176話 使命と友情と
紫音達と別れたクロエ達が、買い出しを頼まれていた栄養ドリンクを市場にある薬局で購入し、隠れ家に戻ると二人の帰りが遅い事を心配していたエマがその理由を尋ねてくる。
「二人共来たばかりで、街の地理に疎いから迷子になって、帰ってこられないのかと思って心配したわ。連絡もしてこないし……」
「アンネが迷子になったんだよ」
「ちがうの~、クロエお姉ちゃんが迷子になったの~!」
二人は街であったことをエマに説明した。
「そのお姉さん達が、アンネを一緒に探してくれたんだ。それでね、冒険者をしている同い年のリズちゃんとミリアちゃんと友達になったんだー」
「アンネのお友達にもなってくれたの~」
「栞の番号も交換したんだー。それで今度また遊ぶ約束を……」
エマは二人が新しい友達が出来て、その事を嬉しそうに話すのを聞いていたが、曇った表情と少し低い声で彼女達の話を途中で遮ってこう尋ねる。
「あなた達…、友達をつくるのは構わないけど…、その子達と戦場で出会った時に戦えるの?」
エマのこの質問にクロエはハッとなって、返答に困ってしまう。
「それは……」
勿論、クロエには友達になったリズやミリアと、命を懸けて戦うことは出来ない。
彼女は、自分が戦うかもしれないリズ達と迂闊に仲良くなってしまった事の問題に、今更になって気付いた。
すると、アンネが臆面もなくこう言い切る。
「わたしは~、お姉ちゃんたちとは戦わないよ~。だって、お友達だもん~」
「アンネ!? そんなことを……」
彼女のその素直な答えに、クロエは驚いた。
二人がアンネの答えに困っていると、部屋に閉じこもってBL漫画のストーリーとネームを考えていたリーベが部屋から出て来てこう言ってくる。
「別に無理に戦わなくてもいいんじゃない。私達の目的は、人間の殲滅ではないわ。戦力を減らして、私達と要塞で一進一退させることなんだから。現に今までだって、見逃してきた人間も多いしね。魔王様もきっと戦わなくていいって言うわ」
「わ~い、マユコお姉さん、大好きなの~」
そのリーベの意見を聞いたアンネは、そう言いながらリーベに抱きつく。
「本当にいいの? よかった~」
クロエの表情が、苦悩から安堵の表情に変わる。
リーベは抱きついているアンネの頭を優しく撫でると、買い物袋から栄養ドリンクを2本取り出し、一本をこの場で飲み干しもう一本を手に持って部屋に戻っていった。
エマはリーベを追いかけて部屋に入ると、作業机の椅子に座ろうとしていた彼女に質問する。
「あんな事を言って、本当にいいんですか? クロエ達と仲良くなったのは、おそらくシオン・アマカワ一行ですよ?」
彼女の質問にリーベは、椅子に座って足を組みながらこう答えた。
「恐らくね……。でも、仲良くなってしまったのだから、もうしょうがないでしょう? それに、あの子達が出来なければ、私と魔王様か魔物ですればいいだけのことよ。とは言っても、あの子達の手前もあるし、別に命を取る必要もないわ。戦闘力を奪うだけにしないとね……。まあ、今の天河紫音相手に戦闘力だけを奪うなんて、できないでしょうけどね……」
リーベの話を聞いたエマは、決意に満ちた表情で彼女にこう宣言する。
「私がシオン・アマカワを倒してみせます! この命にかけても……」
そのエマの宣言を聞いたリーベは、椅子から立ち上がり近づく。
「バカね…、アナタにそんな事をさせるわけにはいかないわ」
そして、そこまで言うとリーベは窓の方を見つめてこう言った。
「あの子は…、天河紫音は…、私が…」
こうして、リーベは打倒紫音を決意するが……
その日の夕方頃、王都に召喚命令を受けたユーウェインは、ようやく王都フェミースに到着していた。
彼はその足で王都にある騎士団の施設に向かうと、そこで彼の到着を待っていた騎士団長ハロルド・ウォルターズと騎士団長室で面会する。
ユーウェインは敬礼を終えた後、ウォルターズに再会の挨拶をおこなう。
「お久しぶりです、ウォルターズ団長」
「久しいな、カムラード。よく来てくれた」
挨拶のやり取りの後に握手をすると、ウォルターズは彼に椅子に座るように促す。
椅子に座ったユーウェインは、さっそく彼に今回の召喚命令の事で何か知っていないかを尋ねる。
「今回の君への召喚命令は、トロール本拠点攻略で発見された謎の装置が、破壊されていたことについてでな。君がもっと上手くやっていれば、破壊されなかったのではないか? 君の指揮官としての資質に、問題があるのではないか? と有力貴族の中から騒ぎ始めた者がいてな。それで、君を呼び出して査問すべきだとの意見が陛下に上申されたのだ」
その説明を聞いたユーウェインは、こう返事をする。
「確かに私の指揮に問題がなかったとは言えませんが、私としては最善を尽くしたつもりです」
その返事を聞いたウォルターズは話を続ける。
「全くその通りだと思う。なので、私もルーチス閣下もそのようにルーク陛下に申し上げて、君の指揮官としての能力に問題がないと陛下もその上申を却下なされた。だが、有力貴族もそれで引き下がらなかったようでな。ルーチス閣下に兎に角も君を要塞から呼びだして、話を聞けと圧力を掛けてきたのだ。閣下も話を聞くだけとして、今回の召喚命令を君に出したということだ」
「話を聞くだけですか?」
「そうだ。君に、今回の事に対して何ら罰はない」
「それで、よく有力貴族が納得しましたね?」
「納得はしていないだろうが、ルーク陛下が君を無罪としたなら、それ以上君の罪を鳴らすのは、自分達の立場も危ういと感じているのだろうな。だから、せめてオークが攻めてくる忙しい時に王都に呼び出して、君に嫌がらせをしてやろうと姑息な事を考えたのであろう」
「しかし、何故彼らは私にそんな事を?」
ユーウェインは自分が有力貴族と関わりがないのに、何故そのような事をされるのか疑問に思う。すると、ウォルターズから、このような答えが返ってきた。
「君の武勲が、自分達を脅かすと思ったのであろうな……」
「そのような事で……」
ユーウェインが少し呆れた顔で、思わず気持ちを吐露してしまう。
「君にとってはそのような事でも、権力欲に囚われた彼らにとっては大事なことなのだ。馬鹿な話だがな」
すると、更に呆れたという顔で、ウォルターズが答える。
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