246話 悪魔と天使
アリシアは帰ってきた紫音の様子を見て、何か一皮むけた感じの印象を受ける。
(シオン様の雰囲気が変わった感じがします。まるで、一皮むけたような……。はっ! ま…まさか、アキさんと何かあったのでは!?)
アリシアがシオン達を観察していると、百合特有の勘が働いてある事に気付く。
(心做しか最後に御二人に会った時より、御二人の仲が良くなっていると言うか、距離が縮まっている気がします。ま、まさか一晩を共にしたのですか!?)
だが、彼女の百合特有の勘は少々ポンコツ気味なので、誤った答えを導き出した。
そのためアリシアは、紫音にそれとなく探りを入れてみる。
「あの~、シオン様。その~、アキさんと何かありました?」
だが、その探りはどストレートであった。
「どうして、そう思うの?」
紫音の質問にアリシアは、このように答える。
「えっ!? あの…この前お会いした時よりも、御二人の仲が良くなっているような気がしまして…」
(たしかに、あの一件依頼アキちゃんとの仲が、さらに良くなった気がする。とはいえ、説明すると長くなるから、このまま玄関ではできないけど…)
「まあ、今回は色々あったからね…。また後で話すね」
紫音がそう言って、部屋に戻ろうとすると、アリシアがこう詰め寄ってくる。
「なんですか、その意味ありげな言い方は? 色々ってなんですか?! ここでは話せない内容ですか?! やっぱり、一緒に一晩を過ごしたのですか?!」
(なるほど…。アリシア様は私と紫音ちゃんが、ガチ百合したと誤解しているのか…)
鋭敏なアキはすぐさま状況を理解すると、二人の会話を黙って聞いていた。
その彼女の暴走気味の発言を聞いた紫音が、すぐさま突っ込む。
「アリシア、何を言い出しているの!? そんなことあるわけないよ?! アキちゃんからも、アリシアに何とか言ってあげてよ」
紫音にそう話を振られたアキは、面倒くさいことに巻き込まれたと思いながら、暴走する百合王妹様の誤解を解こうとする。
「アリシア様、私と紫音ちゃんは…」
アキが誤解を説くための説明を始めた時、彼女のその明敏な腐女子頭脳に(BLの)悪魔が囁きかける。
悪魔「この三角関係の修羅場…、新作で使えるぜ~」
だが、すぐさま天使が現れ反対する。
天使「そんな事はダメです。早く誤解を解くべきです」
悪魔「頭の中でTS化しながら、うまく回せば三角関係のいいネタができるぞ~」
天使「自分の利の為に、そのようなことをするのはいけません」
悪魔「この先で描くことになるクオン、アリーシス、アキトの三角関係のリアルな描写ができるぞ~」
天使「どうせ、最後は仲良く三人でとなるのですから、前置きでそのようなリアルな描写など必要ですか?」
悪魔「おい天使、さっきからガタガタうるせーんだよ! BLはそこに至る物語も大事なんだよ! それを今から教えてやるよ!」
天使「なっ、何をするのですか?」
悪魔♂「その澄ました顔、いつまで持つかな…」
天使♂「やっ、やめろ…」
悪魔♂「口では嫌がっていても、オマエの天使の輪は正直だな!」
悪魔は天使の輪を、その太くて逞しい腕で何度も激しく攻め立てる。
天使♂「うう…」
アキの脳内悪魔×天使はもちろん美少年だったので、最後はこうなって攻めの悪魔が勝ってしまう。脳内で悪魔が勝ったアキは、嘘をつかないで、言い方だけでアリシアを煽り始める。
「(同じ家で)一緒に過ごしましたよ、一晩ね…」
「言い方! ちゃんと”同じ家”って単語をつけてよ!」
紫音はすぐさまツッコミながら訂正する。
その言葉を聞いたアリシアは、アキに対抗するためにあの夜のことを話し出す。
「わっ、わたくしだってシオン様と<同じベッド>で、一晩過ごしましたから!」
「本当に同じベッドで寝ただけだよね?! アレは添い寝だからね!」
紫音は、これは本当のことなので補足だけする。
「アリシア(アリーシス)様には悪いけど、私だって紫音(クオン)ちゃんと(小さい頃)一緒に<何度>もベッドを共にしたけどね」
「小さい頃のお泊りだよね?! ソレも添い寝だよね!? 言葉はちゃんと使おうよ!」
懐かしい思い出を話し方で誤解を招くアキに対して、紫音は必死に補足説明をする。
「というわけで、クオンは俺のものだぜ。アリ―シス!」
アキは興奮のあまりついその名を出してしまった。
「やっぱり、クオンシリーズのネタの為か!」
紫音はアキがアリシアを煽る理由が、予想通りだったのでそうツッコミを入れる。
「クオン? アリ―シス? 誰のことですか?」
「アリシアは知らなくていいことだよ!」
