219話 吠えろ! ゴーレム〇〇〇〇
アキは、切り札を出すために高級魔力回復薬でMPを回復させながら、紫音とソフィーにお願いをする。
「これから、切り札を使おうと思うから、準備の間遠距離からでもいいから時間を稼いでくれないかな?」
「そうね。シオン先輩、二人で遠距離から挟んで、オーラウェイブで牽制するのもいいわね」
「そうか、その程度なら今の私でもできるよ」
紫音がそう答えると、三人の会話に“クリムゾン”団長アーネスト・スティールが入ってくる。
「その役目は私が引き受けよう。シオン君はオーラを回復させて、あの大技を奴が弱った所に叩き込んでくれ」
そして、自分がシオンの代わりに、アキの頼みを引き受けることを提案してきた。
スティールの提案を受けた紫音は、二人に陽動役を任せるとオーラ回復薬を飲んで、来るべき時に備える。
二人はカリュドーンの攻撃範囲外から挟んで配置に着くと、オーラウェイブを交互に撃って注意を引きつけた。
アキはエメトロッドに魔力を込めて、特殊能力を発動させると更に魔力を込め続けて、伍ータムに魔力を送り続ける。
すると、伍ータムの腹にあるシャッターが開いて、前回の戦いでミニゴーレム達がクロスボウを撃っていた空間が顕になり、今回そこにはゴーレム製造用魔法陣が設置されており、アキの魔力が送り込まれてゴーレムパーツが製造されていく。
製造された縞模様の付いた獣のパーツはアキの魔力でミーが飛行するのと同じ原理で、腹から次々と飛び出していく。パーツを全て作った伍ータムは腹のシャッターを閉じると、アキは新たな命令を出す。
「伍ータム、パージ! 伍ータムチェンジ!」
命令を受けた伍ータムはまず腕のパーツを肩から外し、そこに縞模様の付いた獣の前足らしきパーツが飛んできて合体する。
両腕にパーツを取り付けた伍ータムは股関節から前に倒れ、新たに付いた前足を地面につけて支えにすると、腰のあたりに後ろ足が飛んできて合体すると、元から付いていた足はパージされた。
最後に伍ータムの頭が胴体の中に下がり、そこに縞模様の付いたネコ科の頭部パーツが合体し、お尻の辺りに尻尾のパーツが合体する。
その姿を見た紫音はこう叫んだ。
「トラだ! ペリカンさんがトラになったよ!」
だが、その紫音の声を聞いたアキはすぐさま間違いを指摘する。
「違うよ、紫音ちゃん!! アレは虎ではなくてトラ猫だよ! 伍ータムトラネコだよ!」
アキの指摘の通り、伍ータムトラネコの縞模様はトラではなく模様もその色もトラネコで、何より顔は「ガオー!」より「ニャ―!」と鳴きそうな可愛いネコであった。
「ちょっと、何よあのネコは!? 私達はあんな可愛いのを作るために命がけで時間を稼いだの!?」
伍ータムトラネコ(以下トラネコ)を見たソフィーは、可愛さは認めながらそう突っ込んだ。
「いけっ! 伍ータムトラネコ!」
アキの命令を受けたトラネコは、カリュドーンを目掛けて駆け出す。
そのスピードは変形前の鈍重さは微塵もなく、まさに獲物を狙う虎のように猛スピードで駆けていく。
そして、俊敏に跳躍すると前足から魔力で精製された爪を出して、カリュドーンに飛びかかりその爪で切り裂いた。
カリュドーンが、トラネコの俊敏な攻撃に対応しきれていないのは、紫音が右膝裏に斬りつけた際に追わせた右足へのダメージからである。
ちゃんと、前回主人公らしい活躍をしていたのであった。
カリュドーンを襲うトラネコの姿は、まさしくトラネコの皮を被ったトラが狩りをするが如き姿に好意的に見ればそう見える。
―が、殆どの者にはトラ猫がじゃれついて、それで怪我している飼い主のように見えていた。
カリュドーンは機敏に動くトラネコの攻撃を盾で防ぐが、アキは更に奥の手を持っている。
アキはトラネコにカリュドーンの周囲を機敏に走らせ、隙を見てまた飛びかからせた。
カリュドーンは、今度は剣で迎撃しようとする。
「伍ータムトラネコファイアー!」
だが、トラネコはアキの命令で、口の中に仕込んであった炎属性の魔法陣から炎を吐き出した。
その炎をカリュドーンは咄嗟に盾で防いだが、トラネコはその盾の上に前足の肉球から魔力で精製したドリルを出して飛びかかり、その突進力とドリルの威力で盾を破壊しさらにカリュドーンの左手にダメージを与える。
激しく消耗するMPを回復するべく高級回復薬をがぶ飲みしながら、アキはトラネコに命令を出し続けていた。
アキはトラネコにカリュドーンの周囲を、隙を窺いながら機敏に走らせ、徐々に距離を詰めて死角から飛びかからせる。
だが、オーク王カリュドーンはなんとか反応し、飛びかかってきたトラネコの両前足の爪を残った剣で防ぐ。
トラネコは両前足を剣に乗せて伸し掛かるような体勢で迫り、カリュドーンも必死に押されないように抵抗してくる。そこで、アキはカリュドーンが後ろにひいて力をいなそうとする前に、トラネコの空いている口で剣を噛んで逃さないようにした。
「ミトゥトレット・インパクト!!」
そこにオーラステップで急加速してきたアフラが、カリュドーンの左足にミトゥトレット・インパクトを叩き込んだが、すね当てを破壊してダメージをそれなりに与えたが、動きを封じるまでには至らなかった。
「はにゃ~!! にゃ!?」
いつものようにアフラは、インパクトの衝撃で吹き飛ばされそうになるが、自慢のスピードで後ろについてきていたソフィーが、アフラの背中を支えて吹き飛ぶのを防ぐ。
「お礼はいいから、早くアイツの足を止めなさい!」
ソフィーはアフラが礼を言う前にそう言って、カリュドーンへの攻撃を優先させる。
だが、カリュドーンもこれ以上足に攻撃を受けたら、動けなくなるのは解っていたので、アフラ迎撃を優先させトラネコに噛まれている剣を放棄して、空いた右手で彼女に攻撃を行なう。
しかし、その判断は間違いでありカリュドーンは丸腰になったところをリズやリディア達弓使いの遠距離攻撃を受けて、その攻撃を防ぐために結局その右腕と傷ついた左腕で防がねばならなくなり、アフラへの攻撃を中断せねばならなくなる。
そして、そこをアフラが能天気なのか豪胆なのかわからないが、勇敢に突っ込んできてカリュドーンの左足に再びミトゥトレット・インパクトを叩き込み、今度こそ左足を潰すことに成功した。
「グォォォォ!!」
左足を失ったカリュドーンはその場に左膝をつき、遂にその動きを止める。
そして、そこに待ちかねていた魔法使い達が魔法を撃ち込んでいく。
「グォォォォ!!」
魔法の一斉攻撃を受けて、再び叫び声を上げるカリュドーンを見ながら、ソフィーは転がっていたアフラを引き起こし、肩を貸すと後方へと連れて行く。
その道中ソフィーはこう呟いた。
「あとはシオン先輩に任せておけば大丈夫でしょう」
「ソフィーちゃんって、何だかんだ言ってシオンさんの事を信頼しているんだねー」
アフラが何気なしにそう言う。
「なっ、何を言っているのよ!? いくらボケボケのあの駄目なお姉さんでも、ここまでお膳立てが整えばやれるって思っただけよ!」
すると、ソフィーはそう言って、安心のツンデレ返しをするのであった。
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