220話 オークの王撃破




 アキの伍ータムトラネコとアフラによって、オークの王カリュドーンは動きを封じられた。

 カリュドーンから少し離れたところで、魔法攻撃を見守っていたトラネコの全ての足が役目を終えたとばかりに突然折れて、四肢を失ったトラネコの胴体は地面にそのまま倒れてしまう。


 それは、トラネコの胴体である伍―タムのボディは防御重視の為にかなり重く、トラネコの細めの足パーツにはかなりの荷重が掛かっており、更に機敏な動きで負荷がかかってしまい遂に耐えきれずに折れてしまったのであった。


 それを見たカリュドーンは、最後の力を振り絞り両膝で歩いて伍ータムトラネコの持つ剣を奪いに行く。


「まだよ、まだ終わらないわ!」


 アキがそう言って、トラネコに最後の命令を与えると、剣を咥えたトラネコの頭パーツが分離して、カリュドーンから離れて行き紫音の横に不時着する。


 カリュドーンがトラネコヘッドを追いかけると、正面に立つ紫音は主人公らしい凛とした表情で左右に持った刀を平行に前に出して待ち構えて待っていた。

 紫音は女神武器の特殊能力を発動させて、既に刀にオーラを溜めており迫ってくるカリュドーンに止めの一撃を放つ。


「ハイパーオーラバスター!!」


 紫音の放った巨大なオーラは魔法攻撃で消耗して、更に膝で歩いている動きの鈍くなったカリュドーンに向かって一直線に伸びていき命中する。


「グオォォォォォォォ!!」


 ハイパーオーラバスターの直撃を受けたカリュドーンは、残った耐久値を全て削られ断末魔の声をあげながら消滅して姿を魔石に変えた。


 オーラを大量消費した紫音は、その場で膝をついてペタンと座り込む。

 そして、カリュドーンを倒した事により緊張の糸が切れた紫音は何気なく自分の姿を見てしまう。


「あっ…そうか…。女神武器折れたんだった…。それにミスリル装備もボコボコだ……。女神武器って…治るのかな…。修理費…足りないよね…」


「シオンさん…」

「シオンさん、やったッスね!」


 座り込んだままの紫音に、リズとミリアが近づいて行く。

 近づいた二人は、紫音の異変に気付いた。


「大きな光が点いたり消えたり…、ホタルかな…。違うよね、ホタルは夜に光るものね…。熱いなぁこの鎧…、誰か脱がしてくださいよー」


 紫音は、ミスリル装備の修理費と女神武器が折れてしまった事に現実逃避して、精神が崩壊したみたいになってしまった。


「シオンさん…!? シオンさんが変な事を言い出しているよ…」

「ソフィーさん! お姉ちゃん! シオンさんが…シオンさんが大変ッス!!」


 リズは慌てて姉のもとに走っていく、やはり困った時は姉に頼ってしまうようだ。


「どうしたの?! シオンさん!!」


 涙目のリズに連れてこられたリディアが、紫音に話しかけるが彼女はうつろな瞳で、「お星さま~キラキラ~」などと訳の分からない事を言っている。


 伍ータムの胴体の近くで、役目を終えたゴーレムに労いの言葉を掛けていたアキが、紫音の異変に気づき歩いてきた。


「アキお姉さん…」


 涙目のミリアが、近寄ってきたアキに気付いて紫音がおかしくなったことを話すと、彼女は親友がこうなった理由をズバリ言い当てる。


「あーそれはたぶん…。紫音ちゃんは豆腐メンタルだから、女神武器が折れたのと装備の修理費のせいで、現実逃避しているんだと思いますよ」


 アキのその話を聞いたリディアは、休憩しているユーウェインの元に向かい何かを話し合うと、紫音達の元にユーウェインを連れて戻ってきてこう紫音に話しかける。


「シオンさん。ユーウェイン隊長に話をしたら、シオンさんは我が軍に貢献してくれているから、特別に要塞の工房で修理をするように手配してくれるそうよ」


 リディアの後にユーウェインが話しかける。


「すまない、シオン君。私がもう少し君の事を気にかけておくべきだったな。駆け出しの冒険者である君に、金銭的余裕がないことは自明の理であったのに。女神武器の修理は出来ないが、装備の修理は任せてくれ」


 ユーウェインの修理請負の話を聞いて、うつろな目から元の目に戻る紫音。


「本当ですか!? 修理してくれるんですか!?」


 そして、そう言って元気が少し戻った。


「ああ、後でリディアに装備を預けてくれ。我々には、まだやらねばならない事があるからな」


 ユーウェインはそう言って、オーク本拠点の方を見る。

 オークは全て撃破したが、オーク本拠点にはまだ三義姉妹が残っていた。


 その三義姉妹はというと……


「がんばれ、がんばれアンネ!」

「う~、お薬苦いの~」


 アンネが苦い魔力回復薬を、頑張って飲むのを応援していた。


「それで、どうするのエマ姉? まだ、戦うの?」

「もう…、いいわ…。早く設備を爆破して真悠子さんや、魔王様のいる所に戻りましょう」


 クロエの質問に、紫音に情けを掛けられてすっかり気を削がれてしまったエマは、そう答えて撤収の準備を始める。


 撤退準備が済んで、グリフォンに乗り込み上空へ羽ばたかかせ距離を取ると、エマは魔王謹製の『爆発属性魔法スクロール』を起爆させる『ポチッとな、のスクロール』に魔力を込めた。


 すると、本拠点の建物に轟音と共に大爆発が起こり、建物を瓦礫とかして黒い煙が高々と上がる。


「すごーい、爆発だったね!」

「音がうるさいのー」


 クロエとアンネが感想を述べる中、エマはこう思っていた。


(これを使えば、もっと楽に戦えるのではないかしら?)


 だがその後、使わないのはおそらく女神が許さないのであろうと答えを導き出し、彼女の答えは正しかった。


 一方人間側では、突然のオーク本拠点から起きた大爆発に、大混乱が起きていた。

 何故なら、人間側には爆発魔法は存在せず、もちろん火薬も存在しない。

 自然現象で、たまに起きるが経験した者は少ない。


「落ち着け! 混乱すれば相手の思うつぼだぞ!」


 ユーウェインや各リーダー達の、号令が混乱する戦場に飛び交い、何とか部下達に冷静さを取り戻させる。


 混乱を収めることが出来たのは、三義姉妹がグリフォンに乗って、既に撤退しているのが確認されており、追撃される心配がないという安心感が大きかった。

 爆発に驚いたミリアは紫音に抱きついてきて、涙目で彼女に言ってくる。


「シオンさん~(泣)」

「おねーさんがいるから、安心だよミリアちゃん!」


 そう言いながら、抱きついてくるミリアにここぞとばかりに、頼もしいお姉さんアピールをする。


(そのお姉さんは、さっきまで情けない放心状態だったよね!)


 だが、その様子を見ていた一同は、このように心の中で突っ込んだ。

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