241話 おろち撃破!
前回のあらすじ
『女神のお気に入り猫耳メイド少女、異世界でご奉仕する!』と、するためにアキは<やおいのおろち>に紫音への攻撃命令を出す。
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人は交通事故などの危機に陥った時に、全てがスローモーションに感じる『タキサイキア現象』というものが起きるという。迫りくる<やおいのおろち>の尻尾を見ながら、紫音は今まさに全てがスローモーションに感じていた。
そして、全てが遅くなった世界で紫音の耳にマオのアドバイスが聞こえてくる。
<シオン…、思い出すのだ…! 【瞑想】で到達した【無念無想】の心を…、そこから到達する【無我の境地】を…、そこで感じた己の中にある【チャクラ】を…!>
(【瞑想】…【無念無想】…【無我の境地】…【チャクラ】…)
紫音が頭の中でその言葉を反復させると、その後にアキの言葉が聞こえてくる。
「紫音ちゃん、心安らかに死んでね! そして、私の可愛い― 」
アキがその後に、何か言っていたようだが、紫音には聞こえてこなかった。
(【死ぬ】…私が…死ぬ…? そうか…私…死んでしまうんだ)
すべてが静止したような世界の中で、紫音が自分の死を受け入れた時、静止した世界から音が消え、心が穏やかになり、そして無へと至る。すると、自分の体の中に、何か強く暖かいものを感じ、その暖かいものから体全体に同じく暖かいものが流れているのを感じる。
そうか…、これが【チャクラ】…、体を流れているのが【オーラ】…、これを開いて回せばいいのか…
紫音が【チャクラ】開いて回すイメージをすると、【チャクラ】は車輪のようにゆっくりと回り始め、【チャクラ】からオーラが溢れ出て体中を駆け巡るのを感じる。
さらに【チャクラ】を意識していると、【チャクラ】を通して自然界に存在するオーラを感じることができ、すると【チャクラ】がその自然界のオーラを取り込み始める。
体の中に、オーラが溢れてくる…
紫音は、いつの間にか閉じていた目をゆっくり開けると、世界はスローモーションのままで、目の前に<やおいのおろち>の尻尾がすぐそこまで接近してきていたが、心は穏やかなままであった。
紫音はバックステップで、軽やかに尻尾の攻撃を回避して、着地すると折れた打刀にオーラを送り込んでいく。
【チャクラ】を活性化させた紫音は、【女神の秘眼】発動時よりオーラの流れを感じることができ、更にオーラを自分のイメージ通りに操ることができるようになったために、瞬く間に今までできなかった刃長3メートルのオーラの大太刀を完成させる。
「遂に…【無念無想】に辿り着いて…、【チャクラ】を開放することができたのだな…。良くやったぞ…」
紫音の今迄とは違う雰囲気と完成させたオーラの大太刀を見たマオは、まだ地面にうつ伏せで倒れたままだが、【無念無想】を会得した紫音に賛辞を述べる。その紫音を、一番近くで長く見てきたアキは、遠くからでも親友の変化にいち早く気付きこう呟いた。
「紫音ちゃん…遂に【無念無想】を会得したんだね…」
「いくよ…、アキちゃん」
そう言った紫音の心には、もはやアキへの怒りは消えているが、彼女の野望を止めるためには、<やおいのおろち>を斃さねばならない。
刃長3メートルのオーラの大太刀を脇構えに構えると、紫音は女神武器の特殊能力を発動させる。
(残り発動時間5分かな……)
紫音が残り時間を確認していると、そこに<やおいのおろち>の尻尾が襲いかかる。だが、特殊能力発動で身体能力を強化した紫音に回避され、空を切ったおろちの尻尾は地面を虚しく叩きつける。
そして、おろちが地面から尻尾をゆっくり引き上げようとすると、紫音はすぐさま脇構えのまま高速移動して間合いを詰めるとその尻尾に跳躍して、オーラの大太刀で横一文字に斬りつけその尻尾を切断した。
紫音が地面に着地すると、そこに次の尻尾が振り下ろされるが、彼女はそれをサイドステップで躱す。そして、またすかさず間合いを詰めると、その尻尾にオーラの大太刀を振り下ろして切断する。
