こんな時間に珍しいですね…。おや、君達も一緒とは、更に珍しいな」


 ミレーヌはアリシアの後ろにいる紫音とアキの姿を見ると、何かを感じ取ったのか穏やかな表情から少し険しい表情になってそう答える。


 彼女はスラッとした細くて長い足を組むと、彼女達に少し威圧的な雰囲気を出しながら話しかけてくる。


「君達三人だけで、こんな時間に私に会いに来るということは、あまり歓迎できる用件ではなさそうだな?」


「はい。そうなるかもしれませんね」


 だが、アリシアも流石王妹だけあってこのような場面に慣れているのか、毅然とした態度でそう答えを切り返す。


(さすが、アリシア様。王妹様だけあって、大人との会話に慣れているな)


 アキはアリシアの態度を見ながら、ただの世間知らずの百合キャラという認識を改めていた。


(ミレーヌ様の生足きれい~)


 一方紫音は、年上美人の生足に魅入っていた。


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