アリシアの聞き覚えのない名前への質問に、紫音はそう答えたがその答えは悪手であった。
「わたくしが知らなくていいとは、どういうことですか?! わたくしを仲間外れしないでください!」
当然彼女からはこう返ってくる。
アリシアは自分だけ仲間外れされた気がして、悔しそうな顔で紫音に抗議すると、アキが悪い笑顔でするりと近づく。
そして、アリシアにクオンシリーズ最新作第二話「強引な王子様はベッドでも強引!?」の表紙原稿を渡した。
「だめだよ、アリシア! それを見ては!」
「はわわわ… あわわわ…」
だが、紫音の制止は間に合わずに、アリシアは自分をモデルにしたであろう半裸の王子様が、紫音をモデルにしたポニーテールの同じく半裸の少年と、絡み合っている表紙を見て耳まで真赤にしてしまう。
紫音はその原稿をアリシアから奪い取ると、アキがこのような事を言ってきた。
「紫音ちゃん、あんまり手荒にしないでね。それ、今からカリナさんに入稿しなくてはならないんだから」
「だったら、アリシアに見せないでよ!」
紫音のツッコミにアキが反論する。
「だって、本人が知りたいって言ったから…」
もちろんあわよくば同士にという確信犯である。
紫音はまだ「はわわわ」言って、顔を真赤にしているアリシアをソファーに座らせて、落ち着かせると、今回の試練の事と一応クオンシリーズのことを説明することにした。
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尺が余ったのでミステリー(?)小説『名探偵リズン』をお送りします。
私の名は横溝リズン、女子中学生探偵ッス、所謂JC探偵ッス。
今日は世話になっているアフラお姉さんとソフィー姉さんと共に、売れっ子BL漫画家の別荘に招待されたッス。
別荘に到着したその夜パーティーが行われ、何事もなく一日が過ぎたと思われた次の日、事件は起きたッス。
なんと、この別荘の主であるBL漫画家アキさんが何者かに殺されたッス。
しかも、事件現場は密室。
果たして犯人は誰なのか?!
『BL漫画家別荘殺人事件(前編)』
茶色のコートを身に着けたミレーヌ警部の指揮のもと、事件現場の検証が行われている。
彼女に部下のクリス刑事が事件現場の情報を伝える。
内容は次のようなもので、被害者はBL漫画家のアキ・ヤマカワで、死亡時刻は昨日の午後10時から0時まで、死因は頭部を強打したため。
事件現場は密室だったようなので、足を滑らせてころんだ所、運悪くこの硬い机の角に頭をぶつけてしまった不幸な事故ではないかと思われた。
だが、アキが書いたと思われる床に血で『ア』と書かれたダイイングメッセージが、発見されたために密室殺人となった。
「それで、第一発見者がまた君達で、君がキックで扉をこじ開けたと…」
ミレーヌが少し怪訝そうな目でリズ一行を見ながらそう言った。
「奇遇だねー、警部殿!」
「刑事姿のお姉さまも素敵です~」
ソフィーさんは設定を守れッス! リズンはそう思いながら、現場を観察していると扉の下の部分に糸で擦れた痕と鍵の部分に少しセロテープを貼った痕が残っていた。
「なるほど…。密室トリックはこれッスか…」
リズンが扉の前で、密室トリックを看破する。
そして、推理を続けていると、全身に電流が走ったような感覚に襲われ犯人を導き出す。
「犯人が解ったッス! 犯人はあの人ッス!」
リズンは呑気にベッドに座っているアフラの後ろに回り込む。
「この吹き矢型麻酔針で、アフラさんを寝かせて… フッ!」
吹き矢から飛ばされた麻酔針は、見事アフラの首筋にプスッと刺さる。
「はう~、急に眠くなってきたよ…。おやすみ~ スースー」
すると、アフラは座ったまま器用に眠ってしまう。
器用なリズンはアフラの声真似で、ミレーヌ警部に指示を出す。
「警部殿。犯人が解ったよー。今すぐ容疑者をこの部屋に集めて欲しいッス」
「おお、本当かねアフラ君! クリス君、今すぐ容疑者をこの部屋に集めてくれ」
「はい!」
クリスは、ミレーヌ警部の指示を受け容疑者を集めに行く。
ミレーヌ警部がアフラの指示に従ったのは、彼女がこの寝たままの姿で事件を解決してきた『おやすみアフラ』と異名を持つ名探偵(設定)であったためである。
部屋に容疑者の紫音、アリシア、レイチェル、恐らく頭数要員のカシ―ドとノエミがクリス刑事によって集められた。
次回『BL漫画家別荘殺人事件(中編)』に続く
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