オーラの大太刀は、<やおいのおろち>の尻尾を包丁でタコの足でも切るように、次々と本体から切り落としていき、残りの尻尾の数は3つとなった。
アキはすぐに<やおいのおろち>に海老反りを止めさせて、元の体勢に戻すと尻尾攻撃の間に再生させた7つの頭で攻撃をおこなわせる。
だが、紫音は焦る様子もなく頭上から襲ってくるおろちの頭攻撃を前進して回避すると、頭で攻撃するために伸ばしたおろちの首の下に潜り込む。
すると、他の頭達はその首が邪魔で紫音に追撃できず、彼女はオーラの大太刀で頭上の首に斬撃を加え切り落とすと、すぐに横に逃げて頭を失って倒れてくる首を回避して、次の頭の攻撃に備える。
紫音がその方法で首を残り4本まで切り落とすと、アキは地面を這うように首を移動させて攻撃させるが、紫音は自分に向かってくる首の突進を今度は上にジャンプして回避する。
そして、足下を通り過ぎていく首に着地するとすぐに横に飛び降りて、落下しながらその首に唐竹割りを叩き込んで5つ目を切断する。
6つ目の首が横から突進してきたのをバックステップで回避すると、至近で回避したためにまるで通過する電車が通り抜ける時のような突風に襲われ一瞬体制を崩す。
だが、すぐに体勢と呼吸を整えると、目の前を通り抜けるおろちの首に袈裟斬りでオーラの大太刀を素早く振り下ろし、見事に6つ目の頭を切り落とした。
頭を失った6つ目の首は、地面に落下して地面を抉りながらやがて動きを止める。
紫音は動きを止めた眼の前の首にジャンプして飛び乗ると、胴体目指して首の上を高速で走り出す。
身体を強化されて残像を残しながら高速移動する紫音に、<やおいのおろち>の攻撃は最早当たらず彼女は首の根元まで登り詰めると、残っている頭の首の根元まで跳躍して移動すると、残った頭を首の根本から斬って落とす。
「これで最後!」
そして、紫音は残った最後の頭の首元まで移動すると、その首元に横一文字に斬撃を浴びせて、最後の首を切り落とした。
紫音は残る力を振り絞って、高く跳躍すると空中で上段に構え直して、残りのオーラをすべてオーラの大太刀に送り込み、刃長をできるだけ伸ばし強度も上げる。
「終わらせるよ、アキちゃん…」
穏やかな口調で、こう呟き4本目と5本目の首の間に、オーラの大太刀で斬撃を加えながら落下していく。
紫音が地面に着地した時、<やおいのおろち>は4本目と5本目の首の間から彼女の斬撃で真っ二つになり、2つになった胴体は左右に別れてそれぞれ地面に崩れながら倒れていく。
<やおいのおろち>の残骸は轟音と地響き、砂煙をあげながら地面に次々と落下し、紫音はその土煙の中をアキの元に向かって歩き出す。
紫音は城壁の下に降りてきたアキの前に立つと、彼女を暫く見つめた後に彼女の名前を呼ぶ。
「アキちゃん…」
「紫音ちゃん…」
アキも紫音の名前だけを言葉にすると、あとは沈黙する。
紫音は武器を握ったままアキに向かって、走り出すと途中で折れた打刀を投げ捨てて目の前の親友に抱きつく。
勢いよく抱きつかれたアキは、支えきれずに後ろに倒れ込むと紫音はアキに抱きついたまま、泣きながら自分の気持ちを彼女にぶつける。
「やっぱり、私にはアキちゃんを攻撃するなんてできないよ…。アキちゃん…、あんな変な野望は捨てて戻ってきてよ!」
アキは泣きながら、元に戻るように懇願する幼馴染の後頭部を左手で優しく撫でながら、彼女にこのような事を話す。
「紫音ちゃん……。紫音ちゃんは、相変わらず優しくていい子で…、そして、甘いね…」
アキがそう言った瞬間紫音の腹部に衝撃を感じる。
「っ…!?」
紫音は衝撃を受けた腹部を見ると、そこにはアキの右手に握られた女神武器の脇差が、自分の腹部に当たっているのが見える。
「アキ…ちゃん…?」
紫音は何が起きたか理解できずに、アキの名前を呼ぶと喉から血が込み上げ吐血すると、そのまま意識を失ってしまう。
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