257話 密約
前回のあらすじ
深夜0時頃、四人の少女達は、激闘を繰り広げていた。
㋛「でかいね、アレ…なんだろう?」
㋓「きっと、ドラゴンです!」
㋐「マジ!?」
㋛「私、万が一の時に備えて、バリケードを作るよ!」
㋐「バリケード? ドラゴン相手に?」
㋛「作らないと、食べられちゃうよ!」
㋓「とにかく、動きをよく監視するッス!」
㋐「本当にドラゴンだったの?」
㋛「私、角を見たよ! ドラゴンって角が生えているよね?」
㋓「私も見ました!」
㋷「冷静に見るとドラゴンにしては、小さくないッスか? アレ…鹿じゃないッスか?」
㋐「アレ…鹿だよね?」
㋓「今私にも見えました、鹿です…」
㋷「鹿ッス」
㋓「鹿でした」
深夜の茶番出演
㋷オオリズミ ㋛ミズ(Ms)シオン ㋐腐神アキD ㋓エレナカメラマン兼D
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本編
「まあ、立ち話もなんだから、三人とも適当にベッドにでも座ってくれ」
三人がミレーヌに促されてベッドに座ると、彼女は足を組んだまま用件を尋ねてくる。
「それで、明日は要塞でオーガとの戦いだと言うのに、こんな時間に三人でわざわざやってきて、私に一体何の用かね?」
「はい。実はミレーヌ様に、どうしても今日聞いておきたいことがありまして…」
アリシアが話を切り出すと、ミレーヌはこう予防線を張ってきた。
「私に答えられる事なら、よいのだが」
アリシアもミレーヌが、素直に答えないことは想定していたので、特に反応を示さずに話を続ける。
「ミレーヌ様が、前線で戦わない理由を教えて下さい」
「それは、アリシア様もよくご存知のはずです。アナタの兄上ルーク陛下の命で、私はこの街の総督に任じられたのを」
ミレーヌは、当然このような公式的な答えを返してくる。
「それは、表向きですよね? 普通ならミレーヌ様ほどの魔術師を、後方に置いておくなんて、宝の持ち腐れ的な事はしないですよね?」
アキは、はぐらかすミレーヌをそう問い詰める。
だが――
「アキ君。大人の世界には、色々あるのだ。私に前線で活躍されては困る者もいるのさ…」
だが、海千山千のミレーヌは、アキの問に今度は政治的な答えを返してくる。
政治や歴史を学んだ者なら、政治的な理由と言われると一見不自然や無駄とも思えるこの人事も、それらしい答えと納得してしまう。
そのために、アキもアリシアもこれ以上、どう真相を暴けばいいか困ってしまう。
だが、紫音はそんな政治的理由に感情論で反論し始める。
「私の知っているミレーヌ様は、そんな理由で他の冒険者や、何より可愛いミリアちゃんが前線で戦っているのを、助けに来ない人ではないです! 本当の事を教えて下さい!」
「シオン君…」
ミレーヌは珍しく普段温厚な紫音が感情的になって、自分の目を見つめながら抗議に近い問い詰めをしてきたので内心驚いてしまう。
そして、紫音が自分の事を政治的理由で可愛がっている姪を見捨てるような人物ではないと、そう信じてくれていることを嬉しく思い正直に答えることにした。
何より、今人類側になくてはならない戦力の紫音とアキがこの疑問を持ったまま戦って、明日の要塞戦に支障が出てはならないと思ったからである。
ミレーヌは重々しい表情になると三人にまずこう語りかける。
「これから話すことは、誰にも言ってはならない。約束できるね?」
「はい」
三人がそう答えると、ミレーヌの出す重々しい雰囲気に三人は身の引き締まる思いがした。
ミレーヌは重い口を開き始める。
「まず、私とフィオナが前線に出て戦わないのは、ルーク陛下の命であることは本当のことだ。その命の真の理由は、魔王との密約にある」
「魔王との密約?!」
三人は魔王の名が出てきたことに驚き、尚且つ密約という言葉にさらに驚く。
驚きの表情を浮かべる三人に、ミレーヌは外に聞こえないように声を一段低くして、その密約の内容を話し始める。
