242話 夢オチ!?




 前回のあらすじ

 満身創痍のアキを抱きしめながら、紫音は彼女と一緒に西の空に沈む真っ赤な夕陽を見ている。


「美しい夕陽だね…」


 アキは憑き物が取れたような晴れやかな顔をしている。

 紫音は、命が消えゆく親友を抱きしめ、涙をこらえながら言葉を返す。


「うん…。すごく綺麗だね…」


 アキは彼女の返事を聞くと、夕日と紫音に向かってこう叫ぶ。


「ならば…!」


 二人は声を揃えて、おそらく二人で行なう最後の唱和を始める。


「流派BL不敗は、王者の風よ。全刊新作、天破侠乱。見よ、東方は赤く萌えている!!」


 唱和を終えた時、アキは既に息が絶えていた。


「アキちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 紫音は号泣し、親友の最後を悲しむ。

 荒れる波、飛び交うカモメ


 BL不敗 マスターアキア暁に死す……


 新一派

 BL不敗

 王者之風

 全刊新式

 腐女天驚

 看招!

 血染BL一片紅



 ※「流派BL不敗は、王者の風よ。全刊新作、天破侠乱。見よ、東方は赤く萌えている」

 の意味は以下のとおりです。


「この世の腐女子達は常に新しいBLに餓えている 嘆きと新作を求める声は天を破らんばかりだ 見よ、そのため東方(東京ビッグサイト)は赤く萌えているではないか 流派、BL不敗の役目は 王者の風を吹かせ新作を発表しそれを鎮めることなのだ」

                     (※「流派BL不敗格言」より抜粋)


 ###


「ちょっと、こんなシーン前回のどこにあったのよ!? 何を懲りずに又あらすじ詐欺をやっているのよ!? またあの茶番の記者会見をやりたいの!? 今度はミリアに『このシーンはありますぅ』って言わせるつもり!?」


 突然現れたソフィーが、何話か振りのツッコミでテンションを上げながらそう突っ込むと、更に紫音の両肩を掴んで体を揺さぶりながら説教を始める。


「いい加減にしなさいよ! ああいう茶番は、一回目だから大目に見て貰えるんだから! もしかして、何話にも渡って親友同士の戦いをしておいて、最後はコメディ特有の茶番オチにして有耶無耶にするつもりなの!?」


「そういうわけじゃ~」


 紫音は体を揺らされながら反論しようとするが、久しぶりのツッコミでヒートアップしたソフィーはさらに紫音の体を揺らしながら、数話ぶりとは思えない見事なツッコミを続ける。


「わかったわよ!! 夢オチね!? 便利な夢オチにするつもりなんでしょう!? というかアナタ、なんでそんな可愛い猫耳メイド姿なのよ!? ホントいい加減にしなさいよ(歓喜)」


 ソフィーは黒猫耳メイドシオニャの可愛さに興奮して、更に激しくシオニャの体を揺らしてしまう。


「やめて、ソフィーちゃん! 飲んだ薬品がリバースしちゃう! また、マーライオンになっちゃう~」


 #####


「紫音ちゃん! 紫音ちゃん!」


 紫音がアキの呼びかけで意識を取り戻すと、彼女は変な夢から開放される。

 そして、夢とは逆で紫音はアキの膝枕の上にいた。


「アキちゃん…」

「目を覚まして良かったよ…。急に気を失ったから、びっくりしたよ…」


 そう言って、心配そうに自分を見るアキは、昨日までの優しい幼馴染の顔だった。


(そうか…。さっきまでの一連の出来事は、全部夢だったんだ…。夢の中のソフィーちゃんの言う通り、夢オチだったんだ…。だって、アキちゃんに刺されたはずのお腹も痛くないし……)


 紫音はアキに刺された場所を手で押さえた後に、目視で確認するとメイド服には刺された後も血の跡も痛みもない。


(メイド服には刺された後はないね…。やっぱり、夢だった……)


