247話 女神の武器授与式
前回のあらすじ
BL漫画家のアキさんが何者かに密室で殺されてしまったッス。
ダイイングメッセージは『ア』、果たして犯人は?
『BL漫画家別荘殺人事件(中編)』
「刑事さん。私達をこんなところに集めたのは、どういうつもりですか?」
紫音が自分達を集めたクリス刑事に詰め寄ると、彼女は紫音とその他容疑者に説明する。
「ここにいる名探偵アフラが、犯人がわかったそうなのです」
「それは、本当ですか?」
「犯人は一体?」
クリスの説明を聞いたアリシアとレイチェルが口々に言葉を発する。
「では、アフラ君。君の推理を聞かせてくれ」
ミレーヌ警部がアフラに推理を披露するように促すと、彼女の背後にいるリズンがアフラの声真似で推理を話し始める。
「まずは、密室トリックからお話するよ。まあ、実際にやってみるッス。リズンちゃん、やってみせてあげて」
「はいッス」
リズンは扉の近くまで行くと、内側についているサムターンにセロハンテープで糸を貼り付けると、その糸を扉の下に潜らせ糸の片端を持ったまま部屋の外に出て、扉を閉めると手に持った糸を強く引く。
すると、糸に引っ張られてサムターンが回って鍵が閉まる。
そして、さらに強く糸を引っ張ると糸はセロハンテープを残して、見事サムターンから外れて扉の外にいるリズンが回収する。
リズンはクリス刑事に鍵を開けてもらって、部屋の中に入るとトリックの説明を続けた。
「このように犯人は密室を作りだした後に、何食わぬ顔で死体発見の場に現れて、全員の目がアキさんの死体に集まっている隙にさり気なく扉に近寄って、サムターンに残ったセロハンテープを回収したッス」
ミレーヌ警部は、リズンのトリック解明に感心すると、続けて犯人の正体を尋ねてくる。
「なるほど! それで犯人は一体誰なのかね、アフラ君!」
リズンは素早くアフラの背後に戻ると、犯人の名を告げる。
「犯人は、アリシア様ッス!!」
「!!?」
リズンが口にした犯人の名前に一同は驚愕する。
「確かにアリシア様には、犯行時間にアリバイがなく、犯行が行われる前にアキ君とシオン君を巡って言い争っていたという証言もある。しかも、ダイイングメッセージの『ア』にも一致する!」
そして、ミレーヌ警部がアリバイと動機を解説してくれる。
(いや、それ完全にアリシア様スリーアウトだろ…。なんだ、この茶番…)
カシードが心の中でそう思っていると、そのアリシアが自己弁護をはじめる。
「わたくしは、たしかにアキさんとシオン様を巡って言い争いましたが、彼女を殺してなどいません!」
「詳しいことは、署で聞きましょうか?」
ミレーヌ警部が、聞く耳持たずとばかりにアリシアを逮捕しようとすると、レイチェルがこのような事を言って主人の弁護をおこなう。
「アリシア様のアリバイは私が証言します! アリシア様は犯行時間の午後10時前からずっとシオン君の部屋のクローゼットに隠れて、彼女が部屋に戻ってくるのを待っていました! ですが、シオン君が11時くらいまで戻らなかったので、アリシア様はその間にクローゼットの中で眠ってしまったのか朝まで中から出てきませんでした!」
「レイチェル!?」
レイチェルのアリバイ証言を聞いたアリシアは、どうしてその事をしているのか驚く。
「レイチェル君。どうして、君がその事を知っているのかね?」
同じ疑問を抱いたミレーヌ警部が、その証言に冷静につっこむと彼女はこう答えた。
「何故なら、私はそんな御二人のキャッキャウフフを見ようとシオン君の部屋の外にある木から、一晩中覗いて― いや、見守っていたからです!!」
「主従揃って何しているの!?」
そのアリバイ証言を聞いた紫音は、すかさず二人につっこんだ。
「ああ、シオン様にこんな端ない行為を知られるなんて恥ずかしいです」
アリシアは、自分の行った行為が恥ずかしいことだと認識していたようで、恥ずかしさの余りに両手で顔を隠してしまう。だが、恥ずかしがるアリシアを横目に紫音は、ミレーヌ警部にこう訴える。
