235話 裏切りの腐女子少女?!




 前回のあらすじ

 修業が順調に進んでいた紫音が、その夜アキの淹れてくれたコーヒーを飲んでいたら急に眠くなってしまった。


 #####


 翌日、紫音が目を覚ますと、天井の風景は見知らぬものであった。


「ここは…? 私は確か…夕食後にコーヒーを飲んでいて…それから…」


 紫音は体を起こして辺りを見渡すと、家具はベッドと机と椅子だけで、あとはトイレらしきものと洗面台だけであった。窓には鉄格子が付いており、扉も頑丈そうな金属製でまるで牢屋のようである。


「どういうこと?! 私捕まったの!?」


 ベッドから飛び起きると紫音は扉まで駆け足で向かう。そして、扉を叩きながら大声を出して外に助けを呼びはじめる。


「だれかーー! だれかーー! 助けてくださ~い!! ヘルプ! ヘルプミ~!!」


 暫く救助を求めたが、助けは来なかった。


「捕まっているんだから、助けなんて呼んでも来るわけがないか…」


 紫音は大声を出している内に、冷静さを取り戻すとこう一人自笑気味に呟く。すると、取り敢えず顔でも洗って頭を冷やそうと洗面所に向かう。


 ベッドの近くに置いてあったタオルを持つと、紫音は洗面所に向かい顔に水を数回掛けて、タオルで顔を拭いて洗面所の壁に備え付けている鏡で自分の姿を見る。


 するとそこには、黒猫耳カチューシャをつけた自分の姿が写っていた。


「!?」


 紫音は、確認するように頭を触るとそこには猫耳がちゃんと存在する。

 そして、自分の服を改めて見てみると、予想通りに黒猫しっぽのついたメイド服であった。


「何じゃ、こりゃあ!? いくらパニックになっていたとはいえ、どうして今まで気づかなかったの!!」


 と、紫音が自分自身にツッコミを入れた時に、扉の外から声が聞こえてくる。


「フフフ…。どうやら、目が覚めたみたいだね。シオニャン…じゃなかった、紫音ちゃん」

「その声はアキちゃん!?」


 紫音は急いで扉に近付くと、扉越しにアキに話し仕掛けた。


「アキちゃん! これはどういうことなの!?」


 紫音がアキにこの状況を尋ねると、彼女は扉に取り付けてある細長い覗き窓を開けて、猫耳メイド紫音を見ながらこのように答える。


「メイド服のことかな? それなら紫音ちゃんがコーヒーを飲みながら、寝ちゃったからその時に溢れたコーヒーで服が汚れてしまったんだよ。だから、それで着替えさせてあげたんだよ。決して、趣味で着せた訳ではないんだよ! 不可抗力なんだよ!」


 紫音は、何故閉じ込められているのか聞きたかったが、メイド服の事も気になっていたので、まずはメイド服の疑問から解決することにした。


「それなら、猫耳カチューシャは必要ないよね!?」


 そして、すかさずカチューシャの事を突っ込むと、アキは冷静に反論する。


「それは、ネコしっぽ付きメイド服なのだから、猫耳もつけていないとむしろおかしく見えるからだよ!」


(確かに、尻尾だけだと逆に変かも…)


 紫音は、さっそくアキに言いくるめられそうになるが、こう突っ込む。


「そもそも、メイド服じゃなくてもいいよね!?」


 覗き窓から見えるアキは、痛いところを突かれたという表情をしていた。

 そして、紫音は核心に迫る質問をする。


「どうして私をこんな牢屋みたいな部屋に閉じ込めているの!?」


 すると、アキはこのような衝撃的な内容を答える。


「それはね……、紫音ちゃん…。私はね、魔王側について魔王の世界征服を手伝うことにしたからだよ! そのためには、今の紫音ちゃんの戦闘力は邪魔なのよ!」


「!!?」


 紫音が、アキからの予想もしなかった返答に驚いて言葉を失っていると、アキはそんな紫音を尻目に話を続けた。


「だから、紫音ちゃん。ここで魔王が世界を征服するまで、大人しくしていてね。これはね、私の紫音ちゃんへの温情だよ? 魔王は紫音ちゃんを不意打ちで殺して、戦闘力を落とせって言ってきたけど、ここで監禁するだけにしてあげるのだから」


 アキはそう言うと、覗き窓を閉めて下につけられている大きめの穴から、携行食を投げ入れると、牢屋の前から立ち去ろうとする。


「待ってよ、アキちゃん! こんな冗談やめてよ! ここから出してよ!!」


 紫音は扉に体当たりをしながら、アキに懇願するが彼女からの返事はとても冷たいものであった。


「その扉は、今の紫音ちゃんの力では壊せないから、止めたほうがいいよ?」

 そう言って、アキは今度こそ牢屋の前から立ち去ってしまった。


「アキちゃん……、どうして……」


 紫音は、親友の裏切りというこの信じられない現実に気力を失い、膝を抱えて扉の前に座り込むと額を膝に付けてアキとの楽しかった思い出を思い返していた。


「シオン様! アナタのアリシア・アースライト、只今参上致しました!」


 その頃、ミレーヌの屋敷ではアリシアが玄関でそう名乗りを上げると、それを聞きつけたリズ達が玄関に集まって来る。


 アリシアは集まってきた皆の中に、肝心の紫音がいないことに気付いて、エレナに紫音がいないことを尋ねた。


 すると、エレナからこのような答えが返ってくる。


「シオンさんなら、五日前にアキさんと一緒に修業をすると行って、彼女の屋敷に向かいました。オーガが侵攻してくる前には、帰るって言っていました」


「そんな……」


 エレナのその返事を聞いたアリシアは、がっくりと肩を落とすほど落胆している。


「ところで、アリシア様。本日はどのような用件でおいでになったッスか?」


 リズが落ち込むアリシアにそう尋ねると、彼女はこう答える。


「わたくしこの度【冒険者育成高等学校】を卒業いたしました。それで、念願のシオン様とのパーティーを組む約束を果たしに来たのです!」


「【冒険者育成高等学校】の卒業まで、あと半年ありますよ?」


 ソフィーの質問にアリシアはこう答えた。


「わたくしは成績が優秀ということで、短縮卒業することが許されたのです」


【冒険者育成高等学校】の目的は、慢性的に人材不足な戦場に優秀な冒険者を育成して、送リ込む事を目的としている。そのため優秀で実戦で通用すると判断されれば、課程を短縮させて卒業させ即戦力として送り込む。


 因みにクリスは優秀であっために、一年で短縮卒業している。


「それは凄いッス」


 リズを含めて一同がアリシアの優秀さに感服していると、そのアリシアは残念そうにこのように呟く。


「せっかく、シオン様にサプライズで驚かせようとしたのに…」


 だが、事前に言っていたとしても、紫音は修業を優先させたので、残念ながらアリシアのサプライズは成功しなかったであろう。


 エレナが残念そうにしているアリシアに、PTへの歓迎の言葉を述べる。


「これからは、アリシア様も一緒のPTですね。よろしくお願いします」


「エレナさん、こちらこそよろしくお願いします。そして、みなさまもレイチェル共々これからよろしくお願いします」


 一同がアリシアとレイチェルのPT入りに歓迎の言葉を述べる。


 そのレイチェルは、これからは少女達の<キャッキャウフフ>が、間近で見られるという期待を胸に秘めながら、アリシアと自分の荷物をミレーヌから借り受けた部屋に運んでいた。


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