「メイド服!!!?」


 紫音は、自分の着用している黒猫メイド服(もちろん頭には猫耳カチューシャ)に驚愕して起き上がると、急に大声を出して起き上がった幼馴染に驚くアキに尋ねる。


「アキちゃん! 私どうしてメイド服を?! 今までのことは、便利な夢オチではなかったの?!」


「夢オチ…?」


 紫音は、混乱する頭でアキにしどろもどろながら今迄の出来事を話して、夢だったのかどうかを尋ねると彼女は今回の出来事の説明を始める。


 まず、今回の事の始まりは、アキがアルトンの街の教会に滞在しているフィオナに会いに行った日に遡る。その日アキが教会に向かうと、フィオナとナタリーが神妙な面持ちで彼女を待っていた。


「アキ…。今朝、神託がありまして…。女神様がアナタに直接神託を与えたいそうなのです」

「私に…ですか?」

「はい。なので、私に付いてきてください。神託の間に案内します」


 神託の間は、その名の通り女神からの神託を受ける場所で、王都の大教会か次に大きいこのアルトンの教会にだけ作られており、この部屋に入れるのは総主教だけである。


 歴史上、総主教以外に入室を許されたのは、アキと同じく信託によって選ばれたセシリア・アースライトだけであり、彼女はここで受けた神託に導かれて、天音と出会い魔王討伐をおこなうことになる。


 そのため、フィオナはアキも危険な魔王討伐の神託を受けるのではないかと、心の中で心配していた。神託の間は、教会の内陣の裏にある地下に向かう階段を降りた先にある。


「神託の間はここよ…。私はここで待っているわね」


 その階段を降りて神託の間の扉の前に立つと、フィオナは心配そうな顔のままアキにそう話しかけると、彼女は頷いて一人部屋の中に入る。


 部屋の中に入ると、中は六畳一間ぐらいの広さで奥の壁際に小型の女神像と台が置いてあった。暫くアキが部屋でぼーっと待っていると、その小型の女神像が輝きだして、フェミニースの声が聞こえてくる。


「アキ…、アキ…聞こえますか? フェミニースです」

「フェミニース様! お久しぶりです」

「久しぶりですね、アキ。三年ぶりでしょうか? 元気でしたか?」


 アキは、フェミニースに挨拶と近況報告をおこなうと、自分をここに呼んだ理由を尋ねた。


「はい、お陰さまで。ところで、私にお話とは何でしょうか?」

「それはですね…」


 フェミニースはそこまで口にすると、アキの前に瞬間移動であらわれる。

 もちろん彼女の側には、ミトゥースが当然とばかりに立っていた。


(この人はいつ元の世界の管理をしているのだろう?)


 アキがそう思っていると、フェミニースが口を開く。


「ここからは直接話をしたほうがいいでしょう。その前に…」


 フェミニースは、後ろに控えているミトゥースの方に振り向くと、勝手についてきた彼女を窘める。


「ミトゥース。アナタはこんなところに居ずに、早く任せてある紫音の新しい女神武器を作りなさい」


「あぅ…、そんなお姉様…冷たい…。でも、そんなクールなお姉様も素敵ですぅ~」


 彼女は敬愛する上司の注意を受けるが、彼女にとってそれは<愛の鞭>つまり<ご褒美>なので幸せそうだ。


「じゃあね、アキ」


 ミトゥースはアキに<さよなら>と手を振りながら、そう言うと瞬間移動で天界に帰っていった。


(なんか既視感があると思ったら、クリスさんとソフィーちゃんの関係に似ているんだ…。まあ、ミトゥース様に比べてソフィーちゃんは、もっとチョロイけど…)


 アキは二人のやり取りを見て心の中でこう思っていた。


「くしゅん」


 その頃ソフィーはお約束のようにくしゃみをする。


「風邪かしら…? 違うわ! これは、きっとお姉さまが私のことを<頼れるソフィーがいなくて寂しいわ>って、言っているに違いないわ!」


 ―と、これまたお約束の頭お花畑発言をしていた。

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