「刑事さん! 何かの罪でこの二人を逮捕してください!」
「シオン様!?」
「シオン君!?」
紫音の発言に主従は驚いて声を発するが、当然の結果である。
「そうだな。二人の殺人の容疑は晴れたが、別件で逮捕だな。クリス刑事、二人を署まで連行しろ」
「はい!」
「「そんな!?」」
こうして二人は逮捕され、署まで連行されることになったが、犯人推理は振り出しに戻ってしまった。
※サムターンとは、ドアの室内側についている錠の開け閉めを行うための金具(ツマミ)の名称です。
※あと、良い子のみなさんは、トリックを真似しないようにしてください。
#####
「女神様の神託でアキさんが、シオン様にそのような試練を…」
「そう、それでこれが”私の”女神武器、ムラクモブレードだよ」
紫音は試練の話をアリシアにすると鞘から抜いて、ムラクモブレードをアリシアに見せる。
「美しく…そして、力を秘めた素敵な武器ですね。シオン様にお似合いです」
「ありがとう、アリシア」
紫音はムラクモブレードを鞘に戻すと、紫音がアリシアと話をしている間にフィオナと連絡していたアキが、紫音にフィオナからの言葉を伝える。
「紫音ちゃん。フィオナ様からの伝言で、明日の朝十時くらいから【女神武器】の授与式をおこないたいって」
「【女神武器】の授与式って、リズちゃんが受けていた儀式だよね? 私は参加できなかったけど…」
紫音が儀式と聞いて緊張していると、それに気付いたアリシアが安心させようと説明してくれる。
「シオン様。【女神武器】の授与式は、別にそれほど大げさな儀式ではありません。形式としてフィオナ様から、受け渡されるだけです。それに参加する人間も教会側はフィオナ様と数名で、後は身内だけですし」
「そうなんだ。それなら緊張しなくても大丈夫だね」
紫音は少し緊張から開放されて、明日の授与式を迎える。
次の日、授与式を受けるためにフェミニース教会に訪れた紫音達は、フィオナとナタリーの出迎えを受ける。
「それでは、シオンさん。授与式の準備のために、新しく女神様から頂いた【女神武器】を私に預けてくださいますか?」
「はい」
紫音は言われたとおりに、彼女にムラクモブレードを手渡すと、フィオナは受け取ったムラクモブレードを女神像の前に設置された祭壇の上に置く。
その祭壇にはもう一つ何かが置かれており、それに気付いたアキがまだ授与式前なので、祭壇に近づいてきて何が置いてあるのかを確認する。
祭壇の上には先程紫音から預かって置かれたムラクモブレードと、もう一つは女神の宝玉らしきものに、土星のような円盤がついおりその円盤に勾玉の八つ付いたモノが置かれていた。
「これは勾玉…? そうか! 神話通りならそうだよね!」
アキは勾玉を見ると突然そう声を出した。
紫音達はアキのその声を聞いて、驚いて近寄ってくる。
「アキちゃん、どうしたの?」
紫音がアキに声を出した理由を尋ねると、彼女は逆に紫音にこのような問題を出してくる。
「紫音ちゃん。この剣と勾玉を見て何か思い出さない?」
「えーと…」
紫音が確かにどこかで見たことがあると、記憶を遡っていると、アキがその彼女の答えを待たずに、フィオナを問い質す。
「フィオナ様! もう一つ女神様から、【女神武器】が送られて来てなかったですか?! 鏡みたいなやつが!」
「えっ!? 無かったと思うわよ~、アキ…」
フィオナはアキの勢いに少したじろぎながらそう答える。
そのフィオナの自信がなそうな答えを聞いたアキは、フィオナにこう指示を出す。
「本当ですか!? もう一度、神託の間に確認しに行ってきてください! 急いで! ダッシュで!」
「はっ、はい~」
フィオナはアキの圧力に負けて、慌てて神託の間に確認に向かう。
聖女様にあんな命令を出せるのは、アキちゃんぐらいだなと紫音は思った。
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