「その密約の内容だが、私もルーク陛下からの又聞きなので詳しいことは解らない。なんでも三年前の魔王との戦いの後に、魔王からの使いという者が城に現れて、陛下にこのような密約を持ち掛けてきたらしい」
「その使いというのは、やっぱりクナーベン・リーベですか?」
アキは、話を中断させるのはどうかと思ったが、思わず質問してしまった。
「さあ、フードを深く被っていたので、女性だということしか解らなかったみたいだ。だが、陛下の印象では冷静で知的な女性と感じたそうだ」
「じゃあ、リーベさんじゃないかもしれないね。私はあの人に、冷静で知的って感じの印象を受けなかったもの。どっちかというと、アキちゃんに近い感じを受けたよ」
アキは頭の回転の速い腐女子ではあるが、紫音の言う通り、その見た目は冷静で知的キャラというより、少し知的に見える気のいい女の子といった印象を受ける。
それは、アキが腐女子に見えないように服装や髪形に気を使って、擬態しているからでもある。
紫音がアキとリーベ(真悠子)が似ていると感じたのは、二人が貴腐人クラスの腐女子でありながら、お洒落に気を使って普通の女子に見えるように普段は擬態している所が、似ているのを感じ取ったからかもしれない。
「じゃあ、冷静で知的って感じだよ。何を言っているの? このおとぼけヒンヌーは……」
だが、アキは自分では知的なクールビューティーと思っているので、そんな評価をしてくる親友に容赦ない言葉で反論する。
「だって、アキちゃん…見た目は、別に冷静で知的って感じしないだもん。あと、ヒンヌーは関係ないよね!?」
もちろん紫音は、すぐさま辛辣な言葉を浴びせてくる幼馴染に突っ込みを入れる。
「二人とも、話を脱線させるんじゃない!」
「すみません…」
ミレーヌに怒られて、言い争い寸前の二人は冷静になって謝罪すると、彼女の説明を大人しく聞き始める。
「その密約というのが、私とフィオナを前線で戦わせない代わりに、魔王も前線で戦わないという内容で、魔王の強さを先の戦いで思い知らされていた陛下は、その密約に二つ返事で応じたらしい」
「お兄様と魔王との間に、そのような密約が交わされていたなんて…」
密約の話を聞いたアリシアは、少し複雑な表情でそう言った。
何故なら、国民や臣下に何も言わずに、そのような密約を魔王と結ぶという行為は、裏切りにあたるのではないかと思ったからである。
「それで、三年前に王都前まで出てきた魔王が、この三年間前線に出てきて、戦わないのですね」
アキのこの意見に、ミレーヌは自分の意見をこのように付け加える。
「そうだ。あの魔王ならこの密約がなければ、要塞戦や再び王都前に攻めてくる確率は高かっただろう。そうなれば、人類は三年もこの戦線を維持できなかったであろうな。ましてや、獣人拠点を二つも陥落させることなどできなかったはずだ」
「この密約で、魔王は自分で自分の首を絞めたことになりますね」
紫音が今迄の話を聞いて、そう言うとミレーヌが三年間考えていた疑問を話し出す。
「シオン君の言う通りだ。この密約は、実は魔王側にはさほどメリットはない。フィオナはともかく少なくとも私の戦闘力は、魔王の戦闘力に比べれば大したことない」
「そんな!? ミレーヌ様は“メテオ”っていう凄い魔法が使えるんですよね?」
ミレーヌの言葉を聞いた紫音が驚いて、彼女にそう聞き返すと彼女は首を横に振ってこう答える。
「確かに私は、女神武器の特殊能力で“メテオ“が使える。ただし、一回使えば魔力を全て消耗して、気を失ってしまってその後は使い物にならなくなる。だが、魔王は違う。王都に居たアリシア様やアキ君なら話を耳にしたことがあると思うが、魔王もあの戦いで、私の“メテオ”を防いだ後に“メテオ“を使っている」
「魔王も“メテオ“を!?」
紫音は魔王が隕石群を落とす凄い魔法を使ってくることに驚愕する。
「しかも、二回もな…」
「二回も!!?」
紫音は二回という言葉を聞いてさらに驚愕し、そして、こう思った。
(コレ…魔王を倒すのなんて、無理じゃないかな…)
次回